閑話「雨上がり」
お待たせしました
現実の世界も今、米所は旱魃の最中なんだとのこと
適うなら雨子様達の儀式の効果がリアルにも及びますように・・・
幸いなことに間もなく雨が降りそうではあるのですが・・・
雨子様達が風呂を終えた後、引き続き祐二も入ることとなった。
申し訳ないながらも、他にも順番待ちが何人か居るような状況だったので、急いで入って、あっと言う間に出て来た祐二。
部屋に戻ると雨子様と瀬織姫様は、縁側で沙喜から熱いお茶を頂いているのだった。
「何?もう出て来たのかや?」
そう言う雨子様に、祐二は苦笑しながら言葉を返す。
「いやぁ、だって雨に濡れたのは僕達だけじゃ無いんだよ…」
祐二の言葉に成る程と思う雨子様。だがそれを考慮に入れたとしても、矢張りとてつもなく早いと思ってしまう。
「それでもじゃ。いくら何でも其方、烏の行水も良い所じゃ。いやこれを烏の行水と言うては烏に叱られそうじゃ」
そう言うと、くふふと笑って目を細めるのだった。
そんな雨子様に、瀬織姫様が不思議そうな顔をしながら問いかける。
「雨子様雨子様。烏の行水とは何なので御座いますか?」
つい先程までの、大人の姿の瀬織姫のことを見知っている沙喜としては、今目の前に居るこの姿の瀬織姫様が、同じ存在とは信じ難いものがあるのだった。
けれども沙喜自身としては、適うなら瀬織姫様には当分このままの姿で居て欲しい、そう思ってしまうのだった。
「ところで瀬織姫、烏というのは知って居るよの?」
そんな沙喜の思いを余所に、雨子様と瀬織姫様は会話を続けて居る。
「はい、存じております、かぁかぁと鳴く黒い大きな鳥で御座いますよね?」
「むう、その通りじゃ。まあその烏が水浴びをする時に極めて短い時間で終わらせてしまうことから、人間共が諺として拵えた物なのじゃ」
その話を聞くと瀬織姫様は、祐二や沙喜にそっと視線を走らせ、にっこりと笑いながら言うのだった。
「人と言うのは本当に面白い言い回しをするのですね」
「そうじゃな、そう言った創意工夫はある意味人間の十八番かも知れんの」
すると瀬織姫様、またもやきょとんとした顔つきになる。
そして今度は一体何なのだと雨子様が訝しんでいると、再び質問してくるのだった。
「雨子様雨子様、その十八番とは一体何なので御座いますでしょうか?」
「「ぷっ!」」
それを聞いた祐二と沙喜、思わず後ろを向いて口を手で押さえている。
そんな彼らのことをじろりと見ながら、ひょいと肩を竦めると瀬織姫様の質問に答える雨子様。
「十八番かや、十八番とは歌舞伎十八番と言うてな、歌舞伎という芸を行う役者が、最も得意として居った演目をまとめた台本を、そう呼んだことから来て居るらしいの。つまりはまあ、人間の得意なことと言った意味合いじゃの」
「はぁ、その様に言い換えるなど、人間は本当に面白いものなのですね」
そう言うと瀬織姫様はうんうんと頷きながら感心するのだった。
瀬織姫様としては、いくら村人達が親しくしてくれるとは言っても、この様な形で雑談めいた話をしてくれる訳では無いので、雨子様との会話が楽しくて仕方が無いようだった。
楽しそうにしている瀬織姫様のことを見ていた沙喜は、今後とも神様という地位は尊重しつつも、もう少し歩み寄って話をしていこう、そんなことを考えるのだった。
さて、そんな二柱に混じるべく、雨子様の隣へと腰を下ろす祐二。早速に沙喜から供された甘い茶菓を頂きながら、薫り高いお茶をのんびりと啜る。
そうやってそろそろ四時間くらいの時が経過しただろうか?
熱帯域で言われるスコールには及ばないのだけれども、そこそこの勢いで絶え間なく降り続いたことから、結構な雨量を得ることが出来たと思われる。
その雨もついには少しずつ雨脚を弱め、上空の雲が次第にその重さを無くしていくのだった。
「もうそろそろこの雨も上がりそうじゃの」
雨子様がそう言いながら見上げている内にも、雨を降らせていた雲が徐々になくなり、空が開け始めるのだった。
「うむ、良い雨であったの…」
そう呟くように言う雨子様、一旦晴れ始めると見る見る内に雲が霧散していく。
「あ!虹!」
祐二がそう言って声を上げ、指差した先には、山の上に掛かる大きな虹がくっきりと見える。
「こんなにはっきりと美しい虹って、何だか久しぶりに見たような気がします」
沙喜がそう言うと、雨子様が顔を綻ばせながら言う。
「うむ、善哉。正に吉兆となるであろうな」
その時一陣の風が吹く。その風は少しひんやりとして心地よく、今までその場に滞留していた重い大気をさっと吹き払っていくのだった。
「気持ち良う御座いますね」
瀬織姫様の口から自然にそう言葉が溢れる。
そう言っている間にも爽やかな風が皆の間をすり抜けていく。肌の上を抜けていくその余りの心地良さに、雨子様はそっと目を閉じ、ほっと息を吐きながら祐二に寄りかかるのだった。
祐二はふと寄り掛かる雨子様に、神様とは言え矢張り責任を感じて気を張っていたのかなと、何も言わず黙ってその重みを受け止めて上げるのだった。
そんな二人の様子を傍らで見ていた瀬織姫様、つと立ち上がったかと思うと雨子様の側から離れ、祐二の側へと移動していく。
そしてちょこなんと腰を掛けると、自分もまたそっと目を瞑り、祐二へともたれ掛かるのだった。
雨子様だけならともかく、反対側から瀬織姫様の重みまで掛かってきた祐二。
これは一体どうしたことかと、思わず必死になって思案するも、何も思いつかない。
それならばと頭を巡らせて沙喜の方を見るのだが、肝心の沙喜はと言うと、口を押さえて笑いに耐えながら、そそくさと部屋から退去していく所なのだった。
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