閑話「夏越の大祓」
お待たせしました。
一応お話ですので、実際の神事とは色々異なっている部分もあります
どうかご理解のほどよろしくお願いいたします
宇気田神社の夏越の大祓、他の神社であれば本来六月の末にやる大祭なのであるが、ここでは最後の締めという意味合いもあって、どこよりも遅く七月の末に行うことになっている。
そもこの大祭は、「茅の輪」と言うチガヤという草や藁を使って、人の通れる様な輪っかを創り、その輪を跨いで潜ることで、無病息災や家内安全を願う行事となっている。
その際人々は、口々に「祓へ給ひ 清め給へ 守り給ひ 幸へ給へ」と唱えながら、左足で茅の輪を跨いで潜り、左回りに茅の輪の左側を回ってから正面に戻って一礼。次に、同様に文言を唱えながら茅の輪を右足で跨いで潜り、茅の輪の右側を回ってから正面に戻って一礼。最後にもう一度初回の行程を繰り返す。
ふと好奇心を抱いた祐二が、和香様に何気なくこの祭りの由来を聞いてみたのだが、元々は和香様の意図したものでは無く、農耕の民が神々と交わり、その願いの中で自然発生したものなのだとのこと。
ただ和香様達神様方としてはこれを機会に、この輪を潜る者達の祈りや願いを吸い上げられるようにと、編んである輪の中に呪を封じ込めているのだとのこと。
雨子様曰く、人々が輪を潜りながら祈ると、通常よりも効率良く精のエネルギーを回収できるのだとか。ならばいつでもそうすれば良いのにとも思うのだが、祭りとしてのありがたみという点で考えると、必ずしも得策では無いのかも知れない。
ともあれその日は榊さんを筆頭に、神職が勢揃いして本殿で大祓の祝詞を上げることになる。当然のことながらその先には和香様が正装で鎮座まします訳なのだが、穏身を使っておられるので通常の人間には見ることは出来ない。
ただ見えはしないのだけれども、さすが和香様と言うべきか、その場に漂う圧倒的な存在感に、その場に居合わせた者達は皆、身が竦み背筋の伸びる思いを感じるのだった。
今回の大祓の儀式については、雨子様は元より、祐二までもが神社関係者として、場の一角に席を頂き、神妙な面持ちで儀式の進行を見守っている。
一部末端の者や、氏子関係者の中にはあれは誰ぞと言う表情をする者も居たが、それに気がついた雨子様が僅かに神気を滲ませると、あっと言う間に誰も視線を向ける者は居なくなるのだった。
そのことに気がついた和香様、それまで真剣な顔つきで祝詞を受け取っていたのだが、思わず口元に僅かに笑みを浮かべてしまう。
だが榊さんがじろりと視線をやると、たちまちまた真剣な顔に戻るのだった。
やがてにその大祓の儀式が終了すると和香様の見守る中、榊さんら宮司が茅の輪を潜りながらまた別の祝詞を唱える。それが終了するといよいよ一般の人たちが輪を潜り始めるのだった。
因みに、例の龍像の騒ぎ以降、神様への信仰というのがかつて無いほどに盛り上がっている。ましてやこの地はその総本山でもある。
故に昨今の神事の際の参拝者は、過去に例を見ないほどの人手となっている。
その人々に先んじてまず宮司達が輪を潜り、それに紛れて雨子様達も潜ることになったのだが、待つ人の中から声が掛かるのだった。
「きゃ~~~、雨子ちゃん凜々しぃ!」
「祐二君も格好良いわよ~~!」
「二人ともこっち向いてェ!」
どうやらこれらの声、祐二らのクラスの女の子達の声なのだった。
まさかこんなところで、そのような声が掛かるとは思っても見なかった雨子様。一瞬だけぎょっとして声を掛けてきた者達のことを見るのだが、直ぐに苦笑しながらそっと人差し指を唇に当てるのだった。
もちろん察しの良い彼女らは直ぐに温和しくなってくれて、ほっと胸をなで下ろす祐二。
その後、一応神事としての参加を終えた二人は、雑踏から少し離れた所で待つ級友達の所に向かうのだった。
そんな二人のことを早速取り囲む女の子達。
矢継ぎ早に質問を始めるのだった。
「ねえねえなんでここの神事に二人が関わっているの?」
「そこいらの神社ならともかく、ここって大御所でしょう?」
それらの質問にさてどうやって答えようかと考えていると、どこからとも無く小和香様が現れ、困窮している雨子様達に代わって答えるのだった。
「ここで神職のお手伝いをしております小和香と申します。雨子さん達には以前神事のお手伝いをして頂きまして、その時のご縁で参加して頂いたのですよ」
小和香様にそう説明して頂いたお陰で、知恵を絞る必要の無くなった雨子様は、うんうんと頷いている。
「ええ?小和香さんておっしゃるの?可愛い!」
「この方以前、神楽の時にお見かけしたことあるよ?」
「もしかして本職の巫女さん?」
「めちゃくちゃ衣装が似合っているんですけど?」
数人の女の子達が入れ替わり立ち替わり、機関銃のように言葉を発し、可愛い綺麗と褒めまくるものだから、小和香様は上気して真っ赤になってしまう。
それだけにとどまらず、間近で三人の神職の衣装を見ることが出来ているのが嬉しいらしく、皆が携帯を取り出すとこれでもかと写真を撮るし、共に撮ろうとする。
その流れでいつの間にやら彼女ら全員と、レインの交換をすることになってしまう小和香様。
女の子達の余りの押しの強さに、さすがの雨子様も心配になっていたのだが、当の小和香様は巫女仲間以外にも、普通の女の子達と友達になれたのが嬉しいらしく、ご機嫌の表情をしているのだった。
「ねえ、雨子さん」
祐二が雨子様だけに聞こえる声で言う。
「何じゃ祐二?」
「あれって大丈夫なのかなあ?」
クラスの女の子達と混じって、すっかり普通の女の子をしている小和香様のことを見ながら、祐二が言う。その祐二の言葉にきょとんとする雨子様。
「其方は一体何を心配して居るのじゃ?」
「だって小和香さんは言ってもこの神社の№2の神様じゃ無い?」
「だから?」
祐二が一体何を言わんとしているのか、さっぱり分からない雨子様は首を傾げながら聞く。
「いやだからね、№1の神様が自分も混じりたかったって、後でだだを捏ねないかなと思ってさ」
「あっ!」
祐二の話の行く末がまさかそちらの方向に行くとは、露にも思っていなかった雨子様、恐る恐る本殿の方を向くと、柱の陰からじっとこちらを伺っている和香様の影。
思わず額を手で叩きながら天を仰ぎ見る雨子様。
間違いない、これは後でそうとう文句を言われるに違いないのだった。
「この後の慰労会で、しっかり慰労するしか無いじゃろうのう…」
そう言うと特大の溜息を吐きながら、頭を抱える雨子様なのだった。
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