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天露の神  作者: ライトさん
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「抱擁」

遅くなりました


 さて、ニノが人として初めて吉村家に来た日の夜、改めて彼女に対する歓迎会が催されるのだった。


 尤も当人が、余り大げさにされるのは困ると恥ずかしがるので、普段の夕食をほんの少し豪華にした程度に成っている。


 けれども現在のニノにとっては、十分過ぎるくらいなのだった。


 節子や雨子様達の手に寄って、次々と並べられた料理の数々を目にし、それぞれの味を想像しては期待に胸を打ち振るわせているのだった。


「え~、新たに家族として迎え入れるニノちゃん。改めてようこそ吉村家へ!」


 拓也が皆を代表して音頭をとり、一斉にグラスを掲げて乾杯をする。


 ニノ自身は未だこう言った経験がないせいか、どうしたらよいのかとおろおろしているのだが、隣に居た雨子様にひょいと手首を掴まれ、皆と共にグラスを掲げるのだった


「乾杯~!」


 こうして一般家庭の中に入って、何をやるにも初めてというニノは、乾杯をしてくれる皆と互いにそっとグラスを触れ合いさせながら、既にもう感極まっているのだった。


 ぐすぐすと鼻を鳴らし始めながら、またも溢れるニノの涙を、あらあらと声を掛けながら優しくハンカチで拭って上げるのは節子なのだった。


 そして拭き終わると、そっとそのハンカチを手渡す節子。


「?」


 目顔で問うてくるニノに、にっこり笑みを浮かべながら言う節子。


「あなたにプレゼントしようと思って居たハンカチなの、そのまま使ってね」


 恐らくそのことが嬉しかったのだろう、一端は収まり掛けていた涙がまたぞろ溢れ出してしまう。


「やれやれ困ったものじゃの?」


 隣でそれを見ていた雨子様、ニノの手からそっとハンカチを取ると、またも溢れる涙を優しく拭って上げるのだった。そして拭いながら雨子様は祐二に言う。


「こやつは、知識こそ誰にも負けぬ程にあるのじゃが、ちゃんとした心と体を取得したのはつい先程のこと。ある意味生まれたての子供にも近しい物があるのじゃろうな」


 そしてその場に居合わせた者皆に丁寧に頭を下げると言うのだった。


「どうか暫しの間、そう言う目で見てやってはくれぬかの?」


 そんな雨子様の願いを静かに聞いていた節子、柔らかい笑みを浮かべるという。


「なあに雨子ちゃん、何だかお姉さんみたいね?」


 節子にそう言われた雨子様、束の間節子のことを見つめていたかと思うと、苦笑しながら言う。


「確かにそうかも知れぬの?何と言うか今のこやつ、放っておけんのじゃ」


 するとニノを挟んで、雨子様の反対側に座っていた令子も言う。


「あ~~、それ分かるかも?放っておけない感満載?」


 するとそれを聞いていた祐二が思わず吹き出す。


「見掛けは丸っきり逆なのにね?」


 その台詞が可笑しかったのか、その場に居合わせた者達が全員声を上げて笑う。

勿論ニノもその中に入っていたのは言うまでも無いことだった。


 そして笑いながら雨子様が令子に向かって言う。


「人としての経験という意味では、令子は我よりもお姉さんじゃしの?」


 だが令子はきっぱりとその意見には反対の意思を示す。


「やだ!」


 それを「どうして?」と、不思議に思った祐二が尋ねると、令子は人差し指を顔の前でちっちっちと振りながら言うのだった。


「折角この可愛い姿になって、蝶よ花よと持て囃されているのに、その地位を手放してなるものですか?」


 この台詞、技と真剣な顔をして言うものだから、居合わせた者達は一瞬呆気に取られ、その後、令子の意を汲み取って更なる大爆笑になるのだった。


 そうやって家族揃って大いに笑いさざめいている中、ニノは小さな声で雨子様に話しかけるのだった。


「雨子様…」


 そう言いつつも言葉に詰まるような風を見せているニノ。


「何じゃニノ?」


 優しい顔つき、例えるなら正に姉のような雰囲気を纏いながら、ニノの言葉の次を促す雨子様。


 そんな雨子様の言葉に対してニノは、込み上げてきたものを無理矢理飲み込むようにしながら言うのだった。


「私、人間達の家族という有り様、ただ共に暮らすだけの人の集まりのように思って居ました…。でも…、でも全くそうでは無いのですね?」


 その言葉を聞いて静かに頷く雨子様。その視線の先には節子が居る。


 彼女は令子の言葉に他愛の無い突っ込みを入れ、それをきっかけに二人できゃーきゃーと笑っているところなのだった。


「うむ、かつては我も其方と同じ様なことを思うたものじゃ。勿論この家のような者で有れば、外から見ていてもある程度のことは知ることが出来る。じゃが本当のところは内に入らねば分からんことが多い。それも非常に多いの」


「はい…」


 静かに相槌を打つニノ。


「無理矢理にでも娘にしてくれた節子には本当に感謝して居る。でなかったら…」


 少し遠くを見つめる雨子様。


「でなかったら?」


 その言葉の先を聞きたくてニノが繰り返す。


「うむ、我は家族のなんたるかも知らずに、祐二と夫婦と成って居ったであろうの…。今考えると本当に恐ろしい」


 未だそう言った機微については疎いニノ、ほやんとして良く分からぬと言った感じで問う。


「そうなのですか?」


 そんなニノのことを見ながらゆっくりと頷いて見せる雨子様。


「見掛けは人の姿を取って居ったが、中味は全く異なる我は神ぞ?じっくり人と成り行きて恋をするようには成ったが、まだまだ分からぬことだらけだったのじゃ。人として人の中で生まれ育った者達とは圧倒的に異なって居るのじゃ。そう言う意味では、真に人となるための道筋を貰うことが出来て、もう…節子には足を向けて眠れぬの…」


 そう言いながら何かを思い出すかのように、くふふと笑う雨子様。

そんな雨子様の視線を受けて、何かしらというように首を傾げる節子。


「なあに?雨子ちゃん?何だか意味深な笑いよね?」


 そんな節子に雨子様は、満面に笑みを浮かべて見せながら言うのだった。


「何、ニノにの、節子は最高のお母さんなんじゃと教えて居った所よ」


「まぁ…」


 そこには顔をこれ以上無いと思えるくらい真っ赤にし、珍しく何も言い返せない節子が居た。だが彼女は、何も言えなくても動ける女性。


 びゅっと風の如く動いてやって来たかと思うと、それこそ思いの丈を全て込めてぎゅうっと、雨子様のことを抱きしめるのだった。

 そしてひょいと手を伸ばすと、ニノをもその抱擁に加える。


 その様子を見ていた祐二と令子、二人は目を見合わせると、うんうんと心から頷き合うのだった。





ニノ、まだまだ子どもと同じなのですよねえ



















いいね大歓迎!


この下にある☆による評価も一杯下さいませ

ブックマークもどうかよろしくお願いします

そしてそれらをきっかけに少しでも多くの方に物語りの存在を知って頂き

楽しんでもらえたらなと思っております


そう願っています^^

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