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天露の神  作者: ライトさん
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閑話「蚊と神様」

珍しく今日は間に合いました(^^ゞ


がしかし・・・雨乞いの儀を執り行うまであと少しと言いながら、

なかなか行き着きません。申し訳無いです

もう後少し、あと少しお待ち下さいませ


 食事の後はのんびりして下さいと言われ、縁側に面した広い部屋に案内された。

特にエアコンを使っている訳でも無いのに、そよと吹く風が何とも心地よい。


 寛ぐ雨子様の目にとある物が入り、祐二に尋ねてみる。


「祐二よ、あの何だか豚の様に見える置物、あれは何なのじゃ?中から煙の様なものが出て居るが?」


 そう言いながら雨子様の膝を枕に、ごろりとしている瀬織姫様の頭を優しく撫で続ける。


「ああ、あれは蚊遣りと言って、中で蚊取線香を焚いて蚊を退治したり、忌避する効果もあるそうですよ」


「ほう、面白いものを考えるのじゃな?」


 そうやって感心している雨子様に、祐二が尋ねる。


「そう言えば雨子さんは蚊に食われたりしないの?僕は山に行っている間に随分食われちゃったよ」


 そう言う祐二のことを気の毒そうに見ながら雨子様が言う。


「食われるとどうなるのじゃ?」


「今はもう余りないことだけど、希に病気に感染することがある。けれどもそんなことよりも、とにもかくにも噛まれたところが痒い!そして掻いたら掻いただけ余計に痒い気がしてたまんない」


「そんなになのかや?」


 雨子様は何故か祐二のことを、怖いものでも見るかの様に見つめる。

祐二は自分のことを見つめてくる雨子様のことを見て、恨めしそうな表情になりながら言う。


「そう言う言い方をするってことは、雨子さんは蚊の被害をうけてないのか~。くぅ~~羨ましい」


 真剣に羨ましがっている祐二のことを見た雨子様は、思わずくふふと笑う。


「まったく、しょうの無い奴じゃな」


 そう言って笑う雨子様のことを見た祐二は、思わず頬を膨らませて拗ねる。

雨子様はそんな祐二の頬を人差し指で潰しながら教えるのだった。


「其方も達人と言えるほど剣を使える様になってきて居るのじゃから、もう十分に気を使いこなすことが出来るであろ?」


「気?それと蚊と何の関係があるの?」


「むぅ、そこからかや…。まあ良い、試合をして居る時のつもりで気を巡らしてみよ」


 言われるがままに祐二が気を巡らせると、雨子様は彼に後ろを向くことを要求する。


「それでどうするの?」


 雨子様に背を向けた祐二がそう尋ねるのだが、その背中に雨子様は、手近にあった手拭きをひょいっと投げかけるのだった。


「ぱしっ!」


 気配を感じてものの見事に受け止める祐二。

いつの間に身体を起こしたのか、祐二のその技を目にした瀬織姫様が、


「おおっ!」


 等と言いながら拍手している。


「まあ当然じゃの、これくらいは…」


 対する祐二もまた、「これくらいは出来なかったらね」と言って当たり前扱いしているのだった。


「では次の段階じゃ、もっと感度を高めてみよ」


 雨子様にそう言われた祐二は、感度と言われて首を傾げるのだが、やがてに何か掴んだのか目を瞑って集中し始め得る。


 その背中に雨子様は、今度はティッシュで小さな紙飛礫を作り、それを指で弾いてぶつけるのだった。


 だが祐二はその紙飛礫をも美事に弾いてみせる。


「うむ、十分に繊細で柔軟な気を展開することにより、飛んでくる紙飛礫を察知する、言ってみれば疑似結界じゃな?」


「結界?」


 問う祐二にうんうんとなずく雨子様。傍らで瀬織姫様も真剣になって耳を傾けている。


「そうじゃ結界じゃ。そもそも本来の結界は、神力を使って作り上げるもので、これは術者がその場を離れても独自に存在し続けることが出来る。まあそれなりの呪を施して居ることが条件じゃがな。一方気による疑似結界は、術者がその場に居らねば展開出来ないものなのじゃが、特に呪を施さずとも術者が気を練り、念で制御することにより手軽にどこでも発揮出来るのじゃ。そして今の祐二はそれを使うことにより、後ろからの攻撃に対して、丸でそこに目が在るが如く対応することが可能になって居る」


 雨子様のその説明を感心したかの様に聞いている祐二。


「じゃあ僕が気配を感じているという感覚って、その気による作用なんだね?」


「うむ、そう言うことじゃな。気はまず身体に巡らせることにより、様々な筋肉の動きを制御したり力を増強したり出来るのじゃが、それがまず第一段階。それを十分にこなせる様になると、今祐二が行っている様に、身体の外に気を展開し、気配を感じることが出来る様になる。これが第二段階」


「もしかして未だその先があるの?」


 祐二のその言葉に雨子様はにっこりと笑みを浮かべながら言う。


「正にそう言うことじゃな。祐二よ今其方に向かってぶつけた紙飛礫を、我に向かって放ってみるが良い」


 そこで先程弾かれて、少し離れたところに転がっていた紙飛礫を拾うと、雨子様と同じように指で弾いた。


 勢いよく弾かれた紙飛礫は、もちろんのこと雨子様に向かって飛んでいくのだが…。


「あれ?当たった?」


 一見当たったかの様に見えた紙飛礫。しかしこれまでの修行で鍛え抜かれている祐二の目には、雨子様の肌に届く直前に紙飛礫が弾かれた様に見えたのだった。


「当たったかの様に見えるかも知れぬが、実際には当たって居らぬの。皮膚の表面上五ミリくらいのところで弾き返されて居るはずじゃ」


「もう一度やってみても良い?」


 目を輝かせた祐二が言うと、うむとばかりに雨子様が頷いて見せる。


「ぱしっ!」


 再び祐二が紙飛礫を弾くと、今度はしっかりと見えた様だった。


「凄い!」


 そう言って興奮している祐二の横で、自分も紙飛礫を作ると雨子様目がけて弾く瀬織姫。


「いたた、こら瀬織姫、気を張って居らぬ時にやるでは無い」


 祐二との会話に気を取られていた雨子様、まさか瀬織姫様まで紙飛礫をぶつけてくるとは思っていなかった様だった。


 怒ると言うほどの口調では無かったのだが、途端にしょんぼりした様子で謝罪する瀬織姫。


 見かねた雨子様が優しく言う。


「良い良い、其方もしてみたかったのであろ?ほれ再び張ったが故、其方もやってみるが良い」

 

 雨子様にそう許可された瀬織姫、嬉しそうにしながら今一度紙飛礫を弾く、当たらない。


「ところで雨子さん」


 何度もぶつけられる紙飛礫をことごとく弾き返しながら、瀬織姫の相手をしている雨子様に祐二が問う。


「これって矢や弾丸なんかも防げるの?」


 その問いに雨子様はゆっくりと首を横に振りながら言う。


「どこに来るのかが分かっていて、その箇所のみに気を集中させて居るならともかく、広範囲に気を展開しておったら無理じゃな。じゃが展開範囲を広めにして気配察知を優先させておけば、矢ぐらいなら気配方向のみの硬化で対応可能かもしれん。尤も実現するにはそれなりの修行は必要じゃろうの。弾丸についても更に修行すれば、軌道を変えることくらい可能になるやもしれんが、そんなことに苦労するよりも神力を使った方が簡単であろう」


「成る程…」


 祐二は感心することしきりだった。

一方雨子様は、瀬織姫様を見るなり言う。


「瀬織姫よ、其方ももう紙飛礫は止めぬか?」


 瀬織姫は雨子様が祐二と会話している間ずうっと、紙飛礫をぶつけ続けていたのだった。

そんな瀬織姫様に雨子様が言う。


「瀬織姫よ、そろそろ其方にも術理が理解出来たであろ?紙飛礫をぶつけてみようかの?」


 雨子様にそう言われた瀬織姫様、嬉しそうに頷くと雨子様のことを見つめる。

そこで雨子様は、周りに落ちていたいくつかの紙飛礫を拾うと、早速に瀬織姫様目がけて弾くのだった。


「ふふん」


 全て弾き返すことが出来た瀬織姫様、実に嬉しそうである。

そんな瀬織姫様のことを優しい目で見ていた祐二、成る程と納得した表情で雨子様に言う。


「つまりはこれを使って蚊の襲撃を防いでいたと?」


 対する雨子様は楽しそうに笑い声を上げながら言う。


「くははは、正にその通りじゃ」

 

 そこで祐二は口を尖らせながら言う。


「それならそれで早く教えてくれたら良かったのに…」


 そう言いながら祐二は、手足のあちこちに残る赤く腫れた小さな膨らみを、幾つも見せるのだった。


 そんな祐二に雨子様は物凄く申し訳なさそうに言うのだった。


「そうは言うがの祐二。其方がその様な状況にあるとは知らなんだのじゃ。知らないものは教えようが無いであろうに…」


 祐二にも雨子様の言うことは尤もと、その道理を理解出来るだけに、何ともそれ以上言い募りようが無いのだが、それでも痒いものは痒い。

祐二はこれから外に行く時は、絶対にこの技を使おうと心に決めるのだった。





いいね大歓迎!


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ブックマークもどうかよろしくお願いします

そしてそれらをきっかけに少しでも多くの方に物語りの存在を知って頂き

楽しんでもらえたらなと思っております


そう願っています^^

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