「兆し」
ちょっと短いですがお楽しみ下さい
祐二と雨子様の二人、宇気田神社の最奥に向かう小道を、実にのんびりとした足取りで歩いていた。
そろそろ紅葉も始まり、秋の深まりを感じ始める頃なのだが、昨今の夏の暑さのせいか余り彩りが良くなく、季節感を希釈しているのだった。
尤も二人は既に冬服に着替え、夏服に比べてどこか落ち着いた雰囲気を醸し出している。
日が落ちるのが早くなってきているせいもあるが、道が鬱蒼とした木々に囲まれているので、開けたところに居るよりも早く暗闇が迫ってきていた。
一人は神であるし、もう一人は神をも儚くする神威の使い手と有って、こんな闇など何ほどのことも無い。
けれども祐二は自然に手を伸ばし、雨子様の手をそっと握ると、なんとなくではあるが守るような気配を発しながら歩くのだった。
もちろん雨子様にとってそう言った気遣いが嬉しく無い訳が無い。
祐二にはおそらく見えていないはずなのだが、嬉しくてたまらないと言った笑みを顔に貼り付け、思わずスキップしてしまいそうになるのを、必死になって押さえている。
だがそうやって気を取られていたせいで、道にあったちょっとした出っ張りに足を取られ、躓いて転げそうになってしまう。
いち早くそのことに気づいた祐二は、とっさに振り返ったかと思うと、倒れてきた雨子様をすっぽりと受け止めるのだった。
「大丈夫雨子さん?」
心配そうな声音でそう聞く祐二。
対する雨子様、思わず声を固くして、「大丈夫じゃ」と言い張ろうとしたが思い直す。
何故なら、どうして祐二に対して、そのように気を張る言葉を述べねばならないのかと、思い直したからだ。
雨子様はゆっくりと息を一つ吸うと言った。
「大丈夫じゃ祐二、ありがとう」
祐二の優しさに満たされて、心からの感謝の意を込めてそう言うと、祐二もまた微笑む。
神と人の子の二人は、夏の雨降の儀を共に出かけて成功させ、それ以降も少しずつ心通わせる機会を持つ内に、これまでよりも更に自然に互いに思い合える、そんな関係性に進化しつつあるのだった。
さて、再び歩き始めた祐二、手を繋ぐだけだとまた転ぶ?と考え、(いや、決してそんなことは無くて、今回は浮かれた雨子様がたまたま躓いてしまっただけなのだが…)きゅっと腕組みをしながら歩くことに知る。
「あ、あの、祐二?」
思わぬ状態に進んだことを嬉しいとは思いつつも、どうにも止まらない胸のときめきを苦労しながら押さえつつ雨子様は言う。
「何か有った?雨子さん?」
雨子様の思いを知ってか知らずか、いや、おそらく全く理解していないだろう。普段と変わらず全く平静な感じで返事を返す祐二なのだった。
「い、いや、何も無いのじゃが…」
「なら和香様の所に急ごう。でないと遅くなったら母さんの機嫌が悪くなるよ?」
そう言われた雨子様の脳裏に、機嫌の悪い時の節子の顔が思い浮かぶ。
普段は滅多なことで怒ることの無い節子なのだが、一生懸命に皆のために作った料理を、無為に冷たくしてしまった時には怒るのだった、そして怖い。
時に龍をも従える雨子様をして怖いと思わしめる。
別に怒声を上げるでも無く、暴力を振るってくる訳でも無い。ただじっと冷たい目で見、小さく溜息をつくだけなのである。
にもかかわらずその場の空気は十度も下がったと感じるだろうか?背筋にすっと冷たいものが走ってしまうのだった。
もちろん遅れることにきちんと理由が有り、あらかじめその旨を連絡していれば別なのだ。
だが例えそうであったとしても、適うなら食事の時間に遅れることはしたくない、節子を知る者達は皆そう思うのだった。
尤も、この大本の原因になったのは和香様なのだった。
学校の授業が丁度終わった頃に電話を掛けてきて、出来れば帰りに神社の方へ来て欲しいとのこと。
和香様からのたっての頼みとあれば行かないと言う選択肢は無いのだった。
「しかし和香からの急ぎの話とは、一体何があったのであろうな?」
組まれた腕に少し体重を掛けつつ、そう言いながら嬉しそうに歩を進める雨子様。
そんな雨子様の言葉に同様に首を傾げつつ、腕にふわりと当たる柔らかな物体にどきどきしながら、共に歩いて行く祐二なのだった。
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