「一番は誰?」
大変遅くなりました
さて、祐二が拓也を伴いダイニングに戻ってくると、そこでは既に多くの者達が席に着き、楽しそうに会話を始めていた。
神様方を含めて殆どの者達が席に着いており、節子と、節子の指図によって動いているニノだけが、キッチンとダイニングの間を行き来しながら、出来上がった料理や食器を次々と運び込んでいる。
実はこうやってニノが働いているのは、彼女のたっての願い故のことなのだった。彼女は渋る節子に、雨子様や令子が手伝う姿を指し、自分もと思いを込めて言うのだった。
こうなると、先に娘扱いをすると宣していたことも有り、節子に否やの選択肢は無い。彼女は大いに苦笑しながら、「ではお願い」と頼むのだが、その後のニノの立ち振る舞いに、さすがメイドロイドと舌を巻くのだった。
そんなニノの働く姿に感心しながら、遅れてやって来た拓也が、空いた上座の席に座ろうとしたところ、それに気がついた節子が慌てて止める。
普段であれば和香様がいらっしゃった時でも、一家の主と言うことで上座は譲られるのだが、今日ばかりは勝手が違うようだった。
「ごめんなさいねあなた、今日はお爺さまもいらっしゃるから…」
申し訳なさそうに言う節子に対して、軽く手を振りながら答える拓也。
「ああそうなんだ、別に良いのだけど、そうかあ、爺様かあ」
どうやら拓也には、爺様がいらっしゃることがまだ伝えられていなかったようだ。
「伝えるの忘れていたみたい、ごめんなさい」
そう言って謝る節子に、拓也は笑みを浮かべながら言う。
「僕が帰ってきた時には、君はもうめちゃくちゃ忙しそうだったからね」
そうやって節子の失念を咎めること無く、むしろどこか嬉しそう。
その様子を見ていた祐二は直ぐに察する。おそらく拓也は爺様と酒を酌み交わすことを楽しみにしているのだろうと。
神様達を別にすると、ここに居る者の中でお酒を窘めるのは節子のみとなるのだが、生憎と彼女は余り飲酒を好まない。
時に付き合いで飲むこともあるのだが、大体に於いては断ってしまうことが殆どなのだった。
また神様達と言っても、雨子様は身分が高校生で有ることから、小和香様はとなると、どうも味的に余り好みでは無いことから、飲酒はされないのだった。
皆が楽しそうに集い、席に着いているのは、節子が拘り抜いて購入を決めたダイニングテーブルなのだった。人数によって自在に大きさを変えることが出来るギミックを持つのだが、今回はその限界まで拡張されている。
その上には和香様のリクエストに応えた、エビフライやフライドポテトだけでは無く、多才な料理が山のように揃えられているのだった。
そして最後の食器をことりとテーブルの上に置くと、節子が心配そうな表情でちらりと壁掛けの時計を見る。
もうまもなく爺様の通告してきた時間になるのだが、未だ彼の訪れの兆候が無いのだ。このままでは折角の料理が冷めてしまう、どうしたものかしらと案じ始めたところ、爺様の席と定めた場所で、ぽぅっと柔らかな光が灯るのだった。
灯った明かり、一つ…そして二つ。
「アーマニ来た」
「ティーマニも来た」
灯りは互いの周りをくるくる回り合ったかと思うと、今度は声を合わせて言う。
「「爺様、皆待っているよ?座標固定、問題無ぁ~し」」
と、その言葉を残してその二つの灯りはすうっと消えていく。
そしてそれと入れ替わるようにしてそこには、穏やかな笑みを浮かべた禿頭の爺様が姿を現すのだった。
「ガタッ!」
その場に居た全員が一斉に席を立ち、丁寧に頭を下げる。それは和香様も例外では無かった。
当初こそただの好々爺としか見えていなかった爺様なのであるが、付き合いを重ねるにつれ、その行いの深さ、大きさを知れば知るほど、いつしか自然に頭が下がる様になっていったのだ。
完全に実体化してその場に降り立った爺様は、人好きのする優しい顔に僅かに困ったような笑みを浮かべ、嗄れた声で言うのだった。
「ああもう良い良い、肩の凝るようなことは止めてくれんかの?儂は節子さんのところに美味い物を集りに来た、食い意地の張った爺にすぎんのじゃから」
そういうと場を圧する様にかんらと笑うのだった。
さてこの中で唯一この文殊の爺様のことを知らないニノ、周りの者にあわせて一緒に礼を行ったものの、内心はこのお爺さんは誰なのと疑問を膨らませていた。
思えば自身にとって最上位に位置する和香様からしてこの頭の下げよう。
このことより、この爺様が更に上位に位置する方とは推察できる。だがそのことについての情報が全く欠けてしまっているのだった。
仕方なしに彼女は直接の上司に当たるニーに連絡を取って、その情報を貰おうとするのだった。だが驚いたことに完全に阻まれてしまう。
不思議に思ったニノが、どうしてと爺様の方を見ようとした途端に固まってしまう。
いつの間にやって来たのか、爺様が自分のすぐ前に居て、真剣な顔をしながら深い深い底知れぬような眼差しで、彼女の目の奥を覗き込んでいるのだった。
「……」
何かされた訳でも無いのに身動き一つ取れなくなってしまうニノ、瞬き一つも出来ないのだった。
傍らから静かな声が聞こえてくる、和香様だった。
「爺様ぁ、それくらいにしたってぇな?ニノ、今は詮索とかせんでええ、後でニーに聞いとき」
途端に破顔し、がはがはと笑いながら禿頭をぴしゃりと叩く爺様。
「すまんすまん、つい夢中になってしもうたわい。で、和香、こいつは一体なんじゃ?この星の技術のように見えぬでも無いが、何故か知らぬが妙に飛び跳ねて居る」
苦笑いを浮かべた和香様が言う。
「爺様でも分からへんの?」
和香様の問いににやりと笑う爺様。
「知能を司る部分が繊細故、無理に調べると壊れてしまうが構わぬか?勿論後で寸分違わず再構成してみせるがの?」
爺様のその言葉に慌てた様に雨子様が割って入る。
「待つのじゃ爺様、それではニノがニノであってニノでは無くなってしまうじゃろうが?」
今度はその雨子様のことをじっと見据えると爺様が言う。
「ほう、雨子。随分色気づいたものじゃな?」
「色っ?」
そう言ったっきり、顔を赤くしながら絶句してしまう雨子様。
そんな雨子様にどう声掛けをしたものか、或いは爺様のことをどう諫めるべきかと、和香様が悩んでいる間に声を発する者が居る。
「お爺様!言葉には時に刃が乗ることが有るものです。特に今のお言葉は痛く女心を傷つけましてよ?」
爺様に対してぴしりと言い切るのは節子だった。
その勢いに思わず固まってしまう神様方。
だがそれも爺様の哄笑が全て吹き飛ばしてしまう。
「ぐわっはっはっは!この中で一番肝っ玉が据わって居るのはやはり節子さんかのう…」
そう言うと爺様は皆に向かってぺこりと頭を下げる。
「いやすまんかった、悪意は無いのじゃ。ただ儂は余り人との関わりが無い故、お前達の言葉で喋る時に上手く配慮が出来んのじゃ」
だがそう言う爺様の目前で、節子が本当に?と言う様に頭をこてんと傾げる。
その場でその意を汲み取った爺様、苦笑しながら言う。
「いやはや、また節子さんには教えられてしまうの。うむ、確かにの。今少し丁寧に人の心というのを学ばねばならぬの…」
そう言いながら連続でぴしゃりぴしゃりと禿頭をはたき、何とも良い音を作り出す爺様。
そんな爺様に特上の笑顔を向けると節子が言う。
「そう言うお立場に囚われない素直な物言いのお爺様、大好きですよ?」
節子のその言葉を聞く成り、ぽかりと口を開いて真っ赤になる爺様。和香様の方へ顔を向けると縋る様に言う。
「和香よ、この場合儂はどう答えれば良いのじゃ?儂にはこの節子をどう扱うたら良いのかもう分からんぞ?」
そんな爺様に和香様は破顔しながら言う。
「爺様に無理ならうちらではもっと無理やなあ」
「全くだ!」
和香様に続いて一体誰がその言葉を吐いたのかと皆が振り返ると、そこには胸の前で腕組みをしながら、うんうんと頷いている拓也が居るのだった。
「あなたっ!」
顔を真っ赤にした節子が叫ぶ様に言うのと、皆が一斉にどっと笑い声を上げるのはほぼ同時のことだった。
ただ一つ言えるのは、その笑いが静まった時には、誰の胸にもわだかまりの影一つ残っていないと言うことなのだった。
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