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天露の神  作者: ライトさん
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人の思い神の思い

立場身上等が異なれば、同じ物を見たとしても別の思いが生まれたりするもの。まあだからこそ人の世は面白いのかも知れませんね

 固かった場の雰囲気が和らぎ、それぞれがその思いの丈を述べ合い、温かな言葉の交換で緩やかに心の奥のわだかまりを解かした後、僕達は平かな気持ちでリビングで寛いだ。


 気持ちの整理が出来たのか、今一度雨子様が何か語ろうと心の中を整理している。

僕達は黙ってその時が動き出すのを待っていた。


「我ら神は、いやあくまで我においての話じゃな。悠久とも思える時の中、そなたら人の子らが想像出来ぬほど数多くの物を見てきた」


 そこまで語ると、雨子様は母さんに勧められた茶で喉を潤した。


「その数はそなたらにとって無意味とも言えるほど膨大な物じゃ、故に多くを知って居るとある意味自負して来おった。じゃがの、それには大きな問題点があることを見逃して居った」


「問題点ですか?」


僕には想像も出来ない大きな問題点に強く好奇心をそそられた。


「そうじゃ、我らはそれらの事象の多さ故に、それぞれに心を置くこと無くただの記録として個々の情報を持っていたに過ぎないのかもしれん」


 今はまだ雨子様の話していることの意味が掴めない僕達三人は、息を詰めて更に雨子様が話を繋げるのを待った。


「情報は多くなれば成るほど機械的に分類され、場合によってはただの記号として処理されがちとなる。するとその時点で元々の事象が持っていた数多くの情報を切り捨ててしまうことにも成る。勿論切り捨てずに持つことも考えるのであるが、では一体どこまでの解像度を持ってしてその情報を取り置くのか?残念ながら我らをして無限の記憶容量を持つ物では無いが故、どこかで線引きをしなくてはならぬ」


 僕は自分のパソコンの記憶容量を考え、はたまたそこに記録されている様々な動画や画像、音楽の情報量について考えを及ぼした。


「容量に限界が有る以上それは仕方の無いことですよね」


「うむ、祐二の言う通りなのじゃ。じゃが長くを生きてきた我は、それまでに得た経験則において、多くの情報を切り捨てることに慣れきって居る。特にこうやって人の間で暮らすに当たって、新たに終えた様々な情報の重要性が、未だとんと我の価値観と結びついて居らん」


 そこまで言うと今一度雨子様はゆっくりと茶を啜った。啜り終えてまだ飲みたいと思ったのか、ちょっと寂しそうな顔をしながら湯飲みをのぞき込む。

そこへ間髪入れず母さんが入れ直した茶を注いで上げる。


 雨子様は一瞬何故と言ったような表情をした後、母さんに向かって丁寧に頭を下げた。


「母御のこの気遣いは、神慮の域に達して居るの」


そう言うと雨子様は破顔した。


「さて続きを話さねばの…。要は価値観の齟齬なのじゃが、齟齬があることを認識することが出来るような事態があるまで、なかなかにそれが有ること自体理解しにくい物じゃ。よって我は自身の今までの経験則に基づいてのみ物事を判断し、ことの是非を考える時に、余りに単純化してしまい、本当に大事なこと、大切なことを見逃してしまった」


 僕は雨子様の述べていることを必死に成って受け止め、考え、何とか自分の理解出来る領域に持ち込もうと奮闘した。


「雨子様、それはこう言うことなのですか?」


 僕は頭から湯気が立ち上るのを感じるような思いをしながら雨子様に問うた。


「うむ、祐二よ、ゆうてみるが良い」


 雨子様は優しく微笑みながら僕が語を継ぐのを待ってくれた。


「えっと、なんて言うかもの凄く大雑把に成ってしまうのですが…」


「善き哉」


「雨子様は僕達のことを考えて、有らぬ限りの手を打つべく和香様の所にも行き、打てる手立てを打って下さろうとした。けれどもその手を打つことで逆に僕達の安全性を逸することに成ってしまった。神様である雨子様としてはその誤謬が許容出来なかったのですね?」


「そうじゃな、まったく以て恥ずかしいことよの。自らの正しさに慣れきってしまって、正しくない自身を許容出来なくなって居ったのじゃ。今から考えるともう赤面するようなことじゃの」


そう言うと雨子様は自らの手で顔を覆った。


「そなたらの言葉で言うならそれは…馬鹿みたい…じゃったかの?」


そうやって顔を隠している雨子様に葉子ねえが歩み寄り、その頭をよしよしと撫で始めた。


「これ葉子、撫でるでない、撫でるでないと言って居るのにもう…」


でもそう言いながらも雨子様はまんざらでも無い表情をしていた。


「特にの、我の命を永らえさせてくれた祐二をも失い兼ねんと思った時に、我の中の論理を受け持つ部分が何と言うかその、暴走・破綻してしもうた」


そう言うと雨子様は何とも口惜しそうな、可愛らしいふくれっ面に成った。


「お陰で更に祐二の命を危険に晒すなど、本末転倒、何と言う事じゃ。我はもう穴が有ったら入りとうなった」


 雨子様の頭上では、尚も撫でようとする葉子ねえの手と、それを防がんとする雨子様の手が空中戦を演じている。

 母さんはその有様を見て、なんなのこの子達と言う表情をしながら、ととと葉子ねえの所に歩み寄り、引き取っていった。


「我はつくづくと学んだのじゃ。正しいことと正しく無いこと以外に他にも色々ときちんと考えておかなくては成らぬことが沢山有ると。ある意味そなたら人の方が毎日曖昧なことだらけ故、上手く物事を判断することが出来るのかもしれんの」


僕は雨子様のその意見に首を横に振った。


「いいえ雨子様。僕達の判断なんてそれはもうもの凄くいい加減です。価値判断の基準点が人ごとにまるっきり異なっているし、社会環境によっても変化する。正しく判断する可能性はあるかも知れませんが、とてもじゃないですがその判断が絶対正しいなんて思えることはなかなか無いですよ」


僕がそう言うと雨子様は笑った。


「祐二はなかなか自分たち自身に手厳しいの?」


「だってもう考えたら至らないことだらけなんですもん」


「我も気が付いてしもうた、まったく同じであることをの。これから我は祐二やその他の者から色々学ばせて貰おうと思うて居る。よろしく頼むの」


「そんな…よろしく頼むなんて言われても、物事を判断する為の元に成る情報の蓄積量自体が余りにも違いすぎます。雨子様に教えたりなんてそんな、出来ないですよ?」


「それに付いてはおいおい摺り合わせていけば良いと思うの」


僕は黙って頷いて見せた。母さんは葉子ねえもそれぞれに何やら得心の行った顔をしている。


「さてこの話はここ迄じゃ。また何かあった時にはそなたらにきちんと相談するとしよう」


 そう言うと雨子様はなんだか晴れ晴れとした表情をしていた。


 ん、雨子様はそんな表情が良い。雨子様が悩んでやつれたり悲しんだりしているのは見たくなかったし、適うならいつも笑っていてほしいなあ。等と考えていたら…


「祐二よ…何をしげしげと我の顔を見て居るのじゃ?」


怪訝な顔をした雨子様が問いかけてくる。


「いえね、雨子様はやっぱり笑っている時の方が良いなあって思って…」


「これ祐二よ、我をからかうでない!」


 そう言いながら顔を赤らめる雨子様。そしてそれを見ながらによによする母さんと葉子ねえ。ん?一体どうして?

美味しい御茶が飲みたいな等と思ってしまいました

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