雨子様の家族
事態はまた新たに少しずつ進展していきます。人と神様の関わりが緩やかに変化していく、その行く末はどうなっていくのでしょうね
細かいことはともかく、最終的にはシャワーを浴びるなどでしてさっぱりとした僕達は、お腹をペコペコに減らしてダイニングへ集まった。
「焼きめしで良いかしら?」
母さんがまるで何事も無かったかのようにお昼を勧めてくれる。
「ありがとう母さん僕はそれで。雨子様はどうされます?」
「手間を取らせて誠にすまぬ、母御殿それでお願い出来るかや?」
手早く慣れた手つきであっと言う間に二人前の焼きめしが出来上がり、僕と雨子様の前へと配膳される。
「どうぞ」
と言って冷たい水の入ったコップを置いてくれたのは葉子ねえだった。
「頂きます」
僕達はそう言うと熱々の焼きめしを頬張った。
「美味いの」
雨子様が目を細めながら何度も口に運び、味わい堪能している。
特に言うようなことでは無いけれど、何かを食べて美味しいと思える。これもまた生きていると言うことの証なのかも知れないなあ。
「ご馳走様でした」
お米の一かけも残さず綺麗に平らげた後、コップの水を飲み干し何だかようやっと一心地付いた気がした。
それを見た母は、僕達が食器を下げようとする前にさっと取り下げ、あれよという間に僕達の前に煎茶の入った茶飲みを置いた。
その僕達の前に母と葉子ねえが座り、のんびりと寛ぎながらお茶を啜る。
うん、もう何時話し始めてくれても良いよと言う体制だ。だが僕達は、と言うか雨子様はそう言う訳にはいかず、緊張した面持ちでいる。
誰が真っ先に先鞭を付けるのか?と、真っ先に動いたのは雨子様だった。
食卓の椅子から離れると、リビングの方に向かい、正座をすると手を付き静かに頭を下げた。
「母御よ、そなたの大事な御子の命を危険に晒し、申し訳なかった、すまぬ。そして祐二よ、そなたもじゃ、その命を賭してまで我を救わんとしてくれたこと、心より感謝する。更には葉子、要らぬ心労を掛けてしまったこと心より詫びる」
そうやって頭を下げた雨子様の言葉を誰も遮ること無く最後まで聞き終えた。
その後母が動いた。
母は雨子様の側に座るとそっとその背中をさすり、身を起こさせ、そしてその手を握った。
「雨子様、何にも謝って下さることなんか無いのですよ」
そう言うと母がハラハラと涙を流す。
「私たちは雨子様が一生懸命に成って私達のことを思って下さっていることを知っています。それにこうしてみればみんな元気に笑えるじゃないですか?」
そう言って静かに抱きしめてくれる母さんに、雨子様は少し照れながらきゅっとしがみ付いた。
「それにね、雨子様、いいえ雨子ちゃん。あなたはもう私達の家族なのよ?一人だけ苦しんだりしてはいけないのよ?」
そんな風に言う母の言葉に雨子様はぽかんと口を開けて見とれたようにしている。
「すまぬ、母御よ。今何と?今一度申してはくれぬか?」
そう言われて母さんはふふと笑いながら言った。
「雨子ちゃんも私達の家族だって言ったのよ」
雨子様は大きく息を吸って目を見開いた。
「わ、我もそなたらの家族だと申すか?」
「「「はい」」」
僕と母さんと葉子ねえ、三人の別々の口が同時に肯定の言葉を綴った。
雨子様の目が母さんを見、葉子ねえを捉え、そして最後に僕を見据えた。
「のう祐二よ、我はこの家に来てからは色々なものを貰ってばかりじゃ。こんなに貰ってばかりで良いのじゃろうか?」
僕はそんな風に言ってくる雨子様にことを見つめながら優しい気持ちで言った。
「いいんじゃ無いですか?別に減るもんじゃないし…」
「へ、減るものでは無いとは何と言ういいようじゃ…」
ちょっとむっとした面持ちで雨子様が言う。
「あのね雨子様、僕達が差し上げているものは実際減るものじゃないし、それを差し上げて雨子様が嬉しそうにしてくれればくれるほど、自然にそれは僕達の元に返ってくるんです。しかも何倍にも増えてね」
「何と、そのようなものを我は貰って居るのか?じゃがそれはこの世界の法則に反しているぞ?」
「いいえ、ちっとも反していないんですよ。ただしこれには大事な前提があります。それは送る側と送られる側の心がそれぞれ繋がっているってことなんです」
「あ、そんな…うん、そうか、何となくでは有るが分かったような気がする…」
そう言う雨子様の顔は既に満面の笑みに彩られていた。
母さんは今一度そんな雨子様をしっかりと抱きしめるのだった。
良く思うのですが、人にとってそれぞれ価値観が異なるので一概には言えないのですが、何かを判断する時に○×と言うか物の是非を定めることも大切ですが、それ以外にも大切で有るか否かというそう言う側面もとても大事だなって思います。言い争いがあった時など、無理矢理是非を決めることよりも他に、大切な何かを失うことは無いのか?考えてみたいなあなんて思います




