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天露の神  作者: ライトさん
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「食欲」

お待たせしました


 翌朝、休日と言うことで節子の代わりに、庭の植物たちにホースで散水していた祐二は、他家との境界を示す生け垣が割れ、そこから二人の女性が姿を現したのを認めた。


「おはよう御座います小和香さん」


 そう言った挨拶の言葉を発した祐二なのだが、今一人の女性の顔を見て言葉が止まる。


「ええと…ニノなのかな?」


 すると問われた当人に代わって小和香様が答えるのだった。


「おはよう御座います祐二さん、仰るとおりニノですよ」


 そう言う小和香様、近づいてくると何だか目の下に隈?まさか彼女に限ってそんなものが出来るとは思っても居ない祐二、驚いたように声を上げる。


「大丈夫なんですか小和香さん?」


 何とか笑顔を浮かべて答えようとする小和香様。だがふらふらとして足下が覚束ないので、慌てて駆け寄りその身体を支える祐二。反対側にはニノが入って同様に身体を支えている。


「すいません祐二さん、さすがに精も根も尽き果ててしまいました…」


 普段の小和香様なら、それほど気軽に祐二に寄りかかったりすることなぞ、まずあり得ないはずなのに、今はその余裕も無いらしい。


 その様子を見てとにかく家に連れ帰って休ませようと、ニノと二人で小和香様を支えながら、急ぎ歩く祐二なのだった。


 玄関に入り、上がり框に小和香様を座らせると、声を上げる祐二。


「母さん、雨子さん、来て!」


 と、キッチンに居た節子が速攻でやって来て、次に雨子様も来た。

そして小和香様の様子を見た節子は、その場に直ぐに跪き、その顔を覗き込むと問う。


「どうしたの小和香さん?酷い顔色よ?」


 その問いに力なく微笑んだ小和香様は、小さな声で返事をするのだった。


「いやその、疲れただけなのですが…」


 隣に雨子様も跪いて言う。


「疲れただけと言うが、其方精を消費しきって居るでは無いか?一体爺様は其方をどのように扱ったというのじゃ?」


 そう言うと、きっとした目つきで庭の方を睨む雨子様。

そんな雨子様にやんわりと苦笑しながら小和香様が言う。


「いいえ雨子様、別にお爺様に無体な扱いをされた訳ではないのです…。ただ任された仕事の密度が高すぎて…」


 そう言われた雨子様、改めてニノのことをじっと見つめる。そして成る程と頷くと静かに溜息をつくのだった。


「まあの、これ程の身体を半日もかからぬ内に作り上げるとなると、それはそのようにも成ろうて」


 と、そこへ令子が大皿に山盛りのお握りを持ってやって来た。

一体何故お握りと思う祐二だったのだが、直ぐに納得する。


 何故なら小和香様が、目の色を変えてそのお握りに齧り付いたから。

その様子を見ていた雨子様が苦笑しながら言う。


「そう言えばそうじゃった、小和香には我が疑似宝珠を与えて居ったのじゃな…」


 一つ食べ二つ食べ、小和香様のお握りを食べる手が止まらない。

四つほど食べたところでべそをかく小和香様。


「もうやだぁ~~~」


 端で見ている人間には、何故小和香様がそう言うのか分からない。

だが特別仲の良い令子と雨子様にだけはその思いが良く理解されるのだった。


「祐二よ、此処は我が面倒を見るが故、庭木の水やりを最後までやって来るが良い」


 そう言って祐二を庭の方へと向かわせる雨子様。

その後ろ姿を見送った小和香様、尚もせっせとお握りを食べ続け、とうとう令子の持ってきたお握りを、全て食べ尽くしてしまったのだった。


 未だ物足りなさそうな顔をしつつも、少し落ち着いた表情になった小和香様。

その顔は随分と血色が良くなってきているのだった。


 そんな小和香様に節子が問いかける。


「もっと食べる小和香さん?」


 だが小和香様が答える前に雨子様が口を開く。


「お母さん、この後は我が引き受けるのじゃ」


 そう言うと雨子様は小和香様に向かって頭を下げる。


「済まぬ小和香、我がもっと早くに精を分け与えてやるべきじゃった。ちっとばかり気づくのが遅れてしもうた」


 そう言うと雨子様は、自身の内に有る小宝珠を起動させながら、小和香様の手をきゅうっと握り締めるのだった。


 と、見る間に雨子様の身体が脈打ちながら光り始め、その光りがゆっくりと小和香様の方へと流れていく。


「わぁ!綺麗!」


 思わず令子が歓喜の声を上げる。


 居合わせた節子も心の内で同意しているのだが、実のところこの発光の意味は神様にしか分からない。これはあくまで雨子様から小和香様に向かって流れる膨大な量の精の、極々僅かな余波でしか無いのだった。


 その光りの奔流を小和香様は、目を瞑って確りと受け止めている。暖かな心地好い温もりが、腕から体の中へ、うねるように染み込んでいくのだった。


 そうやって暫しの時間溢れんばかりの精を享受していた小和香様、もう十分なところまで来たのか、雨子様に向かって声を上げる。


「雨子様、もう大丈夫で御座います、十分頂きました」


 小和香様にそう言われて、なるほどそうかと小宝珠の動作を押さえに掛かる雨子様。

胸の奥でとくとくと蠢いていた小宝珠が、やがて滑らかにそのリズムを抑え、ゆっくりと出力を落としていく。


 やがてにそっと小和香様の手を放す雨子様。

そんな小和香様に満面の笑顔で話しかける節子。


「で、小和香さん、朝ご飯食べるわよね?」


 先程空にしたばかりの大きな皿を見つめながら言う小和香様。


「え?でもあの?」


 なんだかとても恐縮している小和香様に、尚も繰り返し問いかける節子。


「食べていくわよね?」


 その圧の強さに思わず吹き出してしまう雨子様。


「くふふふ、小和香よ、お母さんがこうなったらもう断ろうとするのは無駄な努力じゃ、案ずること無く喰ろうて行くが良い」


 そこまで言うと雨子様は、今度はその傍らで静かにしていたニノに向かって言う。


「さて見るにニノよ、其方ももう食することが出来るのであろ?」


 急に言葉を振られたニノ、若干おろおろしながらも気丈に答える。


「はい、雨子様、恐らくそのはずで御座います」


 ここに来て初めてニノのことを確りと見定める節子と令子。

にっこりと笑みを浮かべながら節子が口を開く。


「あらまあニノちゃん、元々可愛かったのだけれども、ほんの少し柔らかみが増して、愛らしいお顔に成ったのね?」


 そう褒められたニノは嬉しさ半分、恥ずかしさ半分で、恥じらいながら顔を赤くする。


「節子様、少し褒めすぎで御座います」


 そう言うと、赤くなった頬をそっと両手の平で押さえるのだった。

ふっくらとした頬が、その手の圧に応じて微妙に凹む。


 その後その柔らかな頬をそっと指で摘まんでみて、不思議そうな顔をしているニノ。

恐らくそうやって新たに成った自らの身体を確かめ、人の身として感じることの不思議さを味わっているのだろう。


 そうこうする内に水やりを終えた祐二が戻ってくる。


「母さんお腹空いた!」


 祐二のあっけらかんとした言葉に、その場に居た者達は皆思わず顔を見合わせる。

そして漏れなくお腹に手を当て、同じ気持ちであることを確認。


「私も…」


 令子が小さく手を上げると自身の思いを口にする。

それを見た雨子様、にやりと笑うと大きく手を上げて同様に宣する。


「我もじゃ!」


 するとその場の雰囲気を察した和香様とニノ、二人顔を見合わせて頷き合うと一緒に揃って手を上げ、同時に、そして同じように恥ずかしそうに声を上げるのだった。


「「私も…」」


 それから節子が大車輪で動いたのは言うまでも無いことなのだった。






おにぎり・・・美味しいですよねえ

特にこの新米の季節のおにぎりは格別です





















いいね大歓迎!


この下にある☆による評価も一杯下さいませ

ブックマークもどうかよろしくお願いします

そしてそれらをきっかけに少しでも多くの方に物語りの存在を知って頂き

楽しんでもらえたらなと思っております


そう願っています^^

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