「願い」
お待たせしました
「ねえ、祐二君」
「はい、なんでしょうか沙喜さん」
沙喜はいつの間にか祐二の元を離れ、神々に囲まれてちやほや?いや、優しく癒やされている雨子様のことを見ながら言った。
「私ね、神様ってもっともっと力強くって、強かなんだって思っていたわ」
「確かにそう言う部分が有るのは事実です」
そう言う祐二の視線の向こうでは、膝の上に瀬織姫様を乗せた雨子様が、その身を抱きしめながら幸せそうに笑っている。
肩越しに和香様が何か話しかけ、小和香様はどこからか茶菓子を出してきて、雨子様の前にそっと置いているのだった。
「何だかね、ああやって見ていると、本当にどこにでも居る女の子達みたい…」
そう言う沙喜に苦笑しながら祐二は答えるのだった。
「そうですね、実際学校で、他の女の子達に交じってわいわいしている雨子さんを見ていたら、きっと神様だなんて絶対に想像付かないと思いますよ?」
「あはっ…、そうなのね?」
そうやって沙喜と祐二が小さな声で話し合っていると、不意に傍らに居たニノが話しかけるのだった。
「祐二さん、先ほどの雨子様の悲しみ様は、逆にある意味神様だからだと思われます」
ニノのその言葉に祐二が不思議そうな顔をしながら尋ねる。
「どうしてニノはそう言うんだい?」
祐二がそう言うと、彼女は祐二のことを優しい目で見つめながら問うのだった。
「祐二さんは雨子様が悲しまれるきっかけの事件を、実際に見せて貰ったと仰っておられましたよね?」
祐二はその時のことを思い出そうとしながらゆっくりと答えた。
「うん、確かあの時はそうだね、おそらく雨子さんの記憶に潜り込ませて貰うような、そんな感じで見せて貰ったんだと思う」
「はい、多分そうでは無いかと思っておりました」
それを傍らで聞いて居た沙喜が驚いたように言う。
「へえ、そんなことが有ったんだ、それでどうなの?映画でも見ているみたいな感じだったの?」
問いかけてくる沙喜に、暫し当時のことを思い出しながら祐二が言う。
「うん?どうだったかな?大体はそんな感じだったと思う。でも今思うに、僕たちが見る最もリアルな映画よりも、もっともっと、遙かに現実的だったように思うよ」
「それはどうして?」
不思議そうに祐二のことを見つめながら、好奇心故尋ねてしまう沙喜だった。
対して祐二は、その時のことを次第に詳しく思い起こしながら言うのだった。
「だってね、沙喜さん。否の打ちようも無く立体的で、匂いが有り、肌で風を感じって言うか、五感全てで感じたんだよ」
「そんなに?それは凄いわね?」
感心しながら沙喜が言う。
と、そんな彼らに対して再びニノが口を開いた。
「祐二さん、ある意味それが答えなので御座います」
「それが答え?」
ニノの言う意味が良く分からなかった祐二が、首を傾げながら言う。
「はい。では今一度お尋ね致しますが、その時祐二さんが見ておられた物は、一体何だったので御座いますか?」
「見ていた物は何って、雨子さんの記憶な訳なんだけれども…ああっ!」
「どうしたの祐二君?」
祐二の驚きようにその訳を尋ねる沙喜。
「僕が見て感じていた物が雨子さんの記憶だとすれば…、雨子さんはあの時の、あの悲しい記憶を何もかも全て覚えているのか…」
愕然とした表情でそう言う祐二。
今一つその意味が飲み込めていない沙喜は、少し焦れながら祐二がその先の言葉を語るのを辛抱強く待つのだった。
そして祐二は、間を置くこと無く沙喜のその期待を感じ取り、切なさそうに答えるのだった。
「あのね沙喜さん、僕たち人間はどんなに悲しい事があっても、時が経つにつれ次第に記憶を風化させ、優しさの中に埋没させる…。そう言うことが出来るじゃ無い?でも神様はそれが出来ない、おそらく自然には忘れることが出来ないんだと思う。だから多分過去の悲しい記憶が丸のまま、今の彼女の中に残っている、そう言うことなんだと思うよ」
祐二のその説明に静かに頷くと沙喜は言うのだった。
「だからなのね、先程の雨子様のあの悲しみ様は…。きっと雨子様にとって過去の悲しみは、いいえ、過去の悲しみでは無く、今もその延長線上で生きていると言うことなのね…」
今更ながらその意味を知り、雨子様の胸中を思って愕然としてしまう祐二なのだった。
「でもそれならそんな悲しい思い出、いっそ消してしまえば…ああ、無理だなあ」
悲しみ続ける雨子様のことを見ていたくない、そう思った祐二は自らの思いを述べかけ、しかし直ぐに、そうでは無いことに気がついてしまうのだった。
「はい、おそらく雨子様にとってその記憶は、無くしたくない記憶と一緒になっているのでしょう…」
そう言うニノに少し驚くようにしながら同意する祐二。
「全く、その通りだと思うよ。雨子様にとって、ミヨ…雨子様と拘わることになった女の子の名前なんだけれども、彼女との記憶はとっても大切な物で、決して失っても良いようなものでは無いのだと思う」
祐二がそう言うと、彼と沙喜、ニノまでもが揃って、それまでとはまた少し違った意味で、敬意を持って雨子様のことを見つめるのだった。
と、そんな彼らの視線に気がついた雨子様が、すとんと瀬織姫様を膝から下ろすと立ち上がった。
「なんじゃそなたらそのような目で…なんとなくであるがその、もぞもぞしてしまうのじゃが?」
そう言うと少し照れくさそうに笑う雨子様。
そんな雨子様に沙喜が、少しばかり言いにくそうに思いを口にする。
「あの…、雨子様?」
何かを願いたそうな沙喜に、優しい目をした雨子様が言う。
「なんじゃ沙喜、何でも言うて見るが良いよ」
すると沙喜は、目に期待と不安の色を差しながらそっと申し出るのだった。
「あの、雨子様、抱きしめさせて頂いてよろしいでしょうか?」
沙喜のこの思いも掛けに言葉に、僅かに目を見開いた雨子様、直ぐににっと笑うと言う。
「うむ、かまわぬぞ沙喜」
すると沙喜は未だ僅かに逡巡しながら、優しくそっと雨子様のことを抱きしめると、小さな声で言うのだった。
「雨子様…、あなた様の悲しみが少しでも癒やされ、暖かな思いに包まれますように…」
さすがの雨子様も、不意の沙喜のこの言葉には何も言えず、ただ黙って抱擁を返すばかりなのだった。
暫く経ってぽつり言う。
「馬鹿者、また涙が溢れてしもうたではないか…。ありがとうの沙喜、何よりも嬉しい言葉よの」
最後に今一度きゅうっと沙喜のことを抱きしめると、その身を離し、げしっと手の甲で涙を拭いた雨子様は、何か決心を込めたかのように皆の方へ振り向いた。
「済まぬの、さて話を続けようかの?」
誠に申し訳ありませんが、明日は所用によりお休みさせて頂きます
明後日より再開いたしますので、よろしくお願いいたします
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