「初詣一」
今日のお話は 閑話「謹賀新年」 の続きです
よろしかったらもう一度読んだ上で読んでみて下さいませ
因みに上記のお話し、時系列に齟齬があったので修正しました
明けて正月の二日。
昨日はお正月様として処遇され、一時も下に置かないような扱いをされた雨子様。
思えばこれ程濃密に神として持てなされたことなど、彼女の神様生涯の中でも、嘗て覚えが無いほどのことなのだった。
本地の神の身である時ならいざ知らず、人の身を得た神としてのこの境遇、何とも胸が熱くなるのを抑えることが出来ず、何度も何度も涙を流してしまった。
それがまたどうにも恥ずかしくて仕方無く、けれども祝いを受けている立場で部屋に逃げ戻る訳にも行か無い。なので一度は節子の胸に隠れ、もう一度は祐二の胸に、お仕舞いには拓也の胸の中にまで逃げ込んでしまう始末。
尤もその時の拓也の慌て様は、雨子様の比では無く、赤くなったり青くなったり、ついには天を仰ぎ見ることになったのは、ここだけの話なのだった。
「やれやれ、昨日は酷い目に遭ったのじゃ」
そう零しながら自分の部屋から出て来た雨子様、廊下でばったり祐二と出会う。
「本当に酷い目だった?」
そう言いながら祐二に顔を覗き込まれてしまう。
分かっていてわざとそう聞く祐二に、雨子様は口を尖らせながら言葉を返すのだった。
「いくら何でも正月早々、その言い様はちと酷いのでは無いかえ?」
そのまま放置すると、臍を曲げてしまいそうなことをいち早く察知した祐二は、直ぐに謝ることにする。
「ごめんごめん、別に虐めるつもりは無かったんだよ」
「それ位は分かって居るは」
そう言うと雨子様は暫し口を噤み、はぁっと息を吐くのだった。
「しかし…、神で在ることがあれほど照れ臭くなるなど、嘗て無いことじゃったよ」
それを聞いた祐二が少しだけ不安な面持ちで聞く。
「もしかして嫌だった?」
大きく首を横に振る雨子様。
「嫌なものか、じゃがな祐二。身内にあれをやられるのはの、ちと…、いや大分恥ずかしい。それでいて誰にやられるよりも嬉しいのじゃから、困った物なのじゃ。もう、もうもう、感情が抑えられんではないか?」
そう言うと、その時のことを思い出したのか、顔を赤らめる雨子様なのだった。
そうやって二人で話をしながら階下に降り、ダイニングに向かうと、そこには既に家族が揃っているのだった。
穏やかな様子で何事か話し合っている拓也・節子夫婦と令子に向かい、ゆっくりとした口調で話しかける雨子様。
「おはようなのじゃ。今日はその、普通で良いのじゃよな?」
すると節子が笑いながら言うのだった。
「あらおはよう。ところでなあに、その普通って?普通に神様する?」
思いも掛けないその申し出に、雨子様は苦笑しながら言葉を返す。
「もう勘弁するのじゃ」
その言葉を聞く成り、ダイニングに居合わせた者達は皆、一瞬顔を見合わせたかと思うと、楽しそうに笑い声を上げる。
全く節子には敵わない、そう思った雨子様。令子や祐二と目を合わせると、彼らは少しずつ同情するように笑みを変化させるのだった。
そんな三人に節子が声を掛けてくる。
「さあさ、そろそろ頂きましょうか?」
食卓には既にお正月の料理が所狭しと並べられているのだった。
「雨子ちゃん、後でお雑煮の時に手伝ってくれる?」
昨日はお正月様を熟した神様なのだけれども、今日は普通の娘として扱ってくれる、そんな節子のことが雨子様は、本当に大好きなのだった。
「心得たのじゃ」
二つ返事に嬉しそうに言う雨子様。
それを見た令子が何とも嬉しそうに、くすりと笑い声を漏らすのだった。
お雑煮に入れるお餅は勿論、和香様と咲花様のところから頂いたお餅。
縁起担ぎと言うことでこの二柱から頂いた、加護付きのお餅を食することになっている。
沙喜のところから頂いた餅は、それ以外の様々な形で食べられ、その美味さで大好評なのだった。
「頂きます」
皆で声を揃えて言うと、賑々しく料理を食べながら談笑をする。
普段でも当たり前にある光景なのだが、不思議と何故か厳かで、ああ、お正月なのだなと感じてしまうのは何故なのだろう?
そんな中、雨子様が拓也の酒杯にお屠蘇を注いでいると、節子からの説明がある。
「今夜は葉子のところが家に来るって」
その言葉を聞いた途端に令子が顔を輝かせる。
「ええ?と言うことは美代ちゃんに会えるのね?やったぁ!」
本来の年齢が葉子とさほど変わらない令子、どうやらその母性がいたく刺激されるらしい。美代に会うといつもべろんべろんに猫っ可愛がりするのだった。
それを見た雨子様が柔らかく言う。
「令子よ、可愛がるのもほどほどにの?」
すると令子、にっと歯を見せて笑いながら言うのだった。
「え~~、雨子さんがそれを言う?」
そのやり取りを聞いていた祐二が、思わず下を向きながら必死になって笑いを抑える。
彼の見るに二人ともどっちもどっちなのだった。
そうやってわいわい話をしているところに、節子が更にたたみかける。
「それでなのだけれども、明日はそう言う訳であちこちいけなくなるだろうから、今日の内に初詣に行っておこうと思うの。雨子ちゃんのところへは昨日済ませたのだけれどもね?」
「む?と言うことは和香の処かや?」
頷きながら答えを返す節子。
「そうね、お会い出来るかどうかは分からないけれども、去年の御礼と、今年もどうかよろしくのお願いを…やっぱりね?」
そう言いつつ同意を求める視線を、くるりと祐二に向かわせるのだった。
思わず苦笑を浮かべた祐二が答える。
「それはまあそうだね、特別なお餅も頂いたことだし…。でも母さんが行ったら絶対和香様出て来ると思うよ?」
「うむ、それは我も思うの」
「でもさすがにお正月、神社に唐揚げを持って行くのはねえ?」
そう言う節子の言葉に破顔しながら雨子様が言うのだった。
「お母さんなら持って行きかねんの?」
その言葉を受けて、お酒の所為か顔を大分赤くした拓也が言う。
「でもなあ、昨今どこの神社の境内でも、串に刺したのやら、紙コップに入ったような唐揚げがいくらでも売られて居るぞ?」
「「「!」」」
顔を見合わせる女性陣三人。
「え?作るの?」
と驚くのは言い出しっぺの拓也。その夫に節子が苦笑する。
「いくら何でもそんなに沢山持って行かないわよ?少しだけ、ほんの少しだけ…」
「持って行くんだ…」
呆れたように言う祐二。それはそうだ、唐揚げを持って初詣だなんて聞いたことが無い。
だがそれも家らしくて良いかな、そうも思う祐二なのだった。
「それとね雨子ちゃん、令子ちゃん」
とは節子。
「後で客間の方に来てくれる?」
突然の節子の言葉に一体何なのだろうと、顔を見合わせる雨子様と令子。
何故にと問おうとするのだが、節子はただ笑うばかりなのだった。
また少しずつですが話が動いていきます
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