「権利の行使」
ちょこっと遅くなりました!
「「ただいま!」」
と言う二人の声に、キッチンの奥の方から「お帰り」の声が返ってくる。
節子は既に夕食の準備に取りかかっているらしい。
靴を脱いで上がり框に上がると、慌てたようにだだっと階段を駆け上がり、部屋に戻っていく雨子様。
余りの勢いでスカートを蹴上げるものだから、何とも危険状態が出現。
「雨子さんもう少し大人しく上がっていかないと、見えちゃうよ?」
祐二がそうやって諫めるように下から声を掛けると、階上に上がった雨子様が顔を顰める成り、べ~をしてくる。
折角注意して上げたのにと思いつつも、考えてみれば他には誰も居ないのだ。祐二が目をそらせば良いだけのこと、やれ失敗したなと苦笑しながら、自身も階段を上がり部屋へと消える祐二なのだった。
さて部屋に戻った雨子様、大急ぎで制服を脱ぎ、ハンガーに掛けてクローゼットにしまうと、急ぎ普段着を身につける。その後、髪を後ろ頭でたくし上げ、くるくるとゴムで巻いて留めて、子馬のしっぽの出来上がり!
鏡を覗き込んで顔を左右に軽く振り、出来映えを確認するとにっと笑う。
そうやって習慣づけしておくと、普段から笑顔に相応しい顔になるというのを、どこかで読んだ様な気がするのだ。
本当か知らん?と思わないのでも無いのだが、何時の間にか知らずして毎回行うようになっていた。
「うむ、良いのじゃ」
そんな言葉を独り言ちすると、部屋を後にし、節子の元へと向かうのだった。
「遅くなったのじゃ」
そう言いながら、既に色々用意を始めている節子の横で、綺麗に手を洗いタオルで拭う雨子様。
「あら、ちっとも遅くなんか無いわよ?」
暖かくて何だか包み込まれるような、そんな笑顔を浮かべながら、柔らかな言葉で返してくる節子。雨子様はそう言う節子の有り様が好きでたまらないのだった。
傍らの台に色々と積み上げている素材を見ながら、雨子様が尋ねる。
「さて、我は何を手伝うたら良いかの?」
. 雨子様の問いに、節子は冷蔵庫の中を覗き込みながら言う。
「そうね、なら海老の殻と背わた取りをお願いしようかしら?」
と、節子がそう答えを返している最中に令子がやって来た。
「お風呂洗って、お湯を入れてきたわよ!」
先に家に帰っていた令子、既にお手伝いをしていたようだ。
令子は続けて言う。
「私も何か手伝いたいのだけど?」
すると節子は人差し指を頬に当てながら思案した後、ごろごろとした立派なジャガイモが入った袋を、戸棚の中から引っ張り出してきて言う。
「ならこのお芋の皮むきをお願いしようかしら?」
「うん分かった!」
明るく答える令子。だがその令子に雨子様が待ったを掛ける。
「のう令子よ、我と仕事を交換せぬか?」
そう言う雨子様のことをおやっ?と言う顔をしながら黙って見つめる節子。
「良いけどどうして?」
雨子様が単純な損得で仕事を交換するなど、露にも思って居ない令子が素直に聞く。
「うむ、令子が手先の器用なことは知って居るが、何分にも子供のその手では、些か芋を剥くには大変であろ?我の海老の殻剥きはその点手袋さえ付ければ、今の令子の手でも手軽に出来るかと思っての…」
「なるほどそう言うことなのね?気を使ってくれてありがとう雨子さん」
嬉しそうに笑みを浮かべながら、そう礼を述べる令子。
確かに前世の経験を持つ令子のこと、包丁を使う技も確かで危なげ無いのだが、それでも上手の手から漏れると言うことも有る。
雨子様の行った判断は極めて適切だな、そう思った節子、思わず二人を抱きしめて言う。
「ほんっと、あなた達良い子ね?」
いきなり節子から抱きしめられて動揺してしまった二人なのだが、どうやら褒めてくれているようだと理解出来ると、揃って赤くなる、照れる。
「お、お母さんちと褒めすぎかも知れぬぞ?」
そう言いながら苦笑する雨子様、傍らでは令子も同じように笑みを浮かべながらうんうんと頷いている
そんな彼女らに、にこやかに笑みを浮かべた節子が言う。
「何言っているの?良い行いをした子供達を褒めなくて一体どうするの?私はそれを義務では無くって、権利として行使したいの!」
そう言って胸を張る節子に、なるほどと思いつつ目を見合わせた二人が言う。
「成る程これは見習わせて貰わねばならぬの?」
「ね!」
そして二人は申し合わせること無く同時に節子に抱きついた。
「あらあら、これはどうしたことなのかしら?」
節子の言葉にまず雨子様が先鞭を付ける。
「これは勿論感謝の思いを伝えたのじゃ」
そして令子が雨子様の言葉の後を継ぐ。
「そうよ、私達だって、感謝する権利を行使するの!」
「あらあら…」
思わぬ反撃を喰らって目を丸くする節子。
その後三人の女性達は互いの目を見合わせると、それぞれ本当に楽しそうな笑い声を漏らすのだった。
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