「笑いの波」
お待たせしてしまいました
三人の女性達の、見事にチームワークの取れた奮闘により、幸いなことに客の来訪前に全ての準備を終えることが出来た。
勿論揚げ物が、作りたての時に一番美味しいことも分かっているのだが、それも量と場合に寄りにけりである。
今回のように多人数分となると、何度も油を交換しながら揚げ続け、それをオーブンの中で保存しておくことで、出来るだけ揚げたてに近い状態に保つことを選択したのだった。
そして最後の揚げ物を収納するのと同時に、玄関からチャイムの音が響く。
「はぁ~~い」
祐二が声と共に玄関に向かったようだ。彼のために一応言っておくと、彼自身も調理の手伝いは申し出ていた。しかしいくら何でもキッチンに四人は多すぎ、食後の食器の片付けを引き受けることで落ち着いている。
さて急ぎ玄関の扉を開け外に出た祐二は、これ以上無いくらいににこにこ顔の和香様と、背後に申し訳なさそうな顔をした小和香様、更に穏やかな笑みを湛えているニノが佇んでいるのを見た。
「こんばんは!お邪魔するね?」
ご機嫌の口調でそう言う和香様に、「ようこそ」と言いつつ祐二が尋ねる。
「でも和香様、どうしてそんなにご機嫌なのですか?」
すると和香様では無く、その後ろに控えていた小和香様が、重ねて申し訳なさそうにしながら答えるのだった。
「こんばんは祐二さん、それがその、神様会議が無事終わったと言うこともあるのですが、どうやら和香様、節子さんに連絡を入れた時に、食べる物のリクエストをしていたらしいんです」
それを聞いた祐二、思わずぽんと手を打ちながら答える。
「ああ、それであの山のようなエビフライという訳なのか…」
祐二の言葉を聞いた小和香様、和香様に対して小声で、「だから申しましたのに…」とか何とか言っている。
だが和香様はあっけらかんとしたもので、後ろを振り返るなり言う。
「ニノ、先にお邪魔してお手伝いして来…」
命を受けたニノは、勿論最優先でそれを実行しようとする。、
「畏まりまして御座います和香様」
そう言うとぺこりと祐二に頭を下げるなり、「失礼いたします」と言いつつ玄関の奥へと消えていくのだった。
それを見ながら首をふりふり祐二が言う。
「多分だけれども、お手伝いは無理だと思うなあ」
そう言う祐二のことを怪訝な顔をしながら見つめる和香様。
「なあ祐二君、それはどう言うことなん?あの子が嫌われている訳は無いやろうし?」
そう言う和香様に、苦笑しながら「中に入れば分かります」と言う祐二なのだった。
そして祐二に誘われるまま玄関に入り、リビングにやって来た和香様は、室内のソファーにちょこなんと腰掛けているニノを見つけることとなる。
「どないしたん、ニノ?」
するとニノは申し訳なさそうな顔をしながら、ちらりとダイニングの方へと視線を滑らせる。
そこにはくるくると立ち振る舞う三人の女性達が、楽しそうに何かの歌を歌っていた。
「ご挨拶は既に済ませているのですが、残念ながら今あの中に入るのは無理かと思います」
そう言うと、どこと無しにしょぼんとした雰囲気を漂わせているニノなのだった。
それを見た和香様、苦笑しながら言う。
「その様子を見たら、どうにもしようがあらへんかったんやろなぁ?」
ニノに話しかけている和香様、そして小和香様の姿を見かけた節子がひょいっとダイニングから顔を見せる。
「あらいらっしゃい和香様、小和香さん。駄目よ和香様、ニノちゃんに家に来て貰うのはこき使うためじゃないのですから?」
そう話している節子のところに、ばたばたと歩み寄っていった小和香様が頭を下げる。
「何だか和香様が我が儘を申したみたいで済みません…」
だが節子は全く意に介さないかのように笑う。
「あら良いのよ、この前だってご馳走になったり、温泉に入れて頂いたりしているのですもの」
そう言う節子に小和香様は少し困った顔をしながら言うのだった。
「でも先日のはこちらが都合でお呼びした物でも御座いますし、それでは恩を受けっぱなしになってしまいます」
だが節子は静かな笑みを浮かべると言うのだった。
「何言っているの小和香さん、あなたとの間に恩がどうのこうのとか、そんな物ちっとも必要ないって思っているのよ?あ…そんなこと言ったら神様に不遜だったかしら?」
それを聞いた小和香様は慌てて頭を横に振りながら言う。
「いいえいいえ、少なくとも私はこうやって殆ど人としてお付き合いさせて頂いております。他の神様方はいざ知らず、不遜だなんて…」
おそらく節子はその言葉を言質としてでも取ったつもりなのだろう。にっと笑みを浮かべると言う。
「じゃあそう言うことで…」
節子の言葉に思わず苦笑いしてしまう小和香様。
「もう節子さんには適いません」
さて、そんな二人の会話をニヤニヤしながら聞いている和香様、おかしそうに小和香様に言う。
「宇気田神社の第二神になっても節子さんには敵わへんか?」
「和香様!」
そうやって小和香様のことを茶化す和香様に、一言釘を刺す節子。
それを見ていたニノがぼそりと言う。
「第一神様も敵っていないような…」
「ぶふっ!」
それまで黙ってことの成り行きを見守っていた祐二、ニノの言葉に思わず吹き出してしまう。一方和香様はと言うと目を丸くしながらニノのことを見つめている。だがどこか満足げな部分もある。
「なあ小和香、これやったらニノ、この家に預けても心配いらなさそうやな?」
対して小和香様、静かに頭を下げながら言う。
「仰るとおりで御座いますね」
と部屋の向こうから声が掛かる。来訪してきた和香様達に、言葉を掛けるべくやって来た雨子様、どこか嬉しそうな表情をしながら言うのだった。
「うむ、その調子なら共に生活しても楽しそうじゃな?」
振り返って雨子様のことを見る和香様、そして小和香様。
「そやな、中身としてはなんの心配もいらへんみたいやな?後問題は側や側…。きょう伺わせてもらったんも、実はそのことを話し合うためでもあるんや」
だが雨子様が茶化す。
「我はエビフライのためと聞いて居ったのであるがな?」
と、和香様、何とも決まり悪そうに頭を掻きながら言う。
「いや、何と言うか、その…いくらかはその通りなんやけど」
だが雨子様の舌鋒は衰えなかった。
「殆どの癖しおって…」
途端に和香様、もの凄く情けなさそうな顔をしながら言う。
「もう、勘弁してえな」
その様がその場に居た者達には大いに受けたようだった。どっと巻き起こる笑いが部屋の中に響くのだった。
そしてその中、最も良く笑ったのは誰有ろう和香様なのだった。
やがて笑いの波が収まり始めた頃に節子が言う。
「じゃあ和香様方、どうぞダイニングの方に移ってらして。祐二、お父さん部屋に居るから呼んできてくれる?」
「分かった…」
語尾の音が消えきらぬ内に部屋から出て行く祐二。
その祐二を見送りながら節子が言う。
「ニノちゃんも席を用意しているから皆と一緒に座ってね?」
そんな節子の言葉に驚いたようにニノが言う。
「でも私は食べることが出来ませんし、メイド…」
だがニノは最後まで言うことが出来なかった。節子がゆっくりと頭を横に振りながら、言い聞かせるようにニノに向かって言うのだった。
「良い、ニノちゃん?私はあなたのことを一人の人間のお嬢さんとしてお預かりするの。そんなあなたを一人だけ仲間外れにするなんて有り得ないことよ?」
どうやら彼女のその言葉は、さすがのニノにとっても大幅に予想を上回る物だったらしい。自身では殆ど判断が付かなくなったのか、頭を回して和香様のことを見つめる。
一方和香様は少し呆れたようにしながら節子のことを見つめている。
「まあ節子さんのそんなところを知っているからこそ、ニノのことをお願いしようと思った訳なんやけど、実際こうやってその場に居合わせてしまうと、なんかもう恐れ入ってしまうわ」
「本当に…」
傍らで小和香様もまたそう言って相づちを打つのだった。
「ニノ、節子さんの言う通りにしとき。なんせ節子さんはこの家の最高権力者や!」
そう言う和香様に節子の鋭い声が飛ぶ。
「和香様!」
だがその後押し寄せるのは、先ほどにも増した笑いの波なのだった。
余談ですが、何故に電気製品ってあのように連れ持って壊れるのでしょうねえ・・・
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