閑話「姉妹」
大変お待たせしました
辛抱強く小和香様が背を叩いてくれたお陰か、どうにか気を落ち着けることが出来たニノ。だがそれでも一抹の寂しさを感じない訳にはいかなかった。
ぐすぐすと未だ鼻を鳴らしているニノに、くすりと笑いを漏らしながら語りかける小和香様。
「ニノが…こんなに泣き虫さんになるとは思いませんでしたよ?」
小和香様のその言葉に、照れくさそうに苦笑するとニノが言う。
「それは…私も知りませんでした」
「そうなのですか?」
僅かに小首を傾げながらそう聞く小和香様。
「はい…。この身になるまではこのように、何と言えばよろしいのでしょうか?心が揺れる?」
それを聞いた小和香様が目をぱちくりとさせる。
「心の場所を感じているの?」
今度はニノが不思議そうな顔をする。
「心の有り場所などがあるのですか?」
「だってニノが心が揺れるなどと言うものですから…」
するとニノは何だかとても嬉しそうな顔をしながら言う。
「それがその、何だかこの辺がきゅうっとして…」
そう言いながらニノはそっと手で胸の辺りをさする。
「そこから何だか熱い様な切ない様な、そんな何かが湧いてくるものですから、だから、だから此処で?心が揺れている?」
ニノの言葉ににっこりと笑みを浮かべる小和香様。
「ああ、そう言うことなのですね…。確かに深く感情を揺らすと、何故か胸の此の部分に影響してきますよね…」
そう言うと小和香様もまたそっと自らの胸に手を当てるのだった。
「小和香様、その話の流れで言いますと、もしかすると此処にも心が宿るのでしょうか?」
ニノはそう言うとひょいっと自分の鼻を指し示してみせる。
一体何を言っているのと微かに訝しみながらニノに問う小和香様。
「どうしてニノはそこに心があるかもと?」
「だって此処も盛大にじんじんするのですもの」
その言葉にほんの一瞬目を丸くした後、口元を手で押さえながらくすくすと笑いを漏らす小和香様。
そんな小和香様の様子に、最初顔を赤らめるニノなのだったが、やがて一緒に楽しげに笑い出すのだった。
と、そんな彼女らの傍らに一陣の風が巻き起こる。
周りの花々から離れた、色とりどりの花びらが一斉に舞い上がり、束の間彼女らの視界を妨げてしまう。
その花びらの攻撃から身を守る様にして、互いに抱き合っていた小和香様とニノ。風が収まったのを見極めてそっと辺りを見回すと、そこには全身花びらまみれの爺様が、困った様な顔をしながらぽつんと立っていた。
「「ぷふぅ!」」
思わず吹き出してしまった小和香様とニノ。
何故なら花まみれと言う表現すら甘く、実際爺様は身体中、それこそ髭の中にまで花びらが紛れ込んでいるのだった。
「やれやれ失敗してしもうたの。彼方とこちらの気圧差をうっかりしておったわい」
そう言うと爺様は身体をぱたぱたとはたいて花びらを落とすのだが、余りはかどっているとは言えないのだった。
「お爺さま、払って差し上げます」
小和香様はそう言うと爺様の下に寄り、その花びらの一つ一つを取り除いて上げる。
もちろんニノもすぐさま歩み寄って、作業を手伝ったのは言うまでも無かった。
そんなニノのことをじろりと睨むと爺様が言う。
「其方何やら先ほどまで泣いて居ったようじゃが、今は楽しそうに笑えているのじゃな?」
爺様の言葉に、ニノはにっこりと微笑みで返す。
「むぅ、まあそのように笑えるというのなら、おそらくその身体に十分馴染んできていると言うことじゃろうな」
そう言いながらにこにこと満足そうな笑みを零す爺様。
だが爺様の言葉はそこにとどまらないのだった。
「それでニノ、何故に其方は泣いて居ったのじゃ?其方のその身の変容にはなんの不具合も無いはず、泣くだけの理由が儂には見当たらないのじゃがな?」
すると爺様のその言葉に戸惑うニノの代わりに、小和香様がその訳を話すのだった。
「お爺さま、此のニノは、ニーに従う七体のメイドロイドの内の一体で、本来は彼女ら全員の間で、情報の共有を行う様になっているのです。そんな中ニノは、皆を代表して人を知る身と成り、そこから得られる情報を皆と共有することを望んでいたのです」
「ふむ、其方らの様な存在の場合、確かにそう言うのも有りじゃと思うの?」
また涙ぐみそうになっているニノの頭を、そっと撫で付けながら小和香様が言葉を継ぐ。
「けれども折角得た情報を妹達に伝えようとするも、彼女らがその情報を受け付けず、どうやらニノは、元々属していた情報共有体から、引き離された状態になった様なのです」
小和香様の言葉を受けた爺様がじろりとニノのことを睨む。
「それでお前は孤立したと思って泣いて居ったと言う訳なのか…」
「…はい」
消え入る様な声で辛うじてそう答えるニノ。
そんなニノのことを見ながら何とも仕方なさそうに笑う爺様。
「それは無理からぬことぞ、ニノよ。そも、其方が得て送り出そうとして居る情報の量は、元々其方達の間で行き来しておった情報の量に比べて、少なくとも二桁は多い。そんな物を送りつけて何とも成るものでは無いわ」
呆気に取られて口をぽかりと開けるニノ。
「そんな、それでは私はなんのために…」
そう言うニノの姿にがははと笑う爺様。
「何を言うて居るのじゃ愚か者。其方が先駆けにならばこそ、その齟齬が表に出たのじゃ。後はすりあわせるだけでは無いか?」
「「すりあわせる?」」
小和香様とニノ、二人して首を傾げる。
「むう、すりあわせるでは無いか?レベルを合わせる?かの…」
「お爺さま、そのレベルを合わせるというのは一体どういうことなので御座いましょう?」
何とかニノを助けてやりたいと思う小和香様、一生懸命に爺様に問いかけるのだった。
すると爺様、にっと歯を見せて笑いながら言う。
「こやつを今のその身に変容させるルーチンは、既に呪として確立してあるのじゃ。それがどういうことか分からぬ小和香ではあるまいて?」
だがいくらそのようなことを言われても、いかな小和香様とはいえ容易く爺様の考えを推し量るのは難しい。
仕方なしに爺様を見つめながらうんうん唸っている小和香様、それを見ていた爺様、やがて苦笑交じりに言うのだった。
「まあ良い、つまりはこういうことじゃ。残りの六体の者達もとっとと此処に連れてくるのじゃ、まとめて面倒を見てくれる!」
「え?と言うことはお爺さま、全員にニノと同じようにして下さると言うことなのですか?」
驚いた様に言う小和香様。
「だからそう言うて居ろうが…」
何とも面倒くさそうに言う爺様に、ようやっと思考が追いついたのか目をまん丸にしているニノ。満面笑みを浮かべると感極まって爺様に飛びつくのだった。
「お爺様大好き!」
その言葉を口に、思いっきり爺様に抱きつくニノなのだった。
色々あって睡眠不足
お陰でボケボケです
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