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天露の神  作者: ライトさん
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閑話「プランV」

毎日の生活にバタバタしていたら、はたと気がつきました、あれ?今日ってヴァレンタインデーじゃん。せっかく物語りには女の子達が居るのに、彼女たちに活躍の場を与えないのはどうなの?

そう思ったものですから、一日遅れではありますが特別編。

あくまで現在進行形の物語りとは時系列が異なるので、パラレルワールドの話しとしてお読み下さい。

 さてここは、今続けられている世界線とは少し別の世界。ここにも雨子様がいて祐二が居て、他の皆もいます。

 この世界では、あと三日で二月十四日、ヴァレンタインデーなるものがやってきます。そんな時分にそれぞれの女の子達がはたして何をやっているのか?ちょこっと覗いていって見たいなと思います。





…七瀬編…


 ヴァレンタインデーまでもうあと三日、どうしよう、どうしようと気ばかり焦るのだけれども、なかなか結論が出ない。

去年は結局他の人達と同じ扱いで友チョコを渡してしまったのだけれども、今年もそうなってしてしまうのかな?


 七瀬は台所にて、目の前に積み上がっているチョコを見ながらため息をつく。

友チョコで良いならこれを加工するのも何だか馬鹿らしいとも思えてしまうのだけれども、でも手作りにしておけば友チョコと言いつつも、自分の思いの籠もったチョコを食べてもらえるという喜びだけは、得ることが出来る。


 なんて言うか自己満足?そう、自己満足でしかないのだけれども、七瀬の心の中にちゃんと彼にチョコをあげたんだという事実は残る。


 そこまでするならいっそちゃんと告白して本命チョコとして渡せば良いのに、その勇気が出ない、出すことが出来ない。


 だってもし、もし本命として渡して迷惑がられたらどうしよう?彼がそんな人の心を傷つけるようなことは絶対にしないとは分かっている。

でもだからこそ余計に彼が自身の感情を抑え込んでしまうことが怖い。


「ねえねえ、こんなに沢山のチョコレート。一体どうするんです?食べちゃ駄目なんですか?」


横から脳天気に聞いてくるのはクマドロイドのユウ。


「もう!私が真剣に悩んでいるのに!」


 七瀬はユウの空気の読ま無さ加減にプンスカと怒る。

だがユウはそんなことちっとも気にしない。


「ねえねえ、食べちゃ駄目?」


はぁっとまた七瀬は大きくため息をつく。チョコの包み紙を一つ解いて欠片をユウに渡す。


「うぉう!こいつもの凄く美味しいですよ?」


そう言いながらユウはチョコを掲げるようにしてテーブルの上でぐるぐる踊っている。


「何よその踊り…」


 そう言うと七瀬はクスリと笑う。ユウの戯けた踊りを見ていると、色々と悩んでいることが馬鹿らしく思えてしまう。


「まあいいや、食べてもらえたら嬉しいんだし、頑張って手作りするかな」


七瀬はそう言うとチョコの湯煎に取りかかるのだった。





…雨子様編…


 昨日雨子様はネットをうろついていて、と有ることに気がついた。

なんでもまもなく女性が男性にチョコレートなるものを上げる日が到来すると言う事を。


 別にそんなに狭量なものではなくって、同性にも上げても良いらしいし、上げても上げなくても良いらしい。


 ただ世話になっている人に上げると、その後の人間関係が円滑になるという効能があるとのこと。

更には好いた異性に上げることで、その仲が一層深まるとのこと。


「人と言うものはなんとも面白きことを考えるもので有るなあ」


 神様という存在から見て、今一ことの意義が良く分からない雨子様なのだが、世話になっているものも居ることであるし、ここは一つ頑張ってみるべきなのかなと思っている。


 幸いなことに雨子様は母御に小遣いなるものを幾ばくか貰っている。

そんな気遣いは無用とは言ってはいたのだが、今となってみると母御の細やかな気配りに感謝せざるを得ないところだ。


 所用があって今は祐二は居ない。居れば買い物につき合えと引っ張り出すのだが、と、これは居ないほうが良いのかとも思う。


 渡す相手の目の前で目的のものを買うのも、何だかおかしいではないか?

とかとか、色々な事を考えたのだが、結局一人で買いに出かけることにした。

行き先は近所のスーパー、今まで何度か祐二と来たことがある。


 店に入ると、何時もの菓子売り場以外にあちこちでチョコレートを売っていて、そこかしこで女達が群れている。


「むぅ、これもヴァレンタインデーなるものの効果なのかえ?」


 そこに立ち上る熱気に雨子様は少し後ずさりしながら感心する。


「も、もしかしてあれを抜けて買わねばならぬのかや?」


 その場で呆然と立ち尽くす雨子様。

何度か突入しようと身構えるのだけれども、雨子様をしてそのタイミングが掴めない。


「やれ困ったものよの」


 等と言いながら立ち尽くして手をこまねいていると声がかかった。


「あら、雨子様ではないですか?どうかされました?」


 そう声を掛けてきたのは祐二の母御だった。丁度買い物に来ていたようだ。


「むぅ、世話になっている者に渡すチョコレートなるものを買おうと試みたのじゃが、ほれあの様子じゃろ?」


 そう言いながら雨子様はチョコ売り場の方を指し示した。


「なるほど雨子様は、チョコを買おうとなさっておられたのですか」


 母御は雨子様の戸惑いを見ながら、心中ではその可愛いらしい困り顔に胸がキュンとするのを感じていた。


「雨子様、私が既に買い置いてあるのがありますから、良かったら御一緒に作りません?」


「なんと母御よ、良いのかえ?」


「かまいませんとも」


「じゃがチョコを上げる者の中には母御も含まれて居るのじゃが…」


「それならお互い作ってお互い上げっこしましょ?」


「む?」


「だって私もお世話になっている雨子様に差し上げたいのですから、お互いに上げっこすれば丁度良いではありませんか?」


「なるほど、確かにの。それでは頼めるかや?」


「ええ」


 その後二人は自宅へと戻り、母御が用意していたチョコレートと、その他材料を使って手作りに挑み、更にはラッピングまで施すことになった。


 雨子様は生まれて初めてのその体験に、何故か胸の高鳴るのを感じつつ、ご満悦の表情を浮かべているのだった。





…当日…



 学校から帰ってきた祐二は部屋に戻るなり鞄をひっくり返した。

コロコロと転がり出でるは何れもきらびやかな小さなチョコ。俗に言う友チョコである。


 お返しは何にしようかな等と、チョコをくれた者の顔を思い浮かべながらメモ用紙にしたためるのだが、考えてみたら未だ本命チョコなるものは貰ったことがない。


 はたして何時かそんな日が来るものだろうか?等と考えてもみるが、こればっかりは相手の有ること、下手に考えて見ても致し方の無いことである。


 とそこへ、少し遅れて学校から帰ってきた雨子様が入ってきた。

と、思ったら続けて七瀬も部屋に入って来る。


「うわ、それ何?そんなにチョコ貰ってたの?」


とは七瀬。


「そんなにって言うほどでも無いじゃ無いか?後藤なんか鞄に入り切らないくらい貰ってたぞ?」


等と言いながら祐二はちょっぴり羨ましいと胸の中では思って居た。


「ヴァレンタインデーとか言うたかの、教室の中の喧しいことには我は驚いてしもうた」


雨子様がやれやれと言った感じでぼやく。


「だよね、流石にあれは行きすぎかもって思っちゃうよ」


「うむ」


「あんな中だと友チョコだって渡すのどうかなって思っちゃう」


 そう言いながら七瀬は鞄を開けてごそごそと何かを取り出そうとしている。


「はいこれ祐二、チョコレート!」


祐二が他から貰ったチョコ達より少しばかり大きい。祐二がお礼を言おうとしたその瞬間


「そうじゃ我からもこれじゃ」


と雨子様も包みを取り出してくる。それがまた結構大きいのだ。


 ぎょっとして目を大きく見開き雨子様を見る七瀬。

今まで雨子様のことを色恋の完全圏外だと思って居ただけに、青天の霹靂?驚きも半端ない。


「ああああ、雨子さん?」


しっかり口が回っていない七瀬。


 すると雨子様はそこへもう一つ包みを引っ張り出してくる。


「これは七瀬にじゃ、普段から何かと世話になって居るからの」


「…」


 どうやらこの大きさで有りながら、雨子様のチョコレートに恋愛要素はゼロなのかも知れない。そう考えた七瀬は人知れずそっと胸を撫で下ろした。


 はてさて、チョコの軽重に係わらず人の思いは交錯していく。その思いがどう言う思いだったとしても、受け取る側は感謝の思いを確としたいものですね。


珈琲好きの筆者にとってはチョコは大好物。まさにマリアージュの一つと思って居ます。


そうそう、本日より更新時間を変更します。

これからもどうか拝読の程よろしくお願い致します。

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