「相談事」
お待たせ致しました(^^ゞ
大きな欠伸をしながら今朝は食堂へと案内された祐二。
いつも祐二達が食事していた広間は、餅つきの功労者達の倒れ伏した姿で、未だ散々たる状況なのだった。
そのせいもあって、普段は家族専用の場所となっているこの部屋に案内されたらしい。
食堂には大きなテーブルがあって、先に居た者達が少しぼんやりしながら、何やらぼそぼそと話をしているのだった。
「「おはよう…」」
祐二の姿を目にとめた七瀬と令子が、少しばかり眠そうに挨拶してくる。
傍らではその令子に寄りかかりながら、うつらうつらしている瀬織姫様の姿が、何とも幼気で可愛らしかった。
皆から少し離れた席では、笹姫と次郎太が寄り添うように席に着き、彼らもまた祐二の姿を見つけると声を掛けてくるのだった。
「「おはようございます」」
「おはよう」
挨拶を受けた祐二、皆に向かってそう返しながら無意識の内に周りを見回している。そう、未だ見かけない雨子様の姿を探しているのだった。
あの雨子様のこと、一人だけ寝坊をしているなど考えられないので、七瀬に向かい問いかけるのだった。
「雨子さんは?」
するとその七瀬、にっと笑みを浮かべると、丁度その時開いた扉の方を指差すのだった。
「お待たせ~」
そう言いながら出入り口から入ってきたのは、沙喜と雨子様なのだった。二人して朝食を山盛り載せたワゴンを押すのだった。
祐二には一体何があったのか分からない内に、沙喜と雨子様の手によって皿が次々と皆の下へと配膳されていく。
「何をして居る祐二、早う席につかんか?」
促されるままに席に着く祐二。
その目の前に、雨子様自身が色々と配膳していく。
「えっと、これは?」
すると雨子様が答えるより前に、沙喜が話しかけてくるのだった。
「こちらの料理は、特に祐二君の分は、雨子様が手ずから作られたものなのよ」
普段から時折雨子様も朝食を作るので、それを供されること自体はそう珍しいことでも無かった。けれども吉村家の朝は大体に於いてパン食なのだった。
しかし今、目の前にあるのは純和食、何とも新鮮さを感じるのだった。直ぐに雨子様の視線の先に気が付いた祐二は、早速箸を付けるのだった。
「うん、美味い!」
そう言う祐二に、嬉しそうにしながらも叱責の言葉を飛ばす雨子様。
「こら祐二、頂きますを言わぬか?」
そう小言を言う雨子様のことを、まあまあと宥めながら沙喜が言うのだった。
「その卵焼きは雨子様が、特に腕によりを掛けて作られたものなのですよ!」
沙喜のその言葉を、何ともくすぐったそうに聞きながら雨子様は言うのだった。
「何を言うて居る、我は沙喜の指図通りに調理しただけぞ」
だが沙喜は笑いながら言うのだった。
「何を仰るのです雨子様。沙喜はあくまで見ていただけ、混ぜるも足すも間合いを計るも全て雨子様のなさったこと、胸をお張り下さい」
「む…」
雨子様は見事沙喜に諭されると、言葉少なにそう言いながら可愛く照れるのだった。
「でも朝からどうして?」
雨子様がただ沙喜の下で料理を習っていたとも思えない祐二、その先を考えつつ尋ねる。
すると雨子様、祐二の耳元に口を寄せるというのだった。
「なに、少しばかり笹姫達のことを頼んで居ったのじゃ」
そうやって話す間にも、ワゴンの料理は沙喜の手によって皆に供されていく。
「この卵焼き、雨子さんが作ったって本当?」
目を丸くした七瀬が悔しそうに沙喜に言う。
「くぅ~~、これは帰ったら絶対に享受して貰わなくっちゃ」
その隣では令子が同様に丁寧に味わいながら言うのだった。
「ほんとねえ、これはちょっと凄いわね?」
その言葉を耳にした雨子様、違う違うと首を横に振りながら言うのだった。
「其方ら、言っておくが凄いのはこの沙喜じゃ。あくまで我は沙喜に習って作ったに過ぎんのじゃ」
だがそう謙遜する雨子様に、ぷるぷるとほっぺたを震わせながら、すっかり目を覚ました瀬織姫様が言うのだった。
「でも雨子様、これは本当に美味しいですよ?とてもとても美味しいのです」
そう言って無上の言葉で褒めそやす瀬織姫様。
だが彼女の目の前に既に卵焼きの姿はない。当たり前のことながら食べれば無くなってしまうのだった。
空っぽになってしまった皿の上を、意気消沈しながら何とも悲しそうに見つめている瀬織姫様。尾羽打ち枯らしたとはまさにこの状態を言うのか?
その余りに打ち萎れた様子が気の毒だったのか、見るに見かねた皆から、ぞくぞくと卵焼きが集まってくる。
「どうぞ」
そう言って一切れを瀬織姫様の皿の上にそっと載せる令子。それを見た七瀬が「私も!」と言って一切れ。それを追いかけるようにして祐二までもが載せて上げる。
途端にさっき鳴いていたカラスじゃないけれども、喜びを身体中に溢れさせながら、皿を持った瀬織姫様が沙喜の処へと走る。
「沙喜沙喜沙喜、見て見て、皆さんから頂いたの!」
その様子を全て目に納めていた沙喜は、我がことのように喜びながら、皆に向かって丁寧に頭を下げるのだった。
と、それを見ていた瀬織姫様、自分が未だ皆に礼を言っていないことに気が付き、急ぎ沙喜同様に頭を下げるのだった。
だが、下げられたのは頭だけではないのだった。
三切れの卵焼きが載った皿も斜めに成り、挙げ句中身がずり落ちていく。
「「あああっ!」」
っと悲鳴のような声を上げる令子と七瀬。
一瞬万事休すと思っていたのだが、其処へ皿を持った祐二が滑り込む、運良くそれはぎりぎりセーフのはずだった。
いや、卵焼き自体はセーフだったのだ。しかし祐二自身はそうはいかなかった。
卵焼きの危機を悟った雨子様もまた、同様に滑り込んできていたのだった。
「がつんっ!」
二人は猛烈な勢いで頭をぶつけ合わせてしまう。
その余りの衝撃と痛さに、二人とも頭を抱えて蹲ってしまうのだった。
傍らに居た者達皆に聞こえるくらいなのだから、その勢いがどれだけのものだったか想像がつくだろう。
さすがの雨子様も予期せぬ痛みのせいで、直ぐには手を打てずにただ頭を抱えるしかないのだった。
と、其処へその全てを見ていた笹姫が駆け込んでくる。
そして二人のおつむにそっと手を当てると、優しく白い光を発するのだった。
「「ふわぁ…」」
お陰で何とか痛みから解放された二人、ぺたんと尻餅をつくのだった。
「祐二、其方がそのように石頭とは知らなんだのじゃ、全くどれだけ固いのやら…」
「それは雨子さんもだよ、さすが神様?」
「そんなこと有るか!じゃがそれでも卵焼きを死守したのは褒めて遣わす。それと笹姫、本当に助かったのじゃ、感謝する」
雨子様の言葉に嬉しそうに微笑む笹姫。
「飛んでも御座いません雨子様、こんなことでもお役に立てたこと、本当に嬉しゅう御座います」
そうやって喜ぶ笹姫の言葉を受けた雨子様、無事だった卵焼きを受け取り、大喜びする瀬織姫の姿を見ながら、沙喜に言うのだった。
「そうじゃ忘れて居った沙喜、そう言えば笹姫にはこの様な治癒の力があるのじゃ。この村に滞在して居る間、皆の病を治して貰うが良いよ」
すると沙喜、少し考え込みながら言うのだった。
「そのような特別なことをお願いしても、果たしてよろしいので御座いますでしょうか?」
すると雨子様はにっこりと微笑みながら言うのだった。
「確かに永続的なことで有ったなら、笹姫の余力の問題もあるであろうし、公平性の問題もあったかもしれん。しかし此度に限って言うならば、暫し笹姫らの面倒を見る駄賃じゃ」
すると沙喜、口元に手を当て可笑しそうに笑いながら言う。
「これもお駄賃なので御座いますか?」
それを聞いた雨子様、つい先程までのことを思い起こしながら、自らも可笑しそうに言うのだった。
「くふふ、そうじゃ、駄賃じゃ」
そこまで言うと雨子様、笹姫に向かう。
「我は今日にて一旦帰宅する。以前も話した通り、戻り次第、和香に其方らの処遇について相談するつもりじゃ。それで其方と次郎太なのじゃが、あちらで対応が決まり次第呼び寄せるつもりなので、しばらくの間沙喜の下で世話になってくれ」
それを聞いた笹姫、しっかりとした口調で「はい」と言いながら頷いて見せる。
それを見た雨子様、更に笹姫に向かって言葉を継ぐのだった。
「ついてはその間のことなのじゃが、今ほど沙喜に話して居ったのを聞いて居たであろう?良ければ其方のその治癒の力、この土地の者達の為に使ってはもらえんかの?」
雨子様の言葉を聞いた笹姫は直ぐにも答えを返す。
「勿論否やの言葉は御座いません。喜んで力を使わせて頂きます」
「沙喜、聞いた通りじゃ」
雨子様の言葉を聞くと同時に、沙喜は笹姫の前に膝をつこうとするのだが、即効で笹姫に止められる。そして「笹姫様…」と尊称を付けかけると、これまた忽ちの内に訂正されるのだった。
「どうかどうか沙喜さん、様付けは勘弁して下さいませ」
そう言う笹姫にそっと並ぶと雨子様も言う。
「そうじゃぞ沙喜、序でに我も様付けは…」
だがそれだけはと沙喜に、強力に反論を喰らうのだった。
「雨子様!沙喜はそれだけは絶対に飲めません」
そうきっぱりと拒絶の言葉を述べた後、沙喜は笹姫に言うのだった。
「この村には何かと体調不良の者も多く居ります。笹姫さん、どうかよろしくお願い致しますね?」
そう言う沙喜に向かい、笹姫は丁寧に頭を下げながら言う。
「こちらこそ改めてお願い致します、どうか暫しの間よろしくお願い致します」
「もちろんで御座います」
沙喜がそう言うと笹姫と二人にっこり微笑み合うのだった。
その笹姫、少し声を落とすと密かに次郎太のことを見ながら言うのだった。
「ついては沙喜さん、先程の卵焼きの作り方、私にもご教授頂けますか?」
それを聞いた沙喜、目を丸くしながら即座に答えを返すのだった。
「勿論ですとも…」
非日常と日常の繰り返し、それは普段でも同じことだと思いますが
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