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天露の神  作者: ライトさん
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団欒

打てども打てどもストックは溜まらず、いつになったら余裕が持てるのでしょう?

 僕達が賑々しくそうやって騒いでいる間にも夕食の支度は進む。最近になって始めたこと何度開けれども、雨子様も可能な範囲で極力料理を手伝っている。


 最初の内は野菜一つ切るにしても見当違いのことをしていたりもしたが、(まな板が一つ犠牲になったのは内緒の話)今では母さん以上の包丁の使い手になっているし、それ以外の料理の手順も次から次へと物にしていっている。


 本人曰く、有象無象の中から満足のいく物が出来てくるのが最高に面白いのだそうだ。今はまだ一人で全ての料理をこなすことはしていないが、やがてにはやって見るそうだ。


 実は母さんこそが雨子様の上達をもっとも喜んでいる。曰く覚えがとても良いので、教えていて楽しいのだそうだ。


 余談はさておき、そうこうしている間にすっかりと夕食の用意が調ってしまった。父さんは何でも今日は帰りが遅くなるとのことで、今ここに居るメンバーだけでの夕食となる。


ここに居るだけと言っても、ユウや小雨を含めると総勢六名、実に賑やかだ。


「「「「「「いただきます」」」」」


 残念ながらユウと小雨については余りに小さいので、別あつらえのちゃぶ台で食することになる。


 前に七瀬が来た時に、ユウにも食事を出して上げた母が、ユウ専用にと可愛らしい食器をそろえていたらしく、二体の人形達は仲良くおままごとのような食事を楽しんでいる。


 その様子をチラチラと見ながら、雨子様はやっぱりしきりと首を捻っている。


「雨子様、気になりますか?」


「うむ、二回が二回ともじゃぞ?我はこやつらに食事を摂るような細工はして居らん。にもかかわらずこれじゃ。しかも実に美味そうに喰って居る」


「美味しそうに食べるのって何か良いじゃないですか?」


僕のその台詞に雨子様は、大きく頷いて見せた。


「そうじゃな、仲良き者が集うて美味きものを食す。これは一つの大きな幸せじゃの。我は神として長年生きてきたが、この世に肉の体を持たなかったが故に、この楽しみを知らずに居った。何とも勿体のない話じゃ」


 そう言いながら雨子様は美味しそうにご飯を頬張り、にこにこしながら咀嚼している。確かにこう言う喜びがあってこそ、食べ物に対するありがたみも湧こうというものだし、自然や人の手によって生じる様々なものに対して、感謝する気持ちにも成るのかも知れない。


 まさに団らんというのが相応しい食事の一時が終わり、皆満足げな表情でお茶を啜っている。この瞬間って一日の内でもっとも穏やかな気持ちになれる時かも知れない。


「さて、そろそろじゃな」


 ことりと湯飲みをテーブルに置くと雨子様が口火を切った。


「母御と葉子は和香よりいくらか話を聞いて居るから事の次第、大凡分かって居るじゃろうが、七瀬も居ることじゃし、もう一度掻い摘まんで話をせぬことにはな」


 そう言いながら雨子様はユウと二人?でふざけて転がっていた小雨の襟首を捕まえると、自分の膝の上に載せた。


「まず最初にこやつの説明をせねばならないの」


 そう言うと雨子様は小雨の頭をよしよしと撫でた。


 それが羨ましく思えたのだろうか?ユウもよっこらしょと七瀬の膝に上がり込むと、彼女の手を持って自分の頭の上に置こうとしている。

気が付いた七瀬は吹き出しそうになりながら優しくその頭を撫でて上げていた。


「既に知っていると思うが今一度の説明じゃ。こやつ、名は小雨と言う。本人はどうも舌足らず故、小雨ぇ(こしゃめ)といつも言いおるが、あくまで小雨が正しい」


 名前の説明を雨子様が余りにも真面目に言うものだから、葉子ねえがぐっと下を向いた。その表情はよく見えないのだが、間違い無く笑いを堪えている。


 そんな葉子ねえのことをちらりと見た雨子様は、ほっとため息を小さくつくと言葉を継いだ。


「こやつには我の力の少なからぬものを渡してあるが故、相当の力を使うことが可能になって居る。一応は我の分霊なので、亜神の格付けといったところであろうか?」


と、「いぇい!」と急に言うユウ。


「ユウよ、いかがした?」


不思議に思った雨子様が問う。


「雨子様、亜神と言われましたよね?」


「うむその通りじゃ、それがどうしたと言うのじゃ?」


 するとユウはひょいとテーブルの上に飛び乗ったかと思うと、思いっきりふんぞり返った。


「亜神、って事は亜が付くから神様に次ぐってことですよね?」


「まあそうじゃの?」


と怪訝な顔をする雨子様。皆も揃ってそのやりとりを見守っている。


「そして僕は付喪神!って事で神様ですよね?だからこいつより僕の方が上…」


そこまで言いかけたところで駆け寄ってきた小雨のパンチで吹き飛ばされていった。


「なんてこと言うでしゅか?痩せても枯れても小雨ぇは雨子しゃまの分霊、れっきとした神の眷属でしゅ。付喪神のような名ばかりの神とは違うのでしゅ」


「それ本当なんですかぁ?」


 吹き飛ばされた先でユウが何だかとっても情けなさそうに言う。

その様が余りに打ち萎れていたので何だか可愛そうに思えてしまうくらい。


「む、厳格に言えばそれはそうなのじゃが…」


雨子様もきっとユウのことが気の毒に思えたのだろう、微妙に言葉を濁している。


「じゃがな小雨、この世に先に生まれ出でたのはユウの方が先じゃ。つまり先輩という奴じゃな?しかもそなたら二柱とも我の手により生み出されたもの。まあユウは既に核となるものが存在して居ったが、生み出されて固定されたという意味では小雨と変わらんしの。故に仲良くすることを命ずる」


そう言うと雨子様はユウと小雨の首根っこを捉えてテーブルの上に載せた。


「色々と異なることも有るかもしれぬが、そなた等は我が生み出しし兄妹あにいもうと兄妹きょうだいなのじゃ。仲良くすることを確と命じるぞ」


「分かった」

「分かりましゅた」


 そう言うと二柱、もう面倒なので二人と言うことにする。二人は互いに恥ずかしそうに互いを見つめ、きゅうっと握手を交わした。


「ユウと言います」


「小雨ぇでしゅ」


「「よろしく」」


まったく、やれやれである。


「さて思わぬところで脱線してしまったが、話を戻すとするか」


 そう言うと雨子様は僕達がこれまで辿った道筋をわかりやすく丁寧に掻い摘まんで説明して見せた。


「…と言うことでまだ相手の素性はまったく分からんのじゃが、万が一にでも敵意を持って居れば我に関わるもの全てに危険が及ぶかも知れんのじゃ。一応この家を中心にある程度の手立てを尽くしたが、中でももっとも影響を受け易いであろう葉子に分霊を付け、親子とも守り切ることを決断した。それが小雨なのじゃ」


「あらまあ雨子ちゃん、じゃあ小雨ちゃんは葉子のガードマンという訳なのね?」


「ガードマン?」


とはどんぐり眼をぱちくりさせた小雨。


「小雨ちゃん、ガードマンというのは守る人、そうね守人って言うことで良いかもね」


と、丁寧に説明して上げる母さん。


「守人でしゅか?なんか格好良いでしゅ」


するとそれを聞いていたユウが膨れて地団駄をふむ。


「ええ?小雨だけ?なんかそれずるい!」


そんなユウに雨子様はにっこり笑いかけて言う。


「案ずるでないユウよ。そなたにもちゃんと役割を与えるつもりぞ」


 そう言うと雨子様は手で何かを包み込むような仕草をした。

一体何が起こるのか?皆でそう思って固唾を飲んでいると、その手の平の間に小さな光りが灯った。

そしてその小さな明かりがふいっと宙に飛び上がる。


「ユウよこちらに来るのじゃ」


ユウは雨子様に言われるがままその側に行ってじっとした。


 雨子様はユウのその眉間の部分にそっと右手の人差し指を当てる。するとその部分に小さな目印のような星印が現れる。


「これなるもの、名をユウと言う。我、雨子の権限にて、守人に任ずるものなり。来たれ辰星しんせい、守人の力となれ」


 雨子様がそう唱えると、宙に浮かび輝いていた小さな光りがすぅっとユウの元に近づくと、眉間の星印からその中に沈み込んでいった。


と、その瞬間、雨子様が微かに目を見開いた。何かあったのだろうか?


「うむ。これにてユウもまた守人となった。ユウ?」


「はい雨子様」


「そなたに役を任ずる」


「はい」


そう言うとユウは雨子様の前で跪いた。こういう所はユウの方が小雨より大分お兄さんかも?


「これよりそなたは七瀬あゆみの守人じゃ。あらん限りの力を尽くして主の身を守ることを誓え」


「はい、雨子様。僕はこれなる主を我が身を掛けて守ること、ここに神明に掛けてお誓い致します」


「善哉」


 雨子様に命じられて役目を受けたユウは、何だか妙に凜々しく見える。此でこんなにほやほやと可愛らしいクマのドロイドで無かったら、等とも思ってしまうが、此は言わぬが花である。


「あ~~何だかユウだけ格好良いのでしゅ」


今度は小雨が少しばかり膨れている。


 残念ながら雨子様はなかなかそれに気が付いてくれない。

そこで仕方なくそっと雨子様の脇をつついて目配せをする。


「あ、うむ。なんじゃ、小雨よ、改めてそなたにも守人の任を授ける。心して葉子とその子、更には家族をも確と守り切るように」


「了解したのでしゅ」


 そこまでやって初めてこのちびさん達はようやっと満足してくれたのだった。


二人揃って手を繋ぎ、くるくる回りながら


「「守人♪守人♪」」


等と言いながら、丸で踊るように跳ね回り、喜んでいる。


「お疲れ様」


そう言いながら雨子様に淹れ立てのお茶を渡す母さん。


「本当に疲れたのじゃ」


と少ししょぼくれる雨子様。

そんな雨子様の頭をよしよしと撫でて上げる母さん。最近の母さんは雨子様のことをすっかりと娘扱いしている。大丈夫なんだろうか?


 でも雨子様のことを見ると、ちょっと顔を赤らめつつももの凄く嬉しそうにしている。ま、これはこれでいいのかも知れない。



今日もまた拝読頂きありがとうございます。

皆様が読んで下さることこそが、私の次への力となっております、


そしてもし少しばかり手間を掛けても良いよと仰るのでございましたなら、ちょこっと星の数などでご評価頂けたましたならありがたいなと思います

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