「お誘い」
お待たせしました
さて、雨子様を囲むようにした和香様と小和香様が、あれやこれやと騒いでいる最中、何とかリセット適った祐二が目の前の騒動を見て目をぱちくり。
女性三人がああでも無いこうでも無いと大騒ぎしている様は、とてもじゃないが神様同士のこととは思えない感じだった。
そんな女性達の様子を見ながら、恐る恐る口を開く祐二。
「あ、あのう雨子さん?」
外野の祐二から声が掛かったのを聞いた途端に、三柱の神様の動きがぴたりと止まり、丸でぎぎぎと音がしそうな感じで頭を祐二の方へと振り向けてきた。
その有様が何とも不気味だったので、少しばかり腰が引けてしまう祐二。
だが言わねばならぬ事があると思い、何とか懸命にその場に留まって声を上げる。
「あのね雨子さん…早いとこその、用件を伺って帰らないと、誰かさんの機嫌が…」
祐二のその言葉を聞いた途端に顔を引き攣らせる雨子様。
和香様達はと言うと、急変した雨子様の表情にきょとんとしている。
「な、何やのん雨子ちゃん?そないに急に顔色変えて…」
喧嘩のような言い合いをしては居ても、元々とっても仲の良い和香様と雨子様。その和香様にとって、雨子様の顔色が変わったのが気にならない訳が無い。
だが一方、節子の機嫌が急降下することが怖いなど、雨子様としても何とも話しがたいことでも有るのだった。
しかし目の前で本気に心配した顔をしながら問うてこられると、さすがに黙っている訳にも行かず、全く以て渋々と言った感じではあるが、その実情を話して聞かせるのだった。
「いやの、そう大したことでは無いんじゃが…」
「大したことないことでそないに顔色変わる?」
そう言われてこれはもう万事休すと完全に観念した雨子様、内情を話し始める。
「節子なのじゃが、予め話しを通して置いたので無い限り、訳なく食事の時間に遅れて料理が冷めたりするとじゃな、怒るのじゃ…」
「へ?あの節子さんが?」
何時もにこにこして穏やか、どこか飄々とした感じすらする節子が、怒っている所など想像出来ないとびっくり顔をする和香様。傍らで小和香様までもがうんうんと頷いている。
「そ、そうなのじゃ。外事では滅多に怒ることは無いあの節子が、こと食事に関しては怒るのじゃ。かといって派手に怒るのでは無いのじゃが、何と言うかふつふつと言うか…、くわばらくわばら」
そう言うと視線で祐二に同意を求める。
それを受けた祐二が苦笑しながら言う。
「そうなんですよね、おそらく母さんは、自分が料理する苦労だけでは無くって、その食材そのものを作るのに為された苦労とか、そう言ったもの全てを思ってのことなんだと思います」
それを聞いた和香様、真顔でうんうんと頷きながら言う。
「それは納得の話しやな。考えたらお米かてあれだけ手間暇掛けて作るのに、それを一番美味しい形で食べずに、冷たくしてしもうたら、何ややっぱり勿体ない思うしな…」
その横で小和香様も言う。
「況んや私たちが神と言う立場でそのようなことをしてしまうのは、確かにまずう御座いますよね?」
「そこなのじゃ…」
そう言いながら雨子様は部屋の壁に掲げてある時計を見る。
「ともあれ急がんとな、それで和香よ。呼び出してきたのは何故なのじゃ?」
すると和香様は席に戻ってどっかと座ると、手近にあったメモを取り出して言うのだった。
「それがなんやけど、瀬織姫ちゃんから…」
「何?瀬織姫絡みかや?」
雨子様が曰く言い難い表情をする。無理も無い、彼女から雨子様宛に何度か文が届いたのであるが、その内容がしつこくならないようには成っているものの、雨子様や祐二に会いたいという思いの繰り返しなのだった。
勿論雨子様にしてみればその気持ちが分からないでも無いので、会いに行ってやりたい気持ちもある。しかし往復の費用を考えるとそう簡単に安請け合いする訳にも行かないのだった。
前回行く時には準公用待遇で和香様の所から費用が出ていたのだが、今度もまた同じようにというのは、さすがに無理があるのだった。
雨子様が神変出来れば問題の無いことなのであるが、現在、祐二との仲を何よりも大切にしている雨子様にとって、今の自分の思いの半分を占めるような感覚を捨てるというのは考えられないことなので、事実上頓挫してしまっているのだった。
一方瀬織姫様の方は瀬織姫様の方で、神変位ならまだしも、移動に使うだけの精を集めるのは未だ無理がある為、思いを果たすことが出来ないで居るのだった。
「雨子ちゃん、余程瀬織姫ちゃんに好かれとるんやなあ…」
そう言って苦笑する和香様。
「それでその瀬織姫ちゃんから、ちょっと考えなあかん様な報告が来とってな、その相談で来てもろうたんや」
自分の所に来る文にはそう言ったことは全く書いてきていないので、訝しく思いながら聞く雨子様。
その表情を見て和香様が笑いながら言う。
「なんや雨子ちゃん、そないに不満そうな顔せんでもええやん?あの子にしてみたら公と私の区分けをきちんとせなあかんと理解した上のことやんか」
和香様にそう言われて、幾ばくかの寂しさを感じながら問う雨子様。
「まあ良い、それで何と言ってきておるのじゃ?」
そう問うてくる雨子様に、和香様は身を乗り出しながら言う。
「それなんやけどな、何や瀬織姫の感知範囲ぎりぎりの所で、なんかよう分からん異変がおこっとるって言うとるんや」
「異変じゃと?」
瀬織姫の居る場所での異変と言うことで、心配そうな表情になってしまう雨子様。
そう長く一緒に居た訳では無いのだけれども、そうやって心配に思う程には深く交わっていた証左だった。
「そうやねん、けど少し話し長くなるけどええんかな?」
そうやって気遣ってくれる和香様に、雨子様はつと祐二の顔を見る。
以心伝心というか、祐二は早速携帯を取り出すと家に居る節子に対して電話を掛けるのだった。
「あ、母さん?え?ああ、今、和香様の所に居るんだよ。急用が有るって言うことで連絡受けてね。それで帰りが遅くなるんだけれど…。え?鍋?皆で食べた方が美味しいって?ああ、聞いてみる…」
そこまで話していた祐二は、携帯から顔を離すと和香様に問うのだった。
「何でも今晩うちは鍋なんだけれども、久々お出でになられませんかって言う、母さんからのお誘いなんですが…」
だが祐二は、その言葉を最後まで言うことが出来ないのだった。何となれば、言い切る前に凄い勢いで立ち上がった和香様に圧倒されたのだった。
「行く行く行くぅ~~~!」
と大きな声で宣う和香様。
これだけ大きな声で言ったなら、多分聞こえているだろうと思った祐二は、再び携帯を耳に押し当てて言う。
「だそうです…」
すると電話口の向こうからは、ころころと笑う声が聞こえてくるのだった。
つまりは間違えなく聞こえていたと言うこと。
「小和香、榊に言うて車出してもろうて。それとお泊まりの支度やで?」
驚いた顔をした小和香様が問う、小和香様の中ではいきなり夕食をご馳走してもらいに上がるという所で思考が停止していて、お泊まりという言葉まで入っていなかったのだった。
「はあ?お泊まりの支度でありますか?」
「せや、うち、ちょっくらしてくるわ」
「って。ちょっとお待ち下さい和香様!」
ばたばたとけたたましい音を後に残して、部屋から飛び出していく和香様と小和香様。
それを見ていた雨子様は、やれやれと首を竦めていた。
それを見ていた祐二は、今一度携帯を耳に押し当てながら節子に問う。
「母さん、和香様達泊まるって言って飛び出していったけれども良いんだね?」
すると節子からは笑い声と共に返事が返ってきた。
「うふふ、勿論よ。今日は父さんも出張で帰ってこないし、久々皆でガールズトークしちゃおうかしら?」
何だかわくわくしていそうな声だった。
「雨子さん、ガールズトークだって?」
聞いたそのままを雨子様に伝えると、何だか嬉しそうになる雨子様。
それを見ながら、女性って本当にお喋りが好きなんだなと思う祐二なのだった。
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