閑話「打ち明け話」
遅くなりました
さてさて、雨乞いの話を載せたところ、干天に慈雨とばかりに雨が降って良かったなと思っていたら、
何とこの豪雨。
本当に何とも困ったことであります。
豪雨に遭われた方全てにお見舞い申し上げます・・・
「いや~~。姫神様があのように美しいお姿になられるとは…」
「惚れた…」
「いやしかしあのような巨龍を使役されるとは、雨子様とおっしゃる神様は…」
「生であれを見られた人、羨まし~~」
「しかしこれで旱魃に悩むことは無くなりそうだなあ」
「嫁に…」
祐二が撮っていた動画や写真を見た村人達は、皆口々に感嘆の言葉を漏らしていた。
所々妙なことを口走っている者も居るようだが、その辺はご愛敬と言うことで…。
さて当の本人なのだが、自分の大人になった姿が出た途端、大きく目を見開いて信じられないという表情になっていた。そして雨子様の手を引くと一生懸命に尋ねるのだった。
「雨子様雨子様、あれは本当に私なのですか?」
自分のことであるはずなのに全く信じられないといった感じで、真剣に問いかける瀬織姫様。
そんな瀬織姫様のことを優しい目で見つめながら、頷きつつ返答する雨子様。
「うむ、あの姿は間違いなく其方の未来の姿ぞ。但し…」
お終いに但しと言う言葉がついたことで不安になったのか、眉をへの字に曲げた瀬織姫様が改めて問う。
「雨子様雨子様、どうして但しなのですか?一体何が但しなのですか?」
「くふふ、何故但しが付くのか…か。不安かや?」
すると瀬織姫様が唇を尖らせながら言う。
「不安だから伺っているのです。もう、雨子様意地悪です」
そう言って少し膨れている瀬織姫様の頬を、そっと人差し指で押しながら笑みを浮かべる雨子様。
「別に虐めては居らぬのじゃがの…」
そう言いながら苦笑する雨子様、引き続き話をするのだった。
「我が但しと付けた訳なのじゃが、其方が見たあの大人の姿というのは、其方が今のまま素直に成長した暁ならば、あの姿になると言うことなのじゃ。故に其方が別の道を望めば、その時はまた異なる姿になると言うことなのじゃよ」
そう説明する雨子様のことを見る瀬織姫様の目は真剣だった。
「成るほど、そう言うことなのでございますか。つまりは未来は確定して居らず、私次第と言うことなので御座いますね?」
そう言う瀬織姫様に、うんうんと頷きながら、くりくりとその頭を撫でる雨子様。
そして撫でられるに従い、とても幸せそうな表情になっていく瀬織姫様なのだった。
「此度の旱魃、私どもにとって大変なことでありましたが、結果としては姫神様にもある意味良かったことなのでしょうね…」
雨子様と瀬織姫様のことを見ていた沙喜が、しみじみと祐二に話す。
「どうしてそう思われるのですか?」
なんとなく沙喜の答えるであろう内容は想像出来はするのだが、それでも祐二は聞いてみるのだった。
「何と申したら良いのでしょうね、」
沙喜はそう言いかけると少し何かを考えている様だった。
そうやって時間を掛けた後ゆっくりと口を開く沙喜。
「雨子様達の所に行く前の瀬織姫様は、何と言ったら良いのでしょうね?親しく私たちと話して下さっては居ても、間にどこか一本線を引いたかのようなところが在るのでした。だから何か可笑しなことがあって笑われても、どこかしら冷めたところがあるような、そんな感じだったのです」
そう言いながら沙喜は、雨子様とじゃれ合うように話をし、楽しそうに笑っている瀬織姫様のことを嬉しそうに見ているのだった。
二柱揃って一体何をそんなに楽しそうにしているのかと思い、その視線の先を追うと、村長と、同じくらいの年の男性との二人で、座布団を抱えてなんだか妙な踊りを踊っている。
「よか○○よか○○よか○○○○…」
どうやら宴会芸のようで、何とも滑稽な動きをしている踊りなのだが、最初の内は一体何の踊りなのか、全く分からないのだった。だがある時点でその意味が分かるや否や、雨子様の顔が真っ赤になり、慌てて瀬織姫様の耳目を覆う。
周りを見ると年若の子供達が皆同様に保護されている。
そんな様子を見ていた外野から村長に向かって声が飛ぶ。
「村長~~、それぐらいにしとけ~~!沙喜さんが怒っとるぞぉ!」
見るとまさにその通りで、頭から湯気を出している沙喜の姿がそこにあった。
「神様方の前で何と言う踊りを!来なさいあんた達!」
かんかんになった沙喜が、その場に居た村長ともう一人の男の耳をひっつかむと、部屋の外に引っ立てていくのだった。
それを見てまた皆でやんやと大笑いする村人達。
そのどっと沸き返る様を見ながら、ただもう涙を流すほどに笑い転げる、雨子様と瀬織姫様なのだった。
祐二は未だかつてこれほど雨子様が笑い転げる姿を見たことが無かったのだった。
そしてその様を見ている内にふと雨子様が、かつてこのような農村の面倒を見ていたことがあると言っていたのを思い出す。
多分その時のことと重ね合わせながら、今のこの時を楽しんで居るのだろうな、そのようなことを思う祐二なのだった。
そうやって村人達の馬鹿騒ぎをし、大笑いをしている様を見、ともに笑っていた雨子様は、ふと膝に掛かる重みを感じてその原因を見るのだった。
するとそこには、雨子様の膝にもたれかかったまま幸せそうな寝顔を晒している瀬織姫様がいるのだった。
「おやおや、疲れて眠ってしもうたのじゃな…」
そう言いながらそっとその頭を撫でてやっていると、小さな声で沙喜が問うてくる。
「姫神様が皆の前でそのように眠られるなど、余り見たことが無いのですが大丈夫なのでしょうか?」
すると雨子様は、沙喜を安心させるように笑みを浮かべると言うのだった。
「案ずるでない。瀬織姫はの、今日のお昼を頂いた頃よりずっと、可能な限り人の身に寄せ続けて居るのじゃ。そのせいで疲れが出たのじゃよ」
その答えに不思議そうな表情をしながら沙喜が尋ねる。
「何故に姫神様はそのようなことをなさっておられるのですか?」
何故にと聞かれて答えようと思った雨子様は、小さくぷっと吹き出してしまう。
「こやつはの、少しでも人の身に寄せた体で食べた方が、食べ物の美味しさが良く分かると知ってしもうたのよ。それと、先ほど沙喜に飛びついた時に、人の温もりや優しさと言ったものも、より人の身に近しい方が良く分かるとも知ったのであろうな。以来ずっと人の身に近づけて居る、そのつけがこれじゃ」
そう言いながら雨子様は、瀬織姫様の目に掛かった髪をそっとかき上げてやる。
「祐二よ」
「なあに雨子さん?」
側に近寄りながらそう言ってくる祐二に、目で瀬織姫様のことを指し示しながら言う。
「この子を我らの部屋に連れて行ってはくれぬかの?我も同道する故…」
すると申し訳なさそうにそっと沙喜が口を挟む。
「すみません雨子様、出来れば雨子様はこちらにいらっしゃって頂けませんでしょうか?主役の皆様お三方揃っていなく成られるのは、流石に皆寂しがると思いますので。代わりに祐二さんには私が付いて参ります」
沙喜の言葉を聞けば成るほどと思う雨子様。
「と言うことでそれでは祐二、沙喜と一緒に行ってきてくれるかの?」
祐二とともに行くのが沙喜であれば何の心配も要らないとばかりに、笑顔で三人を送り出す雨子様。
賑やかな大広間…およそ食事を終えた年若の者達は、今や全て退出して居らず、そのせいもあって場はすっかり宴会場と化している。
流石に先ほどの様な滑稽な踊りは行きすぎと思ったのか、以降怪しげなものは出てこなかったが、それでも当たり障りの無い馬鹿話があちこちから沸き起こってきて、怒濤のような笑い声が上がっているのだった。
その会場を後にすると周りはあっと言う間に静かになり、外からは何かの虫の音が聞こえてくるのだった。
瀬織姫様を抱え上げて、すたすたと足取りも軽く歩く祐二に、私が瀬織姫様をお連れしましょうかと、申し出ようと思いつつもそうは言えない沙喜。
未だ人の身で神様を抱きかかえることに、抵抗を感じてしまっているせいなのだが、ならばその祐二はどうなのかとも考える。
雨子様からの厚い信頼があらばこそとも思うのだが、まだ年若いこともあるのだし、本人は照れくさいとかは無いのだろうか?
そうやってあれやこれやと考えている内に、あっと言う間に雨子様達が寝泊まりしている部屋へと辿り着いてしまう。
沙喜の願いによって川の字に並んでいる真ん中の布団に、そっと瀬織姫様を横たえる祐二。何とも無邪気な寝顔に祐二までもが思わず笑みを浮かべてしまう。
「瀬織姫様は本当に良い村に居られるのだなあ」
ぽつりそう言う祐二に、嬉しさ半分、本当にそうなのかと思う心半分で尋ねる沙喜。
「本当にそうなのでしょうか、祐二さん?」
ほんの少しだけ不安そうにそう言う沙喜に、何の隠し事も無いと言った屈託の無い笑みを浮かべた祐二が言う。
「ええ、僕はそう思いますよ?見た感じ瀬織姫様も最初の頃こそ、なんて言うのかな、おっかなびっくりと言った感じで、まだまだ人と関わることに及び腰な感じがしていたのですが、今はもうすっかりそういうのが無くなったというか…、そのように思います。おそらく以前は人に対する理解について、自信が持てていなかったのでしょうね?でも今はそれが無くなって来ている…」
その言葉を聞いた沙喜が思わず声に出して尋ねる。
「どうして自信を持たれるように成られたのでしょうか?」
「それはおそらく雨子さんのお陰でもあるのかな?多分彼女から、瀬織姫様は色々と人間の理解の仕方について学ばれたのでは無いかと思います。それと…」
「それと何なんでしょうか?」
「先に雨子さんが言っていたのですが、沙喜さんって実を言うと僕の母さんと良く似ているんです。それで雨子さんが本格的に人に馴染むことが出来たのは、その母さんのお陰というところが大きいのですよ。だから、そんな沙喜さんだからこそ、安心して瀬織姫様のことをお願いできるというか…、そう言う沙喜さんの存在が凄く大きいのだと思います」
祐二にそう言われた沙喜ははらはらと涙を零す。
何分にも相手はいと気高き神様と言う存在。いくら敬い、愛する思いがあったとしても、それを押しつけて良い存在では無い。
だからもうただ至誠の思いで心より仕えているつもりなのだったが、沙喜だとてその本質は人、糠に釘の如く只思いを注ぐのみでは、やはり寂しく思うときもあったのだろう。
だから神様側のそう言った話を聞かせてもらえたのは、本当に嬉しいことなのだった。
故に喜びの極まった形として溢れる涙だったのだが、そうと分からない祐二は慌てておたおたしまくってしまう。
「え?沙喜さん?その?どうして?」
狼狽えまくっている祐二に、精一杯の笑みを送りながら沙喜が言う。
「何と言えばいいのかしら、人と人の関係と同じで、人と神様の間柄でも、お互いに相手のことが上手く理解できたとき、同様に嬉しいのだなって、そう分かることが出来たものですから…」
「成るほど、そうですね。多分これから先、瀬織姫様は、少なくとも沙喜さんには自分の全てでぶつかって行かれると思いますよ?ご自分で出来る範囲で良いので、受け止めて上げて下さい…って、そんなこと僕が偉そうに言うことじゃないのですけれども」
そう言いながら祐二は、恥ずかしそうに頻りと頭を掻くのだった。
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