「定例会議」
ちょこっとお待たせしました
「それで和香よ、彼の地にて一体何が起こったと言うのじゃ?」
雨子様はぐいっと身を乗り出すと、丸で和香様を睨み付けるようにしながら言った。
「わわわっ!そんなに睨みつけんといてえな雨子ちゃん。いくら何でも怖いで?そうでのうても雨子ちゃんは目力強いのに…」
後半ぶつぶつと丸で零すかのように言う和香様。だが直ぐに意識を切り替えて説明を始めるのだった。
「それでなあ、瀬織姫ちゃんなんやけど、何回も何回も文送ってきたりな、偶に電話とかしてきたりして、その度に雨子ちゃんに会いたい言うてきとるんよ」
それを聞いていた雨子様、途端に苦虫を噛みつぶしたような表情になりながら言う。
「もしかして和香よ、まさか其方それを異変とは言うまいの?」
雨子様の台詞を聞いた和香様はびっくり眼をしながら言う。
「止めてえな雨子ちゃん、なんぼうちでも巫山戯てええ時と、そうで無い時位心得とるで?もっとも、ちょっと面白いかな思うて、こういう出だしで話し始めたんやけど…」
そう言う和香様に小和香様から鋭い声が飛ぶ。
「和香様!」
「うははぁい!」
別に叱責というようなものでは無かったのだが、小和香様の鋭い声に首を縮込める和香様。だが直ぐに真顔になって話を続けるのだった。
「まあそれでなんやけど、瀬織姫ちゃんの思いには何とか応えて上げたいのは一旦横に置くとして、彼女からの報告の内容やねん」
真剣な顔をして話し始める和香様、それを見て居た節子は令子と共に、静かに、けれども速やかにテーブルの上を片付け始める。
そして今一度ほうじ茶を入れ直し、更に美味しそうに剥かれた梨を皆の前に置くのだった。
「瀬織姫ちゃんの言うには、彼女の居るところから凡そ北東方向…節子さんおおきに、この梨めっちゃ美味しいわ…で、何がか分からへんらしいねんけど、騒々しい?んやと」
「騒々しい?」
和香様の言葉に首を傾げる雨子様。
「むぅ、あの子もあんまり経験多う無いから、自分の目で前で起こっとることが何で有るのか?今一よう分かっとらへんのやろうね」
「成るほどの、瀬織姫は未だ神としては極めて若い部類じゃからの」
瀬織姫のことを脳裏に思い起こしながらしみじみという雨子様。
「そこでやな、雨子ちゃん」
身を乗り出してそう言う和香様に、雨子様は吐息を吐きながら言う。
「まさか和香、我に今一度向こうに行けというのでは無かろうな?」
和香様の目が思わずお願いという形になる。
「あかへんのん?」
縋るような目つきで言う和香様に、見るからに困惑した雨子様が言う。
「いやの、行きたい気持ちも無いでは無い」
「そうなん?そやったら…」
俄然嬉しそうになる和香様。
「じゃがの和香、何故に其方や小和香が行かぬのじゃ?」
渋い表情をしながらそう言う雨子様に、和香様は頭を抱える素振りをしながら言う。
「何言うてんのん雨子ちゃん、今月は何月?そして来月は何月なん?」
そう問われた雨子様、少し宙を睨むとその答えを言う。
「今月は十月で、来月と言えば十一月よの?一体何を…」
そこまで言いかけてあっと言う顔をする雨子様。
「例の定例会議かや?」
大きく頷いて返す和香様。
「そうやん、そうやん、そうやんか。その準備でうちも小和香も大忙しなんやで?猫の手も借りたい…現にニーの手は借りまくっとるけどな。メイドさん部隊が出来て大助かりや」
「むぐぐぐ、となると其方らは動けんはな…」
そう言うと腕組みをして考え込む雨子様に、傍らから祐二が小さな声で問う。
「ねえ雨子さん、例の定例会議って何なの?」
すると雨子様、小さく笑みを浮かべながら祐二に言う。
「のう祐二、来月は何月じゃ?」
「十一月、さっき雨子さんも言っていたよね?」
「そうじゃな、その期間凡そ旧暦で言うなら、十月に当たるのじゃが、昔風に言うとどうなる?」
「ええっと、神無月…ああそうか!」
「うむ、その通りじゃ」
嬉しそうに言う雨子様、しかしそれに対して祐二は怪訝な顔をするのだった。
「でも神無月にどうして和香様達が忙しいの?」
祐二の横では令子と節子までもがうんうんと頷いている。
「それがじゃな、ここから先は内緒じゃぞ?」
三人揃ってまたも大きくなずく。それを確りと目にした雨子様は一応ちらりと和香様の方を見る。すると和香様もまた小さく頷いて見せるのだった。
「一応人間界ではこの定例会議、出雲の地にて開くことになって居るのじゃが、あくまでそれは人間界における伝承での。昨今は便利の一言で、和香のところで開かれるようになって居るのじゃよ。特に例の龍像のことがあってからは、それが規定のこととなり居ったようじゃの」
「あちゃあ~」
とは節子。その節子の所に行って涙目でしがみついている和香様。
そんな和香様を捉えて静かに言う雨子様。
「和香、やり過ぎじゃ」
「てへっ!」
「てへっでは無いわ。まあこんな和香じゃからこそ、様々な重荷に耐えて重責を果たすことが出来て居るのじゃろうな…」
そう呟くように言う雨子様のことを、大きく目を見開きながら見つめる和香様。
「なあ聞いた小和香、あの雨子ちゃんがうちのこと褒めてくれとるで?」
「はい聞きました。凄いです!」
そう言うと二柱は手を取り合って喜ぶ。
「これ小和香、じゃれるのはそれ位にするのじゃ」
雨子様にそう注意されると、すんとばかりに大人しくなる小和香様なのだった。
「ところで和香」
何事か考えついたのか明るい声で和香様に問う雨子様。
「定例会着が有るので有れば、その時に瀬織姫に聞けば良いでは無いか?」
すると和香様は実にじっとりとした目をしながら雨子様に言う。
「なあ雨子ちゃん、自分あっちの村に行って来たんやろ?」
「うむ、そうじゃが…」
「なら瀬織姫ちゃんが、そう簡単に精を集められへんこと位想像つかへん?」
「むむむ…」
「むむむや有らへんで、あの小さな村限定の権能しか持っとらへん瀬織姫ちゃんが、なんぼ頑張っても集められる精の量なんか知れとるやんか?多分以前来たのであの子のストック使い果たしとると思うで?そりゃあ自分らと同じで、新幹線とかでも使えば別なんやろうけど、さてなあ…」
「うむ、そうであったの」
そう言うと雨子様は、彼女にしては珍しく、本気になって頭を抱え、思い悩むのだった。
いいね大歓迎!
この下にある☆による評価も一杯下さいませ
ブックマークもどうかよろしくお願いします
そしてそれらをきっかけに少しでも多くの方に物語りの存在を知って頂き
楽しんでもらえたらなと思っております
そう願っています^^




