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天露の神  作者: ライトさん
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閑話「新たな目覚め」

遅くなりました。


時間が本筋と前後することで、閑話となっております


 爺様に短く「眠れ!」と言われた後のニノは、その一切の意識を無くしていた。


 人間であれば徐々に意識が薄らいでいき、ある瞬間を境に、すとんと無意識領域に落ちて行く様な感覚になるのだが、彼女の場合は最初からスイッチを切るといった表現が、おそらく何よりも正しいだろう。


 そして意識を無くしている間は一切夢を見ることも無い。そういう意味では眠れと言われたものの、眠りとはほど遠い有り様なのだった。


 そしてもしこれまで通りに正常に目を覚ますことがあるならば、部屋に灯りを灯すが如く、瞬間的に意識の全てが動作し始める、そのはずなのだった。


 だが今回の目覚めは、これまでのものとは全く異なるものとなっていた。


 寄る辺なき全てを覆い隠す漆黒の闇の中に、ぽつりとか弱き小さな明かりが灯り、そこから静かに広がる光の輪が、徐々に薄れながら闇の中に拡散していく。


 しかしただ一回の光の波のみでは、無限とも思える闇に飲まれて消えてしまう。しかし光の発生は一度で終わること無く、何度も何度も繰り返し起こり、次第にその間隔を短くしていく。


 それだけでは無い、光の強度もゆっくりとその力を増していき、やがて静かに臨界を越えるのだった。


「…ワタシ…ダレ…」


 辿々しい言葉と、曖昧な認識。しかしそれも光の占める範囲が急速に広がって行くにつれ、一気に改善されていく。


「此処は?」


 幾分まだぼうっとしながら、自身の存在を認識し、自分の居場所を把握しようとする。

するとそんなニノの視界に、心配そうな小和香様の顔が入ってきた。


「大丈夫ニノ?」


 その言葉でニノは、自身がニノであるとの認識を新たにし、更に強固に固定する。

そして大丈夫と問われたことに対する答えを求め、自身の中に検査ルーチンを走らせようとして失敗する。


 あれ?と思い、どうしたのだろうと考えるニノ。しかしいぶかっている間に徐々に身体中のそこかしこから、有象無象の、信じられない様な量の情報が押し寄せてくるのだった。


「怖い!え?どうして怖い?分からない、でも怖い?」


 そんな感情が頭の中でループし、次第に増幅され、そのせいか身体に震えが走り出す。

思わずニノは自然に腕で自身を抱きしめる。


「大丈夫ニノ?しっかりして!」


 そう言うと小和香様は、横たわっていたニノをそっと抱え起こし、腕を回して強く抱きしめる。


 それと共にニノは、潮の様に押し寄せる混乱した情報の中に、温かでどこか安心できる様な、不思議な波動が混じって居ることに気が付く。


「これは…小和香様?」


 ようやっと理解出来るものを得ることが出来て、ほっとし始めるニノ。


「そうですよ、あなたは今新たな身体を得たの。私と繋がるところから、少しずつ自身を大きく確立して行きなさいな」


「ありがとう御座います小和香様」


 小和香様にそう礼を言うと、早速自身の認識域を拡張し始めるニノ。

一端足がかりを見つけることが出来れば、そこを起点に急速に拡大していくことが可能になる。


 そうなるとしめたもので、この後ニノが自身を掌握するのに、そう多くの時間は掛からないのだった。


「はぁ…」


 暫しの時間の後、何とか作業を終えたニノは、この身体になることで、初めて正しく溜息の意味を知ったように思うのだった。


 さて何とか余裕の出来つつあるニノは、小和香様の腕に支えられたまま、自身のあり様に目を走らせる。見ると彼女は見知らぬ部屋に置かれたベッドの上に居り、裸身の上に白い布を掛けられただけの状態であることを知る。


「…!」


 少し驚いて身動きをすると、その身体から布がするりと滑り落ちる。

すると彼女の目前には、柔らかそうな二つの双丘が露わになる。


「これは?」


 思わず問いの言葉を出してしまうニノだが、それにどう答えたら良いのか、小和香様自身にも実は良く分からないのだった。

しかし顔を赤くしながらも精一杯、誠実に言葉を伝えようとしてくれる小和香様。


「本来それは人が子を産み育てる時に乳を出す器官です。けれども機能としてはそうかも知れませんが、その存在はあなた自身を女性として位置づけるシンボルでもあります。更にそれをどう解釈していくかは、これからあなた自身が学んでいかなくてはならないことかも知れません」


 ニノは暫し呆然とその二つの膨らみを見つめ続け、やがてふと顔を赤らめながら、布をたぐり寄せ、それらをそっと覆い隠した。


「ニノ、今あなたが知った感情。それはおそらく恥ずかしいという思い。そしてそれはこれからあなたが知る感情の、極々僅かなものでしか有りません。だからこそあなたは節子さんの下、吉村家にて暫く暮らしを共にし、出来る限り多くの何かを学ばねばならないのです」


「何かですか?」


 そう言いながらニノは不思議そうな顔をする。


「そうです、それが何であるかは私の口からは言えませんし、また、その何が何なのかは私にも分かりません。全てはあなた自身が見つけ、理解し、意味を与えていくことなのです」


 小和香様のその言葉を聞いてニノは思う。


 確かにこれは何、あれは何と、目の前に有るもの全てを教えてもらえるならば、話はとても早く終わることになろう。


 しかしそれらの何かは他の誰かの何かであって、自身の何かでは無いのだ。全て自分で見つけ、意味を与える選択肢をもらうということ。これは恐ろしいほどの自由をもらうことで有り、また、目に見えぬ大きな責任を課されていることになる。


 深刻な顔をしているニノに向かって、小和香様がくすりと笑いながら言う。


「ともあれニノ、まずは衣類を身につけることから始めましょうか?」


 そんな小和香様に、ニノは少し首を傾げながら問う。


「あのう、小和香様?服の着方であれば、以前とそう変わりが無いというか、柔軟性が増した分着やすいかと思うのですが…」


 だがそんなニノに、小和香様が困った様な顔をしながら言う。


「確かに当たり前の衣類についてはニノの言う通りなのですが、私達女性が身につける下着というものには、その、えっと、色々ノウハウがあるのですよ。それに出来るだけ手軽であるようにと上手く誂えては下さったのですが、それでもお体の手入れというものが有ります…」


 怪訝そうな表情をしながらニノは言う。


「身体の手入れでありますか?消耗部品の交換とか?」


 ニノのその問いに小和香様は、頭を抱えそうに成りながら言う。


「おそらくそう言った方面については、節子さんが詳しく教えてくれるはずです。後もう一つ。まるっきり人間の身体と言うことだと、ニノが特別な仕事を果たすには、支障があるやもしれんということで、左の二の腕に、リングが填まっているのが分かりますか?」


 ニノが手を伸ばして触ってみると、肘から上数センチのところに、幅二センチ弱の薄いリングが取り付けられているのだった。


「はい、これですね?」


 ニノが腕を上げてみせると、小和香様はにっこり笑みを浮かべながら頷く。


「そう、それを腕を下ろした状態で時計回りに回すと、形そのままに身体をほぼ以前と同じ状態に戻すことが出来ます。そして逆に回せば今の状態になります。仕事の内容に応じて、より必要とされる身体を選択するのです」


 それを聞いたニノ、早速試してみようとするのだが、慌ててそれを止める小和香様。


「待ちなさいニノ、今はまずその身体の感覚をきちんと掴みきることです。ちゃんと感覚を定着させないと、何度も同じことの繰り返しになってしまいますよ?」


 小和香様の意見をなるほどと考えたのか、リングから手を離すニノ。それを見ていた小和香様は改めて言うのだった。


「ではニノ、まずは下着を着けるところから始めましょうか?」


 そう言うと小和香様は、傍らに重ねて置いてあった衣類の中から、小さな可愛らしい布きれ?を引っ張り出してくるのだった。


 途端に不安感に駆られるニノ。あんなに小さな布で一体何を覆い隠すというのだろう?

それから暫くの間、ニノは驚きの連続を経験することになるのだった。






いよいよ秋らしくなってきました。

天高く馬肥ゆる秋であります
















いいね大歓迎!


この下にある☆による評価も一杯下さいませ

ブックマークもどうかよろしくお願いします

そしてそれらをきっかけに少しでも多くの方に物語りの存在を知って頂き

楽しんでもらえたらなと思っております


そう願っています^^

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