「祐二の不安」
瀬織姫様達は帰って行かれました
瀬織姫様を迎えての賑やかな会合があってから二週間。近隣の観光地を節子と回り尽くした感のある彼女らは、名残惜しそうに再び空港に戻り、機上の人となって故郷へと帰っていった。
元々はそんなに長く滞在するつもりは無かったようなのだが、途中家の方に連絡すると、神様に呼ばれ、そして出掛けているのだし、普段最も苦労していたのは沙喜なのだからと、大いに羽を伸ばして構わないと寧ろ奨励されたとのこと。
確かに一家を預かる立場の人間とも成れば、そうそう簡単にのんびり旅することも適わないのだが、いっそとことん羽を伸ばしてこいとまで夫に言われれば、礼を述べつつその好意に甘える方が良かろうと思う沙喜なのだった。
宿については瀬織姫様同行でもあるし、いくらでも宿泊していくが良いと、和香様からお墨付きを貰っているだけで無く、節子にも是非遊びに来てと言われて家に招待された為、本当に気楽な思いで居ることが出来ていた。
おまけに往復の旅費も、公のことであるからと全て宇気田神社側から出ていたので、沙喜が当初考えていた費用が全く掛からず、それらが全て旅の楽しみに使えたことも、実に嬉しい誤算となっていた。
お陰でその分故郷の皆へと買い込んだお土産が大変なことに…。結構な量になって居て、これをどうやって飛行機へと、沙喜が途方に暮れていたところ、節子から別に宅配で送れば良いと教えられ、欣喜雀躍。更にお土産を買い足したのはここだけの話となっている。
そうやって沙喜さん達がこちらに居る間、常に行動を共にしていた節子、その間のことが余程楽しかっただろう。特に沙喜さんとの相性が良く、勿論瀬織姫様とも仲良かったのだが、その楽しさが忘れられない節子は、早速に彼の地への旅行を企て始めるほどだった。
沙喜さんとは携帯のアドレスなんかも交換しているらしく、毎日楽しそうに会話したりメッセージを交換したりもしている。
それを見ながら雨子様、目を細めながら言う。
「お母さん、本当に楽しそうじゃな?」
話しかけられた祐二は、うんうんと頷きながらそれに答えるのだった。
「母さんはさ、元々は沙喜さんところからの方が近いくらいの土地から、父さんに嫁いでここに来てるんだよ。だから此処では、昔なじみで気の合う感じの友達が余り居ないんじゃ無いのかな?七瀨のお母さんとは仲良い見たいだけれどもね」
「成る程、そう言うことなのかや。そうであるとするなら、あの様に嬉しそうなのも分かる気がするの?」
そう言いながら、雨子様はじっと節子のことを見つめ、やがて祐二にのみ聞こえる様に声を潜めて言う。
「のう祐二よ、折を見てお母さんを向こうに旅行させて上げぬか?」
そう言う雨子様ににこにこ顔で返す祐二。
「良いね、でもそれなら費用とかも工面して上げたいって思うのだけど、だとバイトしなけりゃ駄目だし…、今すぐは無理かもなあ。その辺また次の機会と言うことで、大学に行きだしてから考えるのが良いかもね?」
「まあ確かにの、勉学が疎かに成って浪人にでも成ろう物なら、逆に迷惑を掛けてしまうであろうからの」
そう言う雨子様のことを少し羨ましそうな表情で見つめる祐二。
「でも考えたら、雨子さんの成績なら推薦枠で十分じゃ無いのかな?ところで雨子さんは文系理系、どっちに進むつもりなの?」
「そう言う祐二はどうなのじゃ?」
「僕が聞いて居るのに何で雨子さんが聞くんだよ?」
笑いながら祐二が言うと、口を尖らせながら雨子様が言う。
「元々我が何の為に人の身と成って居るのか忘れたのかや?」
その言葉を聞いた祐二はかつての雨子様の言葉を思い出していた。
「確か僕から精のエネルギーを貰うのがそもそもの発端だったよね」
「うむ、その通りじゃ」
「でもさ、今は小さいって言うけれども、宝珠も手に入れている訳じゃ無い?べつに精を僕から受け取ることに拘らなくても…」
すると雨子様は目を釣り上げながら言う。
「何を言うて居るのじゃ祐二は?我は今、精よりも大切なものを受け取って居るのじゃ。にもかかわらずそんな我に離れることを願うのかや?」
「え?そんなもの上げていたっけ?」
そう答える祐二のことを呆れたような目つきで見る雨子様。
「仮にもいずれ我と夫婦になろうかという其方が、そのようにつれないことを言うのかえ?」
きっとした目で祐二のことを睨む雨子様。祐二痛恨の失策かも知れない。
「あ、うん、そう言うこと…何だよね、うん、分かった」
そう言う祐二のことをまじまじと見つめる雨子様。
「まあ全く悪気の無いことも分かって居るし、其方が男女のことには朴念仁じゃと言うことも分かって居る。だがそれにしても酷いのでは無いかえ?」
そう言う雨子様は涙目だった。
「祐ちゃん、何、雨子ちゃんのこと虐めているの?」
突如声がするので振り返ると、いつの間にやら節子がそこに居た。
「いやその…」
どう説明したら良いか分からずに、おたおたしていると先に雨子様が答えるのだった。
「別に虐められた訳では無いのじゃが、進学の話になっての。祐二が我と道を違えても気にせん様なことを言うものじゃから…」
「あらまあ、でも確かにいずれ夫婦にと思うような仲なんだから、一緒に居たいって思うのは普通って言うか、分かるような気がするわね。でも雨子ちゃん自身、本当に何かしたいこととか無いの?」
そう言いながら優しい目で雨子様のことを見つめる節子。
「むう、やりたいことの…?」
そこまで言うと雨子様は、顔を赤らめながら言う。
「適うなら節子と同じように、人として子供なるものを産み、母と成って育ててみたいと思うの」
「成る程ねえ、そう来るかぁ。勿論祐ちゃんの子を何だよねえ」
顔を真っ赤にしながら無言のまま頷く雨子様。
見ると祐二もまた全く同じように顔を赤く染めている。
「まあそうなると祐二には頑張って進学して貰って、良い就職口を見つけて貰わないと駄目よね。でないと雨子ちゃんを養っていけないわよ?」
すると急に顔を上げた雨子様、真剣な目つきで節子に言う。
「それについてなのじゃが、我は祐二と共に大学を卒業した暁には、和香の所の手伝いとして、家事の傍ら神様業を果たそうと思うて居る」
「そうなるとますます祐ちゃんが、どんなところに就職したいかって言うのが大事になってきそうね?場合によっては離ればなれって言うか、単身赴任になっちゃうかもよ?」
そう言いながら目顔で問いかけてくる節子に、落ち着いた声で答える祐二。
「僕はさ、出来たら工学系の学科に行って、地元にスパコンの研究所があるじゃ無い?ああ言った所で研究とか出来たらなって思ってる」
「なら我も其方と同じ工学系の大学に行くのじゃ。」
嬉しそうにそう言う雨子様。
それを見た節子は苦笑しながら言う。
「まあ雨子ちゃんなら祐二が何系に進もうとも、余裕でついて行っちゃうんだろうけどもねえ。なんて言ったっけ?思兼神?だものね」
節子の話を聞きながら、深い溜息をつく祐二。
「そうなんだよなあ、雨子さんは元を辿れば学問と知識の神様なんだものなあ。くぅ~~、なんか羨ましい」
そう言って羨ましがる祐二に、節子は呆れながら言う。
「何言っているの祐ちゃん?あなたったら、そんな優秀な方に、専属の家庭教師をして頂いているのも当然なのよ?それこそどこにだって行けるでしょうに?」
「確かにそう言われてみたらそうなんだけど…」
そう言ってしょぼくれる祐二に、助け船を出す雨子様。
「そう責めるでないお母さん。当たり前の人として祐二は既に十二分に努力して居る。更には我と夫婦神に成る為の努力までしてくれて居るのじゃから」
「確かにそう言われてみたらそうよねえ」
そう言い合いながら二人してじっと見つめてくるのを感じた祐二、何ともこの先前途多難と思ってしまう。
勿論何も幸先が悪いとかそう言うことでは無いのだ。しかし仲良すぎる母親と雨子様を見ていると、どことは無しに、何か不安を感じてしまう祐二なのだった。
こう言うところ、祐二も当たり前の男の子なのだなあ
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