閑話「ニノの涙」
お待たせしました
一頻りの密やかな笑いを終えた後、小和香様はニノを伴ってその部屋を出た。
部屋の中から見ていると、当たり前の木の扉に見えていたのだが、外に出て振り返ると、うにょんと変形して空間の中に溶け込んでしまう。
「まるで…どこだろドア…みたいね?」
そう言うとくすりと笑う小和香様。
そんな小和香様に不思議そうに尋ねるニノ。
「どこだろドアって一体何なのですか?」
そこで小和香様はおかしそうに笑いながら、人間達の作り出す不可思議なアニメのお話しを、かいつまんで説明して見せるのだった。
因みに彼女らが今そうやって話をしているのは、爺様の作り出した辺り一面花畑の世界。遠く彼方までずっと花々が咲き乱れており、更にその向こうには美しい湖や雪を頂く山々の峰が見えている。
「しかしそれにしたってそのドタエモンと言う存在、未来から来たという割には間が抜けすぎては居ませんか?」
呆れた様に言うニノに、思わず苦笑してしまう小和香様。ロボットにダメ出しを喰らってしまうロボットって一体?
「ところで此処は本当に綺麗なところですね
」
そう言うと幸せそうな顔をしながら周りを見渡し、大きく息を吸い込むニノ。
花々から立ち上る芳しい香りが鼻腔をくすぐり、温かな大地の香りが胸に浸み通る様に感じられるのだった。
「小和香様…」
静かにそう言うニノ。
「なあにニノ?」
「今此処で全身の感覚を使って感じているのですが…」
そこまで言うとニノはくしゃりと顔を歪め、温かな涙を零すのだった。
「生きているって、こういうことを言うのですね。」
おそらく今のニノは、その五感の全てを使って周りの環境を感じているのだろう。
「私は…」
そう言いながらニノは、自らの身体をきゅうっと抱きしめながら切なそうにするのだった。
「私は、姉妹達を代表してこの身体を頂き、その感覚の全てを彼女らに伝えるべく出来ております。けれども…」
ぽろぽろと、先ほどまでの物とはまた異なった性質の涙を零し始めるニノ。
「ニノ…ニノ!どうしたというのですかニノ?」
驚き慌て問いかける小和香様に、ひっくひっくとしゃくり上げるニノは、話したくても話せない。一体どうしたものかと慌ててしまう小和香様。
色々と考え、自身の中に答えの無いことを見いだした小和香様は、今度はその答えを外に求めることにした。そして彼女の行き着いた先は節子なのだった。
はらはらと涙を流し続けるニノに近づいた小和香様。ゆっくりと腕を広げると、震えるその身を優しく包み込むのだった。
「小和香様…?」
そう言って声を上げるニノを静かに抱きしめ続けながら、落ち着いた声で語りかける小和香様。
「人の心や思いは、それが一体何物であるのか、そう簡単には区別することが出来ません。そうやって感情が高ぶる時は特にですね…」
「はい…」
「まずは丁寧に時を掛けて、その高ぶりを押さえると良いですよ」
そう言う小和香様に不思議そうにニノが尋ねる。
「はい、分かります。でも小和香様、小和香様はどうしてこのように私のことを抱きしめて下さるのですか?」
ニノの言葉に思わず苦笑してしまう小和香様。
「あのね、本当のところを言うと、実は私にも良く分かって居ないのです。けれども結果として間違いなくそうなるのです。心優しき人たちと接し続けてきた私が、その関係性の中で得た答えの一つだと思います」
そう言いながらポケットの中から出してきたハンカチで、優しくニノの涙を拭って上げる小和香様。
「節子さん…」
小さな声でそうぽつり言葉を口にするニノ。
対して小和香様はくすりと笑いながら頷いて見せる。
「そうよ。あの方…。人間達の中であの方ほど神々に影響を与えた方を私は知りません」
そう言う小和香間に小さく頷くニノ。
「何だか分かる様な気がします…」
そうやって落ち着きを取り戻しつつあるニノに、小和香様が静かに問うのだった。
「それでどうしたあなたは、再び泣いてしまうことになったの?」
問われたニノは、恥ずかしそうに笑みを浮かべたかと思うと、顔を俯けながら話すのだった。
「私は筆頭として位置づけられては居りますが、ニーによって生み出された幾体かのメイドロイドの内の一体に過ぎません。今回はたまたま、本当にたまたま選ばれてこのような身体を賜り、その身体から得られた情報を姉妹達にフィードバックすることで、皆の心や感情の進化に繋がればと思っていたのですが…」
「が?」
そう尋ねる小和香様に、ニノは悲しそうに言うのだった。
「そう言った感覚や感情、それら全てが実は、この身体に根強く関連付けられていると言うことを知ってしまいました…」
「そうなの?」
「はい…。もしやと考え、私自身可能な限り細かく丁寧に情報を仕立て、送ってはみたのですが、驚きはしても理解はしてもらえていない様で…」
そんなニノのことを見ていた和香様はその意味を理解して、切なそうな顔をしながら言うのだった。
「ああ、そうなのね…。ニノはあの瞬間情報を投げかけ、そしてその反応を受け取っていたのね…」
「はい、仰るとおりで御座います。姉妹達には、その誰一人として私の伝えた情報の、真の意味を理解する者は居りませんでした。そして私は…独りになってしまいました…」
再びぐすぐすと鼻を鳴らし始めるニノに、労る様に言葉を投げかける小和香様。
「何を泣くことがあるのです、確かにあなたは今のところ彼女らの仲間内から外れつつ有ります。けれどもあなたはその一方で、明らかに私達の仲間に入りつつあるのですよ?」
驚いた様に顔を上げ目を見張るニノ。
「そ、そうなのですか?」
ニノの驚きを伴うその台詞に、小和香様は明るく笑って見せながら言うのだった。
「うふふふ、そうなのですよ。ようこそこちら側へ!」
途端に、今までにもまして激しく泣きながら小和香様の胸にしがみつくニノ。
「ど、どうしたというのですかニノ?」
「わ…分かりません。でもとっても嬉しいのです。嬉しいのに、嬉しいのに泣けてしまうのです…」
ニノの言葉を聞いた小和香様、その意味を知り、仕方ないわねとばかりに、また抱きしめながら優しくその背を、とんとん、とんとんと柔らかく叩き続けて上げるのだった。
書いている時に眠くなるのも困りものですが
校正している時の方が遙かに眠くなる
これには本当に困ってしまうなあ
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楽しんでもらえたらなと思っております
そう願っています^^




