「泣き崩れる」
遅くなりました
結局会議の結末としては、和香様のところから乗車券等を送ると言うことで、瀬織姫様と沙喜にこの地に来て貰うことになるのだった。
考えてみれば沙喜の方は折良く農繁期を終えて、少々無理が利く時期でもある。
それだけで無く 村長宅には長男夫婦も同居しているのであるから、多少の期間沙喜が居らずとも何とでも成るのだった。
そう決着がついたと言うことで、当面の手続きとやり取りは小和香様が当たることになる。
何故にそうなったかというと、小和香様が間に入ってビジネスライクにやり取りを行った方が、沙喜がこちらに来やすくなるだろう、そう考えてのことだった。
節子に匹敵するような気づきを持つような沙喜のこと、情が絡むと逆に自分では来ようとしなくなるのでは無いか?そのように考えたのだった。そして観光云々の話は、沙喜がこちらに来てからしようと言うことにも成ったのだった。
もっともこの辺りの取り決めは、神様方の間から出た話では無く、細かい話を聞いた後に節子から生み出された案なのだった。
「うん、節子さんの提案でええと思うで」
そう、嬉しそうに言うのは和香様。懸案事項が素早く纏まったのをとても喜んでいるのだった。
逆に神様方から全幅の信頼を頂いてしまったことになる、節子の方が不安げな顔をする。
「聞けば何となく私に似たところがある方とのこと、だから私ならこうするかな、こう考えるかなって思った方法を述べたのですが、絶対じゃ有りませんからね?」
節子はそうやって釘を刺すことを忘れなかった。
だがそれについては雨子様自身が、適時サポートを入れるからと節子を納得させるのだった。
「結局こうやって節子さんとこ来させてもうたお陰で、無事解決、万々歳やな」
和香様が恵比寿顔でそう言うと、その傍らで小和香様も同じように笑みを浮かべて喜んで居る。
この国の為の諸事雑事だけで無く、定例の神様会議の為と、多くの仕事を抱えているこの二柱にとって、思いの外早く懸案事項が片付いただけで無く、美味しい物に舌鼓を打つことが出来たり、皆との会話などで憂さを晴らしたりすることが出来たのは、想像以上に有りがたく思えることなのだった。
暫く前に和香様が、吉村家のことを自分達にとってのオアシスだと言ったのも、あながち大げさな表現では無いのだった。
「しかし田笹湖かや、些か気になる地名で有ることよの」
和香様達の喜びとは別に、浮かぬ顔をしている雨子様。
「その湖に何かいわれが有るのですか?」
そんな雨子様の顔色を気にしながら令子が問う。
「うむ、それがじゃな、確かあの地には龍神伝説が有るのじゃが、その一角を占めるのがその田笹湖なのじゃ」
「そうなんだ。龍神様かあ。何だかロマンチックな響きよねえ」
そう言いながら胸のところで手を合わせる令子。
そんな令子のことを怪訝な目で見つめながら雨子様が言う。
「龍神と言うだけでそのようにロマンチックなのかえ?」
そう言う雨子様に令子はゆっくりと頭を横に振ってみせる。
「別にそう言う訳じゃ無いのだけれども、ずっと昔子供の頃…」
そう言う令子の話を聞いていた雨子様は、一瞬不思議そうな顔をするのだが、やがてに頷きながら言うのだった。
「もしかすると令子、それは前の生での話しなのかえ?」
すると令子は少し首を傾げながら言う。
「う…うん、多分そうだと思う、そのはずよね。何となく朧にしか覚えていないのだけれども、女の龍神様が青年に一目惚れをして、その青年の為に村の悪人を懲らしめる…みたいな話しだったように思うわ」
「成るほどの、つまりはそこにはやはり恋の話しが係わって居るのじゃな?まあ令子らしいような気もするがの…」
そう言う雨子様に、令子が頬を膨らませる。
「小さい頃読んだ話だもの、そう言うことだって有るわよ」
そう言いながら令子は、遠い過去の記憶を探りながら物思うように言うのだった。
「確かその龍神様、その青年のことを思いながらも、思いを遂げられないというか、何だかとても可哀想に思えて、切なくて。それでとても良く記憶に残っているのよ」
「なるほどの…」
そう言う雨子様自身も、記憶の底を漁っているようだった。
だが確りと思い出す前に節子の手を叩く音に呼び覚まされる。
「さあさ、色々あるかと思いますがまずはお風呂に入って下さいな。これだけの人数なんですから、順々に入っていかないといつまで経っても終わりません…」
節子はそう言うなり少し思案し、まず和香様と小和香様にお風呂に入ることを勧めるのだが、何故だか小和香様に否と言われてしまう。
そのせいで虚脱状態になってしまう和香様。
その和香様、小和香様に泣きすがるようにして言う。
「なあなあ小和香、うちの、うちの何が悪かったん?反省するから機嫌直して~~~」
周りの者達もそのような展開になるとは思っても居なかったので、皆一様にはらはらしている。だがその次の小和香様の発言で一気に氷解するのだった。
「わ、和香様、別に隔意はありません。ただ私は久しぶりなのでその、令子さんと一緒に入りたいと思ったのです」
それを聞いていた雨子様、苦笑しながら言う。
「何じゃそう言うことかや、なら我と共に入るのじゃ、良いの?」
そう言うと雨子様は、未だ今一状況の飲み込めていない和香様の襟首を持ち、軽く引きずりながら、浴室の方へと消えて行くのだった。
残された小和香様と令子は、小さな声で互いの近況を話し合い、楽しそうに笑い声を響かせるのだった。
それを見ていた節子、祐二に向かって小声で言う。
「ほんの少しだけれども小和香様って変わった?」
対して祐二は僅かに首を傾げながら言う。
「もしかするとそうかも。多分和香様の分霊って言う立場から、妹神って言う立場に変わられたからじゃないのかなあ?」
それを聞いた節子、なるほどと思いながら、丸で姉妹のように仲の良い小和香様と令子のことを温かい目で見守るのだった。
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