閑話「女神の涙」
大変大変大変
遅くなりました(^^ゞ
「何で言うてくれへんのん?いやや~~!」
「それならそうと…」
風呂から上がり、冷たいお茶を頂いている最中に、小和香様より先程の怪しい動きについて指摘を受けていた二柱、顔を真っ赤にしながら身悶えし始めた。
そうやって煩悶しながら自らの羞恥心に苛まれた和香様達、挙げ句暫くの間、座敷机に突っ伏して居たのだが、やがてそれも飽きたのかそろりと顔を上げる。
だがその目が何とも言えず妙に据わっていて、それを見た小和香様に怖いと評されてしまう二柱。
「我としては観客達に如何に魅せるべく身体を動かすのか?そればかりに気をとられて居ったせいなのじゃが、まさか偉い所で恥をかくことになってしもうたの…」
和香様に比べて随分立ち直りの早い雨子様。そのことを祐二が何故だろうと思って居ると、そのことを察したのか訳を話してくれる雨子様なのだった。
「和香自身は元々、人々の暮らしの場から離れた所に居ることが多かったし、またそう言ったところに出かけて行く機会も少なかったからの。それに比べて我は、基盤となるのが地元の農村で有ったし、そこに属しておった氏子達はもう庶民も庶民。故に祭りの時なぞ実に大らかじゃったからの。それをこの目で見ることもあったが故、我には和香ほどの抵抗感は無いのじゃ」
そう言う雨子様に小和香様が問う。
「でもそう仰る割には、結構堪えて居られたようですが?」
すると雨子様、顔をそっぽに向けるようにして答える、その耳はまたも上気して赤くなり始めていた。
「そ、それはじゃな、そんな有られも無い姿をまさか思い人に、その、見られてしまったからこそなのじゃ。まさか祐二の前であの様な失態を…」
そう言うとまた机に突っ伏してしまう雨子様なのだった。
雨子様のその言葉と様子に、成る程と納得した小和香様、苦笑しながら慰めるようにその背をたんとんと叩くのだった。
その様を見た祐二、そのような雨子様のことを可愛いなと思うのだが、声を掛けるのは控えることにした。多分どのように言葉を掛けても、今の雨子様には恥ずかしさが増すばかりだろうから。
おそらく祐二のそんな思いを理解していたのだろう。
「祐二さん、こう言う時は放って置いて差し上げるのが一番でございます」
と言って祐二の思いを肯定した小和香様は小さく笑った。
そんな二人のことを尻目に、間延びした調子で和香様が声を上げる。
「あ~ああ、うちももっと身近に人と係わっとったら良かったんかなあ?」
何時の間にか顔を上げている和香様が、少し羨ましそうな表情をしながら雨子様と祐二の二人を交互に見ている。
「ともあれ小和香、なんかこの子ら見てたらほんま妬けるお思わへん?」
少し膨れた顔をしながらそう言う和香様に、小和香様が思わず破顔しながら言う。
「和香様、雨子様も子呼びで御座いますか?」
思いも掛けない小和香様の思いも掛けない問いに、大きく頷きながら和香様が言う。
「そない言うけどな小和香、祐二君とああ言うやりとりしとる時の雨子ちゃんは、全然神様らしゅう無いっちゅうか、なんやぱっと見、祐二君と同じ年頃の女の子にしか見えへんで?小和香もそう思わへん?」
そうやって小和香様に話しかけている言葉を耳にしていたのか、雨子様が急に頭を起こすと、憮然とした表情をしながら言うのだった。
「一体何を言うて居るのじゃ和香は?そんなものは当然であろ?我は人としてあるがままの我で祐二と恋をしていたいのであって、こやつの保護者になりたい訳では無いのじゃからな?」
そう言ってのける雨子様のことを見ながら、和香様が呆れたように言う。
「聞いたか小和香?昨今の雨子ちゃんは以前とは違うて、もう堂々と恋人宣言して憚れへんようになっとる。以前の雨子ちゃんやったら、なんて言うな?もうちっと初々しかった言うか何と言うか…」
「和香…」
そうやって零す和香様に、雨子様のなんだか悲鳴のような声が掛かる。
見ると目に涙を浮かべつつ、泣くまいと必死になって唇を噛みしめている雨子様。それを見た和香様、さすがに言いすぎてしまったかと反省しながら、大いに慌てるのだった。
「ごめん、ごめん雨子ちゃん。からかうつもりとか全くあらへんねん、そやけど結果虐めたことになってしもうとる。ほんまごめん!」
そんな和香様に今度は小和香様までもが追い打ちを掛ける。
「私も今のは和香様がいけないと思います」
ところがその言葉を聞いた途端に、今度は和香様がその目をうるうると潤ませ始める。何よりも他ならぬ小和香様にそう言われたことが、和香様としては相当堪えているらしかった。
しかし、自らの言葉でまさか和香様迄もが泣き始めてしまうなど、思っても居なかった小和香様。崇め奉るべき存在である彼女にとっての主神、母神を泣かせたとあって、大いにショックを受けてしまう。そして彼女もまたぽろぽろと涙を溢し始めることとなる。
三柱の女神が揃って涙を流す、ある意味とんでもない事態になってしまい、祐二は思わず頭を抱えてしまいそうになる。
何とかせねばと大きく息を吸い込むと、腹の底からの溜息を長々と一つつき、三柱の女神達に向かって諭すように言うのだった。
「あのう、皆さんもうそれ位にしておきませんか?このまま行くとお互いになんか蟠りを生みそうな気がします。和香様も雨子さんも、普段からとても仲が良いのに、つまらないことで仲違いして欲しくないですよ。それに小和香さんもほら涙を拭いて」
その時の祐二にとって、小和香様の涙を拭くと言うこと自体に、特別な意味は何も無かった。ただ最も身近に小和香様がいて、極自然に溢れる涙が気になった。だからこそ、手近のタオルを使い、殆ど無意識にそっと拭いて上げる、ただそれだけのことのはずだった。
しかし小和香様以外の二柱の女神にとって、それは必ずしも自然なことでも無ければ、捨て置けることでも無いのだった。
だが彼女らは祐二と言う存在が、如何なる人間であるかと言うことをこれ以上無いくらいに良く知っている。
故に今責めるのは間違いであると言うことを、違えること無くきちんと理解している。
けれども、理解出来ると言うことと、納得できるかと言うことは、全く別問題なのだった。
で有ればどうするのか?考えた末に雨子様は、とあることを実行することにするのだった。
「ん!」
そう言うと雨子様は、祐二の目の前に涙の跡を残す顔をそっと突き出す。
と、それを見た和香様もまた同様に
「ん!」と言いながら顔を前に出す。
さすがにこれだけやられれば、時にこの上なく鈍感な祐二で有ったとしても、次に何をやるべきなのかと言うことに十分に思い当たるのだった。
もちろん順番を間違えては成らない、まず初めは雨子様なのだ。泣き濡れて何かを訴えかけてくるようなその目の、溢るる涙を優しくそっと拭って綺麗にする。
涙が拭われ乾き、跡が消えるにつれて唇に笑みが戻り始める。
言葉にすること無く目に思いを込めて「大丈夫?」と問うと、柔らかな動作で静かに頷く雨子様。
その目がゆっくりと理解を示した時点で、次に和香様に移る。
雨子様の動きに習うように、自らも拭いてとばかりに顔を突き出した和香様なのだったが、いざ祐二に拭いてもらえる段になると、果たしてそれで良いのかと思いに迷いが生じる。
何か言おうと思って口を開くが、普段饒舌で有るはずの和香様が、今に限って何の言葉も編むことが出来ないで居るのだった。
千々に乱れる思いは有るのに、その思いの欠片も口にすることが出来ない。
それが尚更和香様を動揺させ、心を揺さぶり、溢れる涙を止めどなくしてしまう。
何故?どうして?そんなことを思いながら雨子様の方を向く和香様。
そんな和香様のことを見ていた雨子様、微かに頷きつつ笑みを浮かべると、和香様の頬を柔らかに押し、ゆっくりと祐二の方へ向かせるのだった。
観念した和香様は少し心細そうな表情を見せながら、目を瞑ってじっと祐二の動作を待つ。
微かに震えるようにも見える和香様のことを見つつ、祐二は、束の間雨子様に視線を振り向ける。
雨子様は祐二の無言の問いに答え、同様に黙って笑みを返す。
その意を受けてほっと吐息を漏らした祐二は、目の前に居る和香様の、光るように美しい顔の涙を丁寧に拭う。
ゆっくりと開かれる和香様の目。おそらく安心したのだろう、そのせいでまたも涙が溢れてしまう。
だが生憎とその涙は、祐二の手からタオルを奪い取った雨子様によって、思いっきりごしごしと拭かれてしまう。
そのお陰か和香様の頬がぷっくりと膨らむのだが、直後三柱の女神達は互いに目を合わせ、声を上げて笑い始めるのだった。そしてその楽しげな笑い声は、彼女らの心の澱を丸で洗い流していくかのように、柔らかに夜の静寂に溶けていくのだった。
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