閑話「甘える」
お待たせしました
今日は短いです・・・が、普段とは少し異なった雨子様をどうぞ
一頻り…と言っても一時間以上歌っていれば結構な時間なのだが、十二分に満足することが出来たのか、にこにこ顔で祐二の隣へと戻ってきた雨子様。
その相方を務めた塔子はと思って見ると、直ぐ側で頽れてはあはあと荒い息をしているのだった。
「あ、雨子さん元気すぎ…」
一応自分から誘ったという体もあったので、最後の一曲を歌い終わるまで、意地でも倒れまいと気力で頑張り抜いたようなのだが、体力的な限界はとっくに来ていたようなのだった。
「くふふ、人間としてはまあまあじゃな」
そう言いながら雨子様は、げしげしと塔子の頭を撫でてやっている。雨子様としては結構、塔子のことが気に入ったのだろう。
「はい、お水」
そう言うと祐二が、氷の浮かんだ水のグラスを雨子様に手渡すのだった。
受け取った雨子様は礼もそこそこに、こくこくと喉を鳴らしながら一気に飲み干すのだった。
「くっはぁ~~」
その様を見てなんとなくおじさん臭いと思う祐二なのだが、もちろんそんなことは絶対に口にしない。けれどもその祐二のことを見てくる雨子様の目が、どうにも胡乱で仕方の無いというものだった。
だがこれと言った証拠を見つけることが出来ないので、肩をすくめるとそのまま捨て置くことにしたようだ。
つい先ほどまで雨子様達が歌っていた場所では、今では村長がお得意の詩吟を吟じている。ところが大きく透る声で唸る様が、まるで雨降らしで活躍した巨龍、無尽の轟く声を模しているようでも有り、正に龍吟虎嘯の体を為しているのだった。
「あれはなかなかのものですね?」
そう言って村長の芸を褒めていると、急に背中に柔らかな重みを感じる。
どうしたのかと思ってそっと振り返ってみると、そこでは満足そうな表情をした雨子様が、彼の背中にもたれ掛かるようにしながら目を閉じているのだった。
「さすがの雨子様もお疲れが出たようですね?」
いつの間に居たのか、傍らで沙喜が優しい笑みを浮かべながら言うのだった。
「まあ、今日は一日大活躍でしたからね…」
穏やかな声でそう言うと、沙喜の手を借りつつそっと雨子様の体を抱え上げる祐二。
「雨子さんを寝かせて、僕も今日はこのまま休みます」
そう言うと雨子様を抱き上げたまま、ゆったりとした足取りで部屋から出て行く。
沙喜は部屋の外まで彼らを見送るのだが、塩梅良く彼の肩に顔を乗せている雨子様。
その雨子様が薄く目を開けたかと思うと、見送っている沙喜にウインクをしてよこすのだった。
「あらあら…」
沙喜はそう言いながらくすりと笑いを漏らす。彼女の思うに、雨子様はああやって巧みに祐二に甘えて居るのだろう。
人と比べて遙かに長い時を生きてこられている神様なのだけれども、そうやって恋人に甘える姿は何とも初々しくて、可愛らしい。
沙喜はふと自分の若い頃のことを思い出しながら、目の前の二人の未来が幸多きものになりますようにと、願わずには居られないのだった。
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