閑話「雨子様の独り言」
お待たせしてしまいました
ちなみに飛車、明日より短いですが夏休みに入ります。
その間色々な行事があるようで、その時は残念ながら書く時間を持てないと思うのでお休みします
今分かっているのはまず明日がその日かな?
ともあれ少しアップがまばらになってしまうことお許しくださいませ。
瀬織姫の屈託のない表情を見た雨子様は、沙喜との間に既に十分な信頼関係が醸成されつつあるのを感じていた。
雨子様自身、沙喜と関わって居る時間はそう多くはない。だが彼女にはこの幼き女神を託すに足るだけの度量がある、そう雨子様は判断するのだった。
満足そうな表情で、瀬織姫様と沙喜が寄り添っているのを見つめている雨子様。
その雨子様を見ていた祐二が、彼女だけに聞こえるような大きさで声を掛ける。
「瀬織姫様ってさ、どこかさみしげで、どこか甘えん坊な感じがして、大丈夫なのかなって少し心配だったのだけれども、あれを見ていたら大丈夫そうだね?」
そう言う祐二の腕を、殆ど無意識の内に手に取りながら雨子様は言う。
「そうじゃな、我も気になって居った。まあだからといって放って置いたとしても、それなりに何とかしたのはしたのであろうがの」
「そうなの?」
そう問う祐二のことを、ちらりと見上げる雨子様。
「うむ、言うても瀬織姫は神ぞ、それくらいのことはな…。じゃがそうやって放って置いても大丈夫であると言うことと、見かけ何とも不憫であることは別物じゃ」
何とも人間臭いことを言う雨子様に、祐二は思わず笑いを漏らした。
「不憫ね…」
すると雨子様自身も何故祐二が笑ったのか、と言うことに気がついたらしい。
「成るほどの…どうやら我もすっかり人間側に傾いて居るようじゃの」
真面目な顔をしてそう言う雨子様の様子に、少し気になって祐二が聞く。
「雨子さんとしてはそれはどうなの?少しでも嫌だなって思うの?」
「まさか…」
そう言って笑う雨子様。
「沙織姫はともかく、我には其方が居るのじゃぞ?であればこそなんで人であることを厭うたりするものか」
そう言うと既に自らの手の中に納めていた祐二の腕を、尚更力を込めて抱きしめるのだった。
「我も以前はの、小さな生き物や子供を見ても、可愛いとは思うことはあってもそこまでじゃった。もちろん例外はあるぞ、じゃがそれは余程肩入れした時のみじゃな。通常は可愛いで終わってしまう。じゃが今はなんと言えば良いのじゃろう?うむ、愛おしいじゃな。他所の小さな子を見ていたり、子犬や子猫を見ていると、自然に愛おしいと思うようになったの」
雨子様の語る内容を静かに聞いていた祐二、ふと疑問に思ってそのことを口にする。
「ねえ雨子さん、雨子さんにとっての、可愛いや愛おしいの意味の差って何?」
「ふむ、そうじゃの。端的に言って我にとっての可愛いは、殆ど好ましいに近しいものかの?それに対して愛おしいはもっと思いが籠もり、守って上げたくなるような気持ちになってくるかの…」
そう言う雨子様の答えに、なるほどと頷く祐二。
「そうかあ、だから瀬織姫様のことも、守って上げたくなったんだろうなあ。なんか納得…」
祐二がそのようなことを独り言のように言っていると、雨子様が顔を赤くしながら抗議してくるのだった。
「祐二?確かに趣旨としてはそう言うことなのではあるのじゃが、確かにそれで間違いないのは事実なのじゃが、じゃがの、それをもう面と向かって言わんでくれぬか?」
「えっ?あ、うん。でもどうして?」
祐二がそう聞くと雨子様は口を尖らせながら言う。
「どうしたもこうしたも無いのじゃ。何と言うかそう、心の根幹に関わるようなことを面と向かって言われるのは、どうにもこうにも恥ずかしいのじゃ、恥ずかしくてたまらんのじゃ」
そう言うと雨子様は赤くなった顔を、手をぱたぱたとさせながら扇ぐのだった。
雨子様と祐二、二人はそのように互いに言葉を交わし合っていたのだが、そしてそれは瀬織姫様と沙喜、二人のことを見ながらのことだったのだが、気がつくと立場がすっかりと入れ替わっていたのだった。
「ねえねえ沙喜、雨子様達って本当に仲が良いね?」
にこにこしながら雨子様達の様子を見ている瀬織姫様。そう思いを口に出していると、口元に人差し指を当てた沙喜に「しっ」と言われる。
「お静かに、瀬織姫様。雨子様がこちらに気づいてしまわれます」
沙喜にそう言われた瀬織姫様、あっとばかりに手で自身の口を塞ぐ。
自身よりもずっとずっと先に、人の身になることを実現している雨子様、瀬織姫様としてはそんな雨子様の有り様に興味津々なのだった。
そして沙喜は沙喜で、人として如何に神様と関わっていくのかと言う点に於いて、祐二の雨子様に対する接し方を、大いに参考にしようと考えているのだった。
だがいくら静かにしていたとしても、そのように興味津々で好奇の眼差しを向けていれば、自然気がつかれるというもの。
「のう祐二よ、何やら異様に視線を感じぬかや?」
祐二にしか聞こえないような声の大きさで、そっと祐二に耳打ちする雨子様。
もちろん祐二も気がついていない訳が無く、雨子様と肩を寄せ合うようにすると、そっと囁くのだった。
「どうやら今度は、僕達の方が見られているみたいだよ」
祐二の言葉に苦笑する雨子様。
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。と言う奴じゃな?」
「え?それってアニメの言葉だっけ?」
それを聞いてくふふと笑う雨子様。
「まあ確かにそれはそうなのじゃが、元ネタはとある哲学者の言葉ぞ」
「そうなんだ。」
「うむ、何とも言い得て妙なものじゃ。しかし人間という生き物は本当に面白いの?」
そう言う雨子様に、不思議そうな顔をして問い返す祐二。
「どうしてそう思うの?」
「そうじゃの、例えば僅かな土地の線引きに血道を上げて、戦争すら起こし居るのにもかかわらず、一方で深奥にも近いそんな言葉を吐きよる。全く以て賢いのか馬鹿なのかよう分からなくなることがあるの…」
そこまで言うと急に口をつぐんで、何事か考える雨子様。
「ま、それを言うたら我らも変わらぬのかもしれんの…」
尤も、雨子様の口から最後に吐かれたその言葉は、殆ど音を伴うことなく発され、誰の耳にも届くことの無い言葉なのだった。
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