閑話「への字口」
大変遅くなりました
盆明けでジタバタしておりました(^^ゞ
一頻りぐずる?瀬織姫様を慰めていた雨子様、彼女を引き連れて身支度の為に洗面所の方へ移動していった。
残された祐二は沙喜の手伝いをして布団を片付け、その後着替えをし、朝食の用意されている広間へと向かうのだった。
そうやって当たり前のように手伝いをする祐二のことを見ていた沙喜は、雨子様が伴侶に選ばれたというのも頷けるなと、内心一人思って居るのだった。
広間に着くとそこには人数分だけの膳が用意されている。
「昨夜の皆さんは?」
祐二がそう尋ねると、沙喜が笑みを浮かべながら説明してくれた。
「あの後、半数は帰宅し、残り半数は此処で一泊して行ったのですが、皆、農作業があるので、朝早くに出掛けて行きましたよ」
「皆さん結構飲まれていましたよね?タフだなあ」
そう言う祐二に苦笑しながら沙喜が言う。
「だってね祐二さん、干魃で稲の元気が無くなって、もう駄目だって思って居た所に雨を頂いたじゃ無いですか?そりゃあもう皆大喜びで仕事しに行きましたよ」
沙喜の説明に成る程と思う祐二。
彼女の話す様子からすると、本当にぎりぎりの所だったらしい。丹精込めた稲がそんな状態から復活したとあれば、その喜びが大きいのも当然なんだろう。
「所で祐二さん、もうお先にお食べに成られますか?」
激しく自己主張する祐二のお腹の虫の声を何度も聞いて、口元を抑えながらそう言う沙喜。
その沙喜に顔を赤くしながら祐二が言う。
「三人でご飯を食べる機会は、これが最後になるだろうから待ちますよ」
この食事を終えれば、いよいよ雨子様達はこの地を立つのだ。その直前、三人揃っては最後となる食事なのだ。適うなら揃って食べたい、食べて上げたい。そう思う祐二なのだった。
「お待たせなのじゃ」
そう言いながら部屋の外から雨子様と瀬織姫様が入ってきた。
普段は髪が流れる形のままにしている瀬織姫様なのだが、今見る彼女は綺麗に三つ編みのお下げにしており、その終端は可愛らしいリボンで整えられていた。
「瀬織姫様、そのリボンと髪型、可愛らしいですね?」
祐二が心に感じたそのままを口にして褒めると、瀬織姫様は嬉しそうに顔を赤らめながら言う。
「雨子様がこの様に整えて下さったのです。そしてリボンをプレゼントして下さったのです」
そう言うと瀬織姫様は、それが良く見えるようにと、沙喜の前でくるりと回ってみせるのだった。
「本当にお可愛らしいですよ、姫神様」
目を細めながらそう言う沙喜は、雨子様の方をちらりと見るとそっと頭を下げて見せるのだった。
対して雨子様は、笑いを漏らしながら言う。
「くふふ、これは我に就いて雨降りの儀を習得した、こやつへの褒美も兼ねて居る。リボンには豊作祈願の呪を編み込んであるが故、今後何かと役に立つであろうよ」
それを聞いた沙喜、そうやってこの地の者達への気遣いを、最後まで忘れない雨子様の厚情に、胸を熱くしてしまうのだった。
「さて、何時までも祐二を待たせて居る訳にいかんの。沙喜よ、頼めるかや?」
祐二のお腹の虫の自己主張は、どうやら雨子様にも確りと伝わったようだった。
我慢しきれなくなった沙喜が僅かに吹き出した後、「はい」と言ってその場から出ていくのだった。
そしてあっと言う間に戻ってくると、皆の茶碗にご飯を装ったり、味噌汁の椀を手渡したりするのだった。
「「「いただきます」」」
三人で声を揃えて言うと早速にご飯を頂く。
「美味しい!」
美味しそうにご飯をもきゅもきゅと口に押し込みながら祐二がそう言うと、雨子様も同意する。
「確かにの。この美味き米が取れなくなったかもしれんと思うと、ぞっとするの?」
その言葉を聞いた祐二は、成るほどと思い大きく頭を振るのだった。
そうやって実に美味しそうにご飯をかっくらう様を見ていた沙喜、にこにこと満面に笑みを浮かべながら言う。
「今年の新米が取れましたら、早速お送り致しますね?」
そう言う沙喜の申し出に雨子様は祐二の顔を見ると、嬉しそうに言うのだった。
「来て良かったの?」
そう言うと雨子様は瀬織姫様の方へ語りかける。
「それもこれも皆、其方が頑張って和香の所まで来たお陰じゃ」
雨子様がそうやって瀬織姫様のことを褒めると、顔中を笑顔にしながら嬉しそうにしている。しかし直ぐに目をうるうると潤ませてしまう。
「何じゃ其方、先程洗面所にてもうこれ以上泣きませんと、言うとったのでは無いのか?」
そう言いながら苦笑する雨子様。
「だってぇ…」
そう言うと瀬織姫様はそのまま俯いてしまう。そして床の上にほたほたと涙の滴を落とすのだった。
それを見た雨子様、困り顔をしながら沙喜の方を見やる。
そしてじっとその顔を見つめると静かに頷いて見せるのだった。
「ほらほら姫神様。その様に泣いてばかり居られますと、雨子様の記憶に姫神様の泣き顔しか残らなくなってしまいますよ?それでも良いのですか?」
沙喜のその言葉を聞いた瀬織姫様、それは嫌だとばかりに即座に顔を上げるのだが、下唇を突き出し、への字に曲げている様は、葉子の娘の美代が泣く直前の顔そっくりなのだった。
「止めい、瀬織姫。我は子供のその泣き顔が一番苦手なのじゃ…」
そう言いながら困り顔をしつつ祐二のことを見つめる雨子様。
しかし見つめられたからと言って妙案が浮かぶ訳も無く、こう言うのは日にち薬というか、時間の経過で癒やすしか無い、そう思う祐二なのだった。
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