雨子様と葉子ねえ二
この二人本当に仲いいなあ
雨子様からの一頻りの説明が終わった。父さんも今回のことに関しては色々と気にしていたようだが、それについては母さんの方から話すとのこと。
後、昨日と今日、学校を休んだことについては母さんより学校側へ、風邪で熱を出したと言うことでフォローが入っているそうな。母さん感謝。
でも僕と雨子様同時って言うことで物議を醸さなかったら良いのだけれども。
それから和香様は僕達の無事を確認した時点で帰られたとのこと。一度謝りに行かないといけないかも知れない。
因みに母さん曰く、病欠と言うことなのだから今日一杯は家の中で大人しくしていろとのこと。これについては否応は無かった
話の終わった後暫しの間、雨子様に葉子ねえが絡んでいたが、雨子様は苦笑しつつも葉子ねえの言葉に頷いている模様。一体何を話しているんだか…。
「ところで祐二よ、先達てユウを拵えた時に貰い受けたような、なんと言うたかの?CPUじゃったかの?あれを手に入れることは出来るかや?」
早速思案したものの思い当たる物が無い、はてさてどうした物か?
「残念ながら雨子様、手持ちの品はあれで最後だったと思います」
「ふむ、それは困ったの。今の我であれば無くとも作れないでも無いのじゃが、それでもやはり格段の手間が掛かる。何とか手当は出来んかの?」
すると側に居て会話に耳を欹てていた葉子ねえが参加してきた。
「何々?何かの部品が居るのかしら?」
「うんそうなんだ。パソコンに入っているCPU、あれがあると雨子様の作ろうとする物が楽に作れるんだって。あいにくと僕の手持ちはもう無くって…」
葉子ねえは少しだけ思案した。
「ねえそれってパソコンがあれば良いって言うことなのよね?」
「うん、パソコンがあればその中から部品取りをすることになるね」
「なら私が昔使っていたのが部屋のクローゼットにおいてあるわよ?」
「でも部品取りしたらもう使えなくなってしまうけれども良いの?」
「もう何年も前の物だし、故障してしまって立ち上がらなくなっているから使って貰っても良いわよ。えっと…ただし内蔵しているハードディスクは廃棄してくれるかしら?」
僕は思わず吹き出してしまった。
それを見ていた葉子ねえはぽかんとする、
「なあに?いきなり笑い出して?私そんなにおかしいこと言ったかしら?」
「いいや、葉子ねえが直接おかしいことを言った訳じゃ無いんだ。その、パソコンのデータを廃棄してくれって言う台詞、お宅達の決め台詞としてミームになっているんだよ」
「「??」」
葉子ねえと雨子様、二人の目がクエスチョンマークになっている。
「世間のお宅達は皆自分の趣味に従って、パソコンのハードディスクとかの中に日々恥ずかしいデータを蓄積しているんだ。それで彼らは言うんだよ、俺が死んだらパソコンは処分してくれって。中の恥ずかしいデータを自分の死後見られたくないんだろうね」
僕がそう説明すると急に葉子ねえが慌てだした。
「わ、私のパソコンには何も恥ずかしい物なんて入っていないわよ?」
「…」
それに対して僕は何も言わず黙ったままで居た。
「えっと、その、もう…分かったわよ、言えば良いんでしょ?誠司さんへ出そうと思って出せなかったラブレターが入っているのよ。もう!これ誠司さんに言ったら承知しないからね?」
そう言うと僕のことをきっと睨む葉子ねえ。酷いなあ、僕は何も言っていないのに勝手に白状して勝手に睨むなんて。
端で下を向いてしきりと肩を揺らしている雨子様。うん、これは間違えなく笑いをこらえている、ギルティだ。
葉子ねえの目にも明らかだったようだ。
「雨子様、笑っているでしょ?」
葉子ねえに責められる雨子様、目が泳いでいる。
「な、なんのことかや?葉子、おま…」
葉子ねえが雨子様の脇に手を突っ込んでくすぐり始めたのだ。
「や、止めよ、よ、葉子?クゥハハハハ…頼む葉子、ゆ、祐二、葉子を止めてくれぬかハハハハ…」
普通であれば葉子ねえの手を振り切って逃げることなんて容易いことである。けれども雨子様は葉子ねえのお腹のことを慮りながらなものだから、逃げるに逃げられないままにくすぐられまくっている。
暫く経って葉子ねえの許しを得た頃には息も絶え絶えになっていた。
「…ふぅぅぅ、我は初めて知ったぞえ。人の身が笑いで以て死に辿り着くこともあり得るのだと…」
そう言うと雨子様は脱力しきって床に座り込んでいた。葉子ねえはというとなんだか妙に満足しきっている。
「もう、酷いのじゃ葉子は…」
雨子様はぷんすかしながらもとっても幸せそうな笑みを浮かべている。
思うのだけれども、雨子様は神様としてはこんな風に笑うことなんて無かったのじゃ無いのかなあ?
「じゃあ取ってくるわね?」
そう言うと葉子ねえはよっこらしょと立ち上がる。心配してのことかその直ぐ後を雨子様が付いていく。
「じゃあ僕は部屋に戻っているよ」
「うむ、では受け取ったら我もそなたの部屋に参るとしよう」
三々五々僕達は二階へ通じる階段を上っていった。
部屋に戻り時計を見ると時刻はもうすぐ五時になろうかという時間。いつの間にか結構な時間が流れていた。
葉子ねえは雨子様のことを神様として尊敬しつつも、出来るだけ対等な存在として相対していきたいと思って居ます。多分彼女には雨子様の孤独という物が、存外分かっているのかなあ?




