「蛟」
馴染んだキャラ達は気軽に話すのだけれどもなあ・・・
「此処はどこなんじゃ?」
なれの果て、なれの果てと言われていた、丸で針金の様に細い龍がまず第一声、か細い声で喋った意味ある言葉はまずそれが最初だった。
対して応じるのは当たり前の如く雨子様。
「此処は我の暮らす、とある人の家ぞ」
するとその龍はおそらく首を傾げたのだろう。微かに首を曲げ、か細い声ながらもはっきりと言うのだった。
「おんが何故人の家に居るのじゃ?」
その問いに雨子様は笑いながら答える。
「そも其方は、とある土地にて意識を無くし、長虫のように成り果てて地を這って居ったのじゃ」
それを聞いたその龍は、ぶるると頭を振ると言い募る。
「おんが長虫?そもそもおんは何なのじゃ?」
それを聞いた雨子様がぐるりと頭を回して祐二のことを見つめる。
以心伝心?伝わらねば口を開こうと思っていた雨子様なのだが、何も言うまでも無く祐二は頷いて部屋から出て行く。
暫しの後、部屋に戻って来た祐二は小さな手鏡を手にしていた。
「はい、雨子さん…」
そう言って手鏡を渡された雨子様は、満面に笑みを浮かべながら嬉しそうに頷く。
言葉にせずとも、祐二がしっかりと彼女の意を汲んでくれたことが、余程嬉しかったようだった。
だが直ぐに表情を戻すと、手の平の上の小さな龍に、その姿をそっと映して見せてやるのだ。
びくりと震えるかのように動く龍。
「なんじゃこれは、これでは丸でおんは蛟じゃ…」
そんな龍に雨子様はゆっくりと頷きながら言う。
「うむ、確かに其方の言うとおり、分類するとなれば正に蛟というのが相応しかろうの?」
するとその蛟、何だか悔しそうな音を込め、叫ぶように言うのだった。
「蛟、蛟なのか、おんは蛟なのか…」
対して雨子様は、優しく慰めるように言う。
「確かに今の其方は蛟じゃの。じゃが元から蛟であったとは思うて居らぬ。おそらくは、力を失いすぎてそうなって居るのじゃと推測して居るよ」
するとその蛟は、嬉しそうに尻尾をゆっくりとくねらせながら言う。
「そ、そうなのか?そうなのだな?」
「うむ、おそらくは間違い有るまい…」
雨子様のその言葉が余程嬉しかったのだろう。蛟はぐるりぐるりと何度もとぐろを巻くのだった。その挙げ句また問う。
「それであんしは何なのじゃ?」
蛟にそう問われた雨子様は、すっと背筋を伸ばし、凜とした気配を辺りに放ちながら、自らのことを語るのだった。
「我は天露雨子と言う神じゃ。今はこの吉村の家で暮らして居る」
するとその蛟は暫しの間じっと、雨子様のことを見つめているようだった。
「何故神が人の家で暮らしている?」
「それは…」
と言いかけた雨子様だったが、いくら何でもなんの前知識も無い蛟に、今の自分の状況をどう説明したものかと悩み、期せずして祐二のことを見つめる。
するとその所作の中に何かを悟ったのかも知れない。蛟は細かく震えると言うのだった。
「もしや嫁いだのか?」
「…!」
さすがの雨子様も、あんぐりと開いた口が塞がらなかった。
「「……!」」
だが蛟の言葉に固まったのは雨子様だけで、傍らにいた人間二人は、ぐっと下を向いて必死になって笑いを堪えているのだった。
そのせいか神々しさすら有った雨子様の神気が、急に萎れ、眉がへの字に変わってしまう。
さすがにその様子が気の毒だったのか、祐二は手を合わせて拝むようにして頭を下げ、節子はと言うと、くりくりと必死になって雨子様の頭を撫でてやるのだが、…膨れた。
何がと言うまでも無いのだが、一応説明しておくと、雨子様の頬が丸く膨れたのだった。
しかし身内だけならいざ知らず、今は目前に蛟という存在が居る。
渋々、仕方無しといった感じで気を取り直し、ちょっぴり不服そうに言うのだった。
「今はまだ嫁いでは居らぬ」」
「そうか…」
そう言う蛟には何も思うところは無かったのか、平然とした口調で言うのだった。
だがその後蛟が口に出した言葉で、その場に居た者達は皆驚くのだった。
「そう言えばおんにも、誰かが嫁いでくるはずだった…様な気がする…」
「なんじゃと?それは一体どう言うことなのじゃ?」
驚きを隠せない雨子様が言うと、蛟は首をふりふり寂しそうに言うのだった。
「分からん、只そう言う気がするのじゃ。おんは一体どうなってしまったのじゃ?」
悲しそうにそう言う蛟に、雨子様は優しく慰めるように声を掛けるのだった。
「其方はおそらく何かの加減で、その力の多くを失ってしまったようじゃ。故に記憶の一部も閉じてしまって居る」
「そうなのか、おんはそうなのか?ではどうすればおんは戻れる?」
どこか必死な感じでそう問う蛟に、雨子様は節子の方へ視線を向けると言う。
「無尽、少し頼めるかの?」
すると、節子の腕輪となっていた無尽が、雨子様の言葉が終わらぬ内にその場に姿を現すのだった。
「雨子様これに…」
「済まぬの無尽、少し力を貸してくれるか?」
「何を仰います、大恩有る雨子様の願いとあらば、某、例え命絶えようとも…」
そんな無尽にぴしりと言う雨子様。
「そのように命について軽々に言葉を口にするでない」
たちまちしゅんとした無尽が頭を垂れる。
だが雨子様の願いの言葉に、あっと言う間に元気を取り戻すのだった。
「先に少し話したように、こやつに其方の力を分けてやってはもらえぬか?但しゆっくりちびちびとの?でないとこやつの受容器が壊れてしまうが故、十二分に気をつけるのじゃぞ?」
「畏まりました」
そうやって無尽と雨子様の間で会話が続く中、蛟は半ば呆気に取られて無尽のことを見つめているのだった。
現在の無尽は見た目こそ、せいぜい祐二が締めるベルトほどの大きさであったが、そこから発する龍気は、想像も絶する巨龍を彷彿とさせる。
その凄まじさに、畏怖を感じざるを得ないのだった。
だがそんなこととは知らない無尽、気軽にその蛟の鼻先を、自身の鼻先でひょいと突いてしまうのだった。
「コテン…」
「はぁ?なんじゃこやつ、また気を失うてしまいおった…」
呆れたように言う雨子様。その手の平を覗き込むと、確かにひっくり返っている蛟がいる。
「大丈夫なのこの子?」
思わず不安そうに言う節子。だが此度ばかりはさすがの雨子様も、自信なげに「さぁ…」と言うしか無いのだった。
小さな龍のことを呼ぶ呼び方他にも有るのですが、今回は蛟に落ち着きました
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