「寝惚ける」
しっかりとした睡眠は大事だ。うん!
さてそうやって目覚めの胎動を感じさせていた、龍?のなれの果てなのだが、実際にその覚醒を明らかにしたのは、それから三日経ってからのことだった。
土曜の朝、休みで有ると言う気の緩みからか、はたまた前日の夜更かしの付けが来たのか、祐二はいつもよりかなり遅い時間まで眠りを貪っていた。
だが折角の柔らかな眠りの時間が、何かに邪魔されるのを感じてうすらと目を開ける祐二。
「…ん、何?」
当初携帯が鳴動しているのかと思い、手探りで確認するがどうも違う。振動しているのはそんなものでは無く、自身の手、手首周りから響いてくるのだった。
「ええっと?」
未だ寝ぼけた目を顰めながら、その正体を確認すると、それは手首に填められた青の腕輪、例のなれの果て?に他ならないのだった。
「ついに目覚めたのか?」
その思いが意識の上に登ってくると、一気に覚醒する祐二。
がばりと跳ね起きるなり、思わず部屋の中を見回す。本人は完全に目が覚めていると思って居ても、実は未だ頭が回って居ないのだった。
だが身体を起こしたことで、急速に意識の靄も晴れていく。
「そうだ、雨子さんに知らせなくっちゃ…」
ようやっとここに来て、事態を雨子様に知らせることに考えが行き着くのだった。
急いでベッドを抜け出るとあたふたと部屋を出、雨子様の部屋の前でノックをする。一度、二度、三度。
三度目になってようやっと部屋の中から、返事らしき声が聞こえてくるのだった。
「入るのじゃ…」
許可を得たと思った祐二が扉を開き、中に入ったのだが、その雨子様は未だベッドの中。くるりと布団にくるまれたまま、何だかむにゃむにゃ言っている。
これは祐二も最近になってから知ったことなのだが、雨子様、少しずつ人の身体に馴染めば馴染むほどに、どうにも寝起きが良くなくなってきているのだった。
「雨子さん?」
ベッドの傍らに言って声を掛けるが、するりと布団の中に潜り込んでしまう。
「雨子さんってば!」
今一度声を大きくして呼びかける。するとひょっこり顔を布団の外に出すも、今度は布団を身体に絡めるようにした挙げ句、丸虫よろしく丸まってしまう。
「これは参ったなあ…」
祐二はそうぼやくも、どうやら声掛けくらいで雨子様の眠りを破ることは出来なさそうだった。
仕方が無いと思った祐二は、少し及び腰に成りながらも、別の策を講じてみることにする。幸せそうな寝顔を晒している、雨子様の肩にそっと手を掛け、ゆっくりとその身体を揺さぶってみるのだった。
「雨子さん起きて…」
だが変わらず、全く起きる気配が無い。どうしたものかと思いつつ、ふと頭の中を過ぎるいやな予感。なんとは無しなのだけれども、以前もこんなシチュエーションがあったような?
良い予感というのは余り当たら無い気がするのだけれど、往々にして悪い予感というのは良く的中するものだった。
布団の中からにょっきりと雨子様の手が伸びてきたかと思うと、抗う間もなく首に回され、ぐいっとベッドの上に引き倒されてしまう。
「むふふふ…」
そんな風に声を上げながら、幸せそうな表情で祐二のことを見つめると、きゅうっと抱きしめてくる雨子様。
「雨子さん?」
何とかそれに逆らって身体を起こそうとするも、全く身動きを取ることが出来ない。
雨子様ってこんなに力持ちなのだっけ?祐二は訝しむも、どうしようも無いのである。
「祐二ぃ…」
尚もそんなことを呟きながら、放そうとはしない雨子様。
当然そんな雨子様の柔らかさや、温もり、香しい薫りなんかももろに伝わってくる訳で、祐二の胸の中では鼓動が果てしなく早くなっていく。
「雨子さん、頼むから…」
切ない思いを必死になって抑えながら、何度も雨子様に声を掛ける祐二。
その呼びかけがとうとう功を奏し始めたのか、何とは無しに徐々に抱きしめる腕の力が緩くなっていく。
その隙を見計らって、祐二は少しずつ雨子様の腕の中から抜け出していく。
その過程のある一瞬。祐二の顔の目の前に有る雨子様の顔。
夢見心地で祐二のことを見つめている雨子様の瞳が、急速に光りを帯び始め、その焦点が祐二の顔の上に収束していく
「祐二?」
ぽやんとした口調でそう問いかける雨子様。
「うん」
丸で間の抜けたような口調でそう答える祐二。
「其方一体何をして居るのじゃ?」
間近にある祐二の顔を意識したのか、少し顔を赤らめながら問う雨子様。だがその腕は未だ祐二のことを解き放つことは無い。
苦笑しながら祐二は答える。
「君を起こしに来た結果が今の状態…」
その言葉の意味が徐々に頭に染み通るにつれて、顔が真っ赤になっていく雨子様。
「その…途中まで夢かと思うて居った…」
だがそう言いながらも、雨子様の腕が祐二を手放すことは無かった。
「もう完全に目は覚めた?」
祐二がそう言うと、僅かに口籠もりながら雨子様が言う。
「覚めたのは覚めたのじゃが…もう少し夢を見ていたかったの…」
そんな雨子様に笑いながら祐二が言う。
「全く、一体どんな夢を見ていたのやら…」
すると少し悪戯っぽそうな目で祐二のことを見つめながら言う雨子様。
「知りたいのかえ?」
腕輪のことを思い出していた祐二が素っ気なく言う。
「どうかな?」
するとぷっくりと膨れる雨子様。
「知りたいと言うのじゃ!」
そんな理不尽なと思いつつも祐二は雨子様に合わせて上げる。
「うん、どんな夢を見ていたの?」
仕方無しとばかりに祐二がそう言うと、雨子様はにっと笑みを浮かべながら言う。
「では目を瞑るのじゃ」
少しでも早く腕輪のことを話したくて、祐二は言われるがままに目を閉じる。
すると首からふっと雨子様の腕の圧が抜けたかと思うと、唇に暖かく柔らかな感触が一瞬だけ現れる。
何事と思い目を開くが、雨子様の姿はもうそこには無い。
彼女はクローゼットの前に立って、祐二の方を見ながら言うのだった。
「我はこれから着替えるのじゃ、早う部屋から出て行くが良い」
しかし混乱の極みに有る祐二が言う。
「ねえ雨子さん、今のは一体?何?」
対して雨子様はにこにこ笑みを浮かべながら言う。
「ほんの少しばかり夢の続きを見ただけのことじゃ、早う行くが良い」
そうやって追い立てられてしまった祐二、何だか彼の方こそ未だ夢から覚めていないのでは無いかと思いつつ、雨子様の部屋から出て行くのだった。
羨ましい・・・こんな経験してみたいものです
いいね大歓迎!
この下にある☆による評価も一杯下さいませ
ブックマークもどうかよろしくお願いします
そしてそれらをきっかけに少しでも多くの方に物語りの存在を知って頂き
楽しんでもらえたらなと思っております
そう願っています^^




