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天露の神  作者: ライトさん
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閑話「瀬織姫様再び」

 遅くなりました


まだまだトラブったパソコンの整備は続いています

データ移行大変だああ


「それでは村を代表して、この旱魃を無事終わらせて下さった雨子様並びに瀬織姫様、そしてその守護としてお出で下さった吉村祐二君のお三方に、心よりの御礼を申し上げるとともに、乾杯!」


「乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」


 村長の乾杯の音頭に従って、数多くの村人達が二柱と一人に向かって杯を掲げ、乾杯と唱和した。雨子様達も無事雨を降らせる仕事を果たしたことでほっとしたのか、にこにこ顔でともに声を上げて居るのだった。


 元より結構大きな村長宅の大広間だったのだが、今はその部屋に通じる全ての障子を開け放っている。何故なら雨が降り、無事懸案事項が解決されたと言うことで、この村に属するほぼ全ての者が、この場に集まっているのだった。


 そのため今この場で初めて雨子様達に会う者も多い。


「おい、あの方がうちの姫神様を助けるために、ここにお出で下さった神様だと」

「何と綺麗なお方やねえ」

「何でもあの横にいる男の子、あの子がいずれ御夫君に成られるんだとか・・・」

「え?人の子が神様の夫になるの?」

「何でも神様に成る修行をなさってるそうですよ?」

「おおお!そいつあ凄い」


 とか何とか、あちらこちらで無遠慮に噂話に花が咲いているのだが、実はその話の全てが雨子様達の耳に入っていた。

 そしてそのことは直ぐ隣にいて、何かと世話をすることにかかりっきりに成っている、沙喜の耳にも入っていた。


 お陰で恐縮しきっている沙喜が、血相を変えて夫の村長に何とかしろと言いに行きそうに成ったところを雨子様に止められる。


「どうしてお止めに成られるのですか?」


 きりきりと歯がみをしそうな表情で沙喜が雨子様に尋ねると、彼女は鷹揚に笑って見せながら言うのだった。


「何、かつて我にもこう言った農村の面倒を見ていた頃があったのよ。そこでもやっぱりこのような寄り合いがあっての、皆が話していることなどまだまだましなのじゃ。あの頃はもっともっと下世話での、どこの誰それがどこの家に夜這いに行っただの、どこやらでは誰かと鉢合わせしただのと、まあ耳を覆いたくなるような話を沢山聞かされたものじゃった」


 そうやって話をし終わってふと雨子様が沙喜の方を見ると、彼女は顔を赤くしながら自らの耳を覆っている。


「あのう、それってどこの村でも普通にそのようなことが話されていたのでしょうか?」


 大真面目にそう聞いてくる沙喜に、雨子様は吹き出しながら答えてみせるのだった。


「そうじゃの、あの頃は今よりも大分おおらかであったように思うの。早うに連れ合いを亡くしてしもうた後家が、若者達のそちらの教育を一手に引き受けて居ったなどという話が当たり前にあったの」


 と、話し終えた雨子様が気がつくと、今まで喧噪とした雰囲気であったその場が、まるで水を打ったように静まりかえっていた。


「はて…?」


 一体どうしたことかと思って見回すと、男も女もその場に居る者達皆の顔が赤く、苦笑混じりだったり、どう反応したら良いか分からない者達で占められていたのだった。


 そしてちょろちょろと混じっていた年端もいかない子供達は皆、年配の大人達によって耳を塞がれているのだった。


「雨子さん…」


 これまた祐二も顔を赤くしながら、渋い表情で雨子様に話しかける。


「いくら何でもその話は、今の世の公の場ではちょっときついかも…」


 思い人の祐二にそう諭されて、はっと今の世の常識に思い至る雨子様。


「嫌その、何と言うか、他意は無いのじゃ…」


 そう言うとすっかりと頭を抱え込んでしまう雨子様なのだった。

だがそう言った凍り付いた場も、軽やかに響く瀬織姫の笑い声によって、あっと言う間に和んでいくのだった。


「くすくす、雨子様でもそんな失敗をなさるのですね?いつも下手を打つのは私だけなんじゃ無いかと落ち込みかけて居たのですが、ちょっと安心しました」


 そう言って屈託無く笑う瀬織姫様の姿に、場の雰囲気は一気に回復していき、しばし冷や汗をかき通しだった雨子様は心底ほっとするのだった。


 そしてそんな雨子様のことを更に慰めるように沙喜が口を開く。


「まあでも確かに私の祖父母の時代には、この辺りでも何かとおおっぴらに出来ないようなことがあったようです。特にお祭りの夜とかは大変だったそうですよ」


「むう、それだけ時代が変わってきたと言うことなのじゃな。それに我自身も、その頃と今では人間に対する理解の度合いが変わってきて居る。まあ尤も、記憶の中にあったことをついうっかりと、そのまま口にしてしまったことが、何よりも問題じゃったの」


 そう言いながら雨子様が苦笑していると、先ほど顔合わせをした花楓が、同じくらいの年齢の女の子達数人を引き連れてやってくるのだった。


「あのう…」


 おずおずとした感じで代表となった花楓が話しかけてくる。


 瀬織姫様に対しても、敬いながらとても丁寧に接してきているこの村の人間にとって、その瀬織姫様を助けに来た神様というのは、更にこれ以上無いくらいに畏れ多かったのかも知れない。


 尤も先ほどのとんでもない話の披露で、多分に垣根の高さは下がったようなのだが、それでも躊躇している様子が良く見て取れるのだった。


 そこで少しでも話易くなるようにと、なるべく軽い口調で雨子様の方から話しかけて上げるのだった。


「そのように気を遣わなくても良いのじゃぞ?地元に戻ればこれでも唯の女子高生じゃ。」


 その話を聞いた者達は皆、目を点のようにしている。


「えええ?本当に?」

「信じられない!」

「普通に授業とか受けているのですか?」


 その問いに雨子様は笑いながら答える。


「無論じゃ、当然のことながらあちらでは、我が神であることを殆ど周りに明かしては居らぬがな」


「うわ何それ、面白そう!」


「ちなみにこれ成る祐二は我のクラスメイトでもある」


 そう言うと雨子様は祐二の腕を捉えて横に並ばせるのだった。

すると花楓の傍らにいる女の子が臆すること無く聞くのだった。


「ねえねえ、二人は本当に恋人同士なんですか?」


「あ、塔子、だめだってば」


 そう言って塔子と呼ばれた子の口止めをしようと慌てる花楓。

尤も雨子様にしてみれば、今ほど大失敗したばかりなので、これくらいの話題なら今更と思い苦笑するにとどめる。


「良い良い、我と祐二が恋仲にあるのは本当のことぞ」


 そう話した途端に女の子達全員が身を乗り出してくる。

なんで女の子という生き物はこう言う恋愛話が好きなんだろうと不思議に思いながら、ふと自分自身も女の子であることを思い出す雨子様。


「全くしょうの無い連中よの、じゃがここから先は女同士の会話じゃ。祐二は向こうの男どもの所に混じってくるが良い」


「え?何それ?」


 と祐二が抗議の声を上げる暇あらばこそで、雨子様はぐいとその背を押してその場から押し出してしまうのだった。


 そうして祐二がその場を去ると、後に残った雨子様を中心に、みるみるうちに女性達が寄り集まっていく。そして何やら雨子様が話をするのを聞いてはわいわいと大盛り上がりなのだった。


「ああなったら僕たちでは側に寄れないよなあ」


 そう言う台詞を吐きながら側に近づいてきた達彦が、お疲れ様とばかりに祐二の背を叩く。


「けどな、祐二君」


 そう言うと、達彦は更に話を続ける。


「僕たちこの村のものは皆、君らに対して本当に感謝してるんだよ。そりゃあもちろん雨を降らせてくれたことが一番の要因やけど、それ以外にほら」


 そう言って指さすとその先では、女性達に混じって瀬織姫様が楽しそうに笑っている。


「僕達ではああは行かないんだよなあ。姫神様は本当に楽しそうに笑うようになったよ」


 そう言いながら温かく見守るように視線を向ける達彦に、ふと今日のことを思い出した祐二が言う。


「ところで今日、少しの間大人になられた瀬織姫様、本当にお綺麗でしたよねえ」


 すると達彦、祐二に向かって指さしながら言う。


「そう、それそれ、それなんだよね。姫神様が大人になられたら、あんなに綺麗に成られるとは…。なんだかもの凄くびっくりしてしまったよ」


 すると達彦のその言葉を聞いていた幾人かの男達が、大きく頷きながら同意する。


「全くだよなあ、姫神様があのようにしとやかで美しい女神に成られるかと思うと、今から楽しみだよなあ」


「だがおいちょっと待て、神様ってそんなに早く成長されるのか?いやそもそも成長なされるのか?」


 お互い顔を見合わせるのだが誰もその答えを知らない。

仕方なく皆の視線は祐二へと注がれる。


 お陰で慌てて祐二は言うことになるのだった。


「そんな…僕だってそんなこと知らないですよ?」


 それを聞いた男達は皆首を巡らせて雨子様の方を見る。


「となるとそんなことをご存じなのは、雨子様を於いて他にいないよなあ」


 まるで独り言のようにそう口にする達彦。

それを聞いた祐二、これはもう致し方ないかなと思うと、離れた所から雨子様に声を掛けるのだった。


「ねえ、雨子さん。ちょっと良い?」


 すると女性達に混じって談笑していた雨子様が、頭をひょいと祐二の方に向けると言う。


「何じゃ祐二、何かあるのかや?」


 そこで祐二は皆の思いを代表して聞いてみるのだった。


「いやね、皆さん揃って瀬織姫様の大人の姿に感心されているのだけれど、瀬織姫様って一体いつ頃大人になられるんだろうと言うことになってさ…」


 それを聞いた雨子様、束の間ぽかんと口を開けた後、呆れたように苦笑しながら言うのだった。


「全く以て男どもは…って、お前達もなのかや?」


 見ると、雨子様の周りに居た女性達も皆、目をきらきらとさせながらその答えを今や遅しと待っているのだった。


「やれやれじゃの…。で、瀬織姫の大人になる時期じゃったな?これはもう瀬織姫の自覚次第としか言えんのじゃ。本人が自身を十分に大人に値すると思うたなら、その時点で大人になれる、そんなところじゃの」


 雨子様のその答えを得た人々は、今度は瀬織姫様に視線を向ける。

そして皆を代表して花楓が瀬織姫に尋ねるのだった。


「それで姫神様、いつ頃大人になろうとお思いなのですか?」


 突然自分にお鉢が回ってきた瀬織姫様、あたふたとした様子で何とか答えようとはするのだが、今はまだ存在し無い答えなので、答えられるはずが無いのだった。


 困り果てた瀬織姫様は、思わず雨子様を頼る。


「雨子様ぁ~~~」


 それを受けた雨子様、やれやれといった表情をしながら皆に言うのだった。


「と言うことじゃ」


「「「「と言うことじゃって?」」」」


 皆から一斉に突っ込みが入る。


「本人に分からぬもの、我に分かるはずがないであろ?」


 それを聞いた一同のものは皆がっくりと肩を落とすのだった。


 中でも残念ながら雨降りの儀式に立ち会うことが出来なかった者達は、その姫神様の大人の姿を目にしていなかっただけに、余計にがっくりと肩を落とすのだった。


「誰か一人でも大人の姫神様を写真に撮った者はおらんのか?」


 年輩の一人の男が悔しそうにそう言う。

だが実際誰一人として頭を縦に振る者は居なかった。


 尤もそれには理由がある。


 何故なら自分達のこれからの行く末を掛けるに等しい、そんな神聖な儀式に、携帯という世俗にまみれた道具を持ち込むような、そんな雰囲気に無かったのだ。


 或いは、うっかりと持ち込んだ者達にしても、余りに厳粛として神聖な儀式を目の前に、ただ呆然と見るばかりで、誰一人としてその場のことを記録しようなどと、考えもしなかったのだった。


 結果、絶望に打ち拉がれる幾人もの人間が生まれることになるのだった。


「何が何でも儀式に行けば良かった…」

「だがそうは言っても仕事をほっぽり出して行けるわけ無いでしょ?」

「いやそれでも…」

「無念だぁ~~~」

「姫神様の、姫神様の~~」


 一方その姿を目にした者達にしても、儀式の合間にちらりと見ることが出来たら良い方で、遠目に本当に一瞬目にした程度の者達も多く、彼らも今一度と願って止まないのだった。


 とそこへ、何とも暢気な口調で声を上げる祐二。


「あのう、それでしたら何枚か写真撮ってるし、何だったら動画もありますよ?」


「「「「「はぁ~~~?」」」」」


 その場に居る者全員の声が揃い、視線が注がれた。


「だってあの時の瀬織姫様、本当に綺麗だなって思ったものだから…」


 少し及び腰になりながらそう弁解する祐二の所に、その場にいたほぼ全ての者が詰め寄っていく。


 だがそれから祐二は偉かった。

迫ってきた者達の形相に負けること無く、声を張り上げて理を通そうとするのだった。


「だめですってば。まず瀬織姫様に了解を頂かないと…」


 そう言う祐二に雨子様が首を傾げながら言う。


「じゃが祐二よ、そのように言うのであれば、何故にそもそもそのような記録を取ったのじゃ?」


 問われた祐二は少し首をすくめながら雨子様に言うのだった。


「それが和香様から、儀式の進行について出来るだけしっかり見てきてくれって言われていたんだよ。都合がつくようであれば記録もって…」


 するとこくりと頷きながら雨子様が言う。


「成るほどの、あやつの頼みとあらば聞かぬ訳にもいくまい。儀式の最中であったとしてもある程度は仕方ないことであろう。で、瀬織姫?」


 そう呼ばれた瀬織姫様は、皆の中からとととと走り出ると、雨子様の所にやって来て聞く。


「はい、何でございますでしょう、雨子様」


「これ成る祐二が其方の大人としての有り様を絵姿として記録して居るのじゃが、それを皆に見せても良いかの?」


 それを聞いた瀬織姫様、こてんと首を傾げながら不思議そうに言う。


「私の絵姿をですか?はて?どうして見たいとお思いに成られるのでしょう?」


 どうやら瀬織姫様、そう言ったことにはまだまだ疎かったようだ。道理で未だ子供であるとも言えるのかも知れない。


「我の思うに、それだけ其方の大人になった姿が美しかったということじゃと思うぞ?」


 すると瀬織姫様は顔を赤くしながら言うのだった。


「私が?美しい?本当でございますか?」


 そう言いながら瀬織姫様は雨子様を見つめ、そして今度は祐二を見つめる。

もちろん見つめられた二人は大きく頭を振ってその思いを肯定するのだった。


 すると瀬織姫様、下を向いてもじもじと身悶えしながら言うのだった。


「本当に…本当に私のような者が美しいとおっしゃって下さるのでしょうか?もしそれが本当であるというのなら、私自身も見て見たいです…」


 瀬織姫様のその言葉によって、許しを得ることが出来たと思った村長が、達彦に向かって突如として叫ぶ。


「達彦!居間のテレビをここに持ってこい!」


 ところがそう言われた達彦、一体それが何を意味しているのか合点が行かず、ぼけっと口を開けている。。


「だから、小さな携帯の画面を皆で覗き込んでも仕方なかろ?同じ見るなら居間のテレビを使って皆で見るのじゃ。早持ってこんかい!」


 事の意味を理解してからの達彦の動きは速かった。

幾人かの手伝いの男達を引き連れたかと思うと、怒濤の勢いで部屋から出て行き、あっと言う間に大きなテレビを運んで来るのだった。


「これはまた大きなテレビじゃの?」


 持ち込まれたテレビを指して少しばかり驚いている雨子様。


「多分百インチ弱あると思います」


 とは達彦、機器の設置は仲間に任せて雨子様の質問に答えているのだった。


「親父の趣味が映画を見ることなものですから…」


 凡そ男性が幾人も集まれば、中には一人くらいはこういった機械方面に明るい者が居る。

多分そう言った人間に当たると思われるものが、達彦に言うのだった。


「あとはこの線に繋げばいつでも見られるぞ」


 その言葉を聞いた祐二が、雨子様の方へ振り返る。


「映っているのは瀬織姫様だけで無くって、神事とかも色々映っているのだけれども、良いのかな?」


 すると雨子様は笑いながら言うのだった。


「今更じゃ、包み隠さず皆見せてやるが良い」


 そうやって錦の御旗を得ることが出来た村の者達の行動は早かった。

全員が力を合わせて、料理や飲み物が載った机を動かし、皆がそろって画面を鑑賞できるようにと、その場の環境を整えるのだった。


 もちろんその中の最良の席は雨子様達のために設けられている。

ただ、祐二だけはテレビの横に設えた場所にて携帯を操作することになる。


 全員が席に着くと手に飲み物を持ち、皆が待ち構えて今か今かと否が応でも期待感で盛り上がっていく。


「では始めます」


 画面を見守る皆の熱気の中、祐二が静かに声を上げると、皆固唾を飲んでそれから繰り広げられている世界に没頭していくのだった。






いいね大歓迎!


この下にある☆による評価も一杯下さいませ

ブックマークもどうかよろしくお願いします

そしてそれらをきっかけに少しでも多くの方に物語りの存在を知って頂き

楽しんでもらえたらなと思っております


そう願っています^^

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