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天露の神  作者: ライトさん
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閑話「瀬織姫の好物と好奇心」

またも大幅に遅れてしまいました

申し訳ありません


「お腹が空いて居られると思って、直ぐ食べられる物からお持ちしましたので、天ぷらや羹と言ったお料理は少しお待ち下さいね」


 女将にそう言って頭を下げられるのだが、既に座敷机の上の料理は大した品数になっていた。


「ところで神様方におたずね致しますが、こう言った料理で忌み物とかは御座いますか?本来であれば予め伺っておくべきなのですが、生憎と気が回っておりませんで、誠に申し訳御座いません」


 更に追加してそう尋ねる女将に、雨子様は頭を下げながら言葉を返した。


「特に我らに忌むべき物は無い。じゃがその気遣い感謝する」


 神様自らそうやって頭を下げて感謝されたことに、女将は驚き慌ててまた頭を下げる。


「とんでも御座いません、勿体のう御座います。おつむをお上げ下さいませ」


 そうやって素直に敬う思いを出す女将に、雨子様は相好を崩した。


「どうやら瀬織姫は、この地にて本当に大切にされて居る様じゃの?」


 雨子様にそう言われた瀬織姫様は、嬉しそうな表情をすると、溌剌と元気良く答えるのだった。


「はい!それはもう」


 雨子様はそんな瀬織姫様の頭を、優しく撫で付けると言う。


「良き人、良き縁に恵まれたということじゃな。そうで無ければ斯様に幼き姿の神など、人前に顕現することは出来ぬであろうからな」


 そう言うとほんの少し寂しそうな顔をする雨子様。

何故に雨子様がその様な顔をと思う祐二なのだが、今は他に人が居ることもあって黙っていることにした。


 だがそれも僅かな時間で、当面の料理を運び終え、人足が途絶えたところで早速聞くのだった。


「どうかした?雨子さん」


 まさか自分のそんな表情を見られているとは知らない雨子様、不思議そうに祐二に問い返す。


「どうかしたとはどう言うことじゃ?」


「だって何だか寂しそうな顔していたじゃ無い?」


 そう言う祐二に、雨子様は少し気まずそうな顔をする。


「祐二、其方見ずとも良いものにまで目が届き居るの?」


 そう言うとはぁっと小さく溜息をつく雨子様。


「ともあれ腹が空いて居るのであろ?折角こうして用意して頂いたのじゃ、まず食するとしようでは無いか?」


 そう言うとすっと手を合わし、「頂きます」と唱えた後、嬉しそうに箸を付け始める雨子様。

 直ぐに相好を崩しながら、「美味い」と嬉しそうに言うのだった。


 雨子様がそうやって、先に食べることを優先するのには二つの理由があった。

一つにはまず祐二のお腹の虫を抑えないことには、グゥグゥと何度も自己主張が有り、五月蠅くて仕方が無いこと。もう一つには、気の滅入る様な話しは、空腹時にするものでは無いと思うからだった。


 目前の物に取り敢えず箸を付けて行く内に、暖かさが命の料理を掲げて、何度も膳を運んでくる。


 いくら何でもこの料理の量はと危惧するのに相前後して、香の物とご飯、汁物を供された。何ともタイミングが良く、こちらの腹具合を見透かしているのではと勘ぐるほどだった。


 パリポリと歯ごたえの良い物を食べている瀬織姫が、実に嬉しそうにしている。

そんな瀬織姫様にご飯を装って渡しながら女将が言う。


「姫神様の好物だと村長から聞きまして、急いで取り寄せたのですよ」


 瀬織姫様のその何とも幸せそうな表情に引かれた雨子様、思わず自分の前に在った漬け物にすっと箸を伸ばす。


「おお、確かにこれは甘塩っぱく独特の風味もあって、何とも美味い物じゃな?」


 そう言って褒める雨子様に、女将は何とも嬉しそうに言うのだった。


「それはそれは真に嬉しいお褒めのお言葉でございますね。姫神様の…」


 そう言いながら女将は瀬織姫様のことを見た。


「折角の好物ならばと、評判の店より特に取り寄せさせて頂きました」


「成るほどの、それであの喜びようか」


 瀬織姫様が満面笑顔にしながら、その漬け物ばかり選って食べているので、雨子様は自分の分も食べよと皿を寄せてやる。


「ああ、それでしたらお代わりを」


 慌ててそう言う女将を、手で制止ながら言う雨子様。


「良い、今はあれで十分じゃ。何なら明日の朝食の時にでも出してやってくれ」


 そう言って瀬織姫様のことを思いやりながらも、自分達のことにまで思いを凝らす、そんな雨子様の姿に、女将は自然頭を下げるのだった。


 そしてお仕舞いに果物のシャーベットが出て来たのを食べ終えると、満足げにお腹をさすっている祐二に雨子様が言う。


「十分に食べたかや?」


 すると祐二は、耳を澄ます様な素振りをした後に答えを返す。


「うん、少なくともお腹の虫はもう鳴かないみたい」


 するとそれを聞いていた瀬織姫様が、目を丸くしながら祐二に聞く。


「祐二さんは、お腹に虫を飼って居られるのですか?」


 ぎょっとする祐二、一方雨子様はと言うと、後ろに仰け反り、ひっくり返りながら笑っている。


 どう説明するべきか直ぐに答えが浮かばなくて、絶句した状態になっている祐二に替わって、何とか笑いを抑えた雨子様が、涙を拭いながら説明するのだった。


「瀬織姫よ、腹の虫というのは比喩での。人は空腹になると胃の中を空気が通ることがあっての、その時にグゥと音がするのじゃが、それを称して腹の虫が鳴くというのじゃ」


「何と、本当に虫が居る訳では無いのですね?見てみたいと思ったのに…」


 そう言いながら微かに唇を尖らせる瀬織姫様。

どんだけ好奇心と呆れる祐二を尻目に、雨子様が更に語を継いで教える。


「くふふ、まあそう言うことなのじゃが、祐二のこと故、虫下しでも飲ませてみれば、もしかすると大きな虫でも出てくるかも知れぬの?」


 途端に目を輝かせながら「そうなのですか」と言って気色ばむ瀬織姫様。


「だから~~」


 恨めしそうに雨子様のことを見つめながら言う祐二。


「そう言う好い加減なことを瀬織姫様に言わないで下さいよ。本当によい子…げふん、神様なんですから…」


「其方今、瀬織姫のことを子と言いかけなんだかや?


「すいません、言い間違えました」


「むう、しかしまあそう言うところが有るよのう。ところで瀬織姫よ、何故に祐二の腹をさすって居るのじゃ?」


 対して瀬織姫様は極真面目な表情で言う。


「ですから祐二さんのお腹には、どんな虫が居るかと…」


 祐二の危惧した通り冗談を真に受けている瀬織姫様に、苦笑しながら話しかける雨子様。


「済まぬの瀬織姫。先程の虫云々は、我が祐二をからかう為に言った冗談なのじゃ。本当のところ、虫など居らぬであろうよ」


「本当に居ないのですか?」


 瀬織姫様はじっと祐二のお腹を見つめながら言う。そこで祐二が慌てて言葉を追加するのだった。


「居ません、僕のお腹の中に虫なんか居ません!」


「そうなのですか…」


 と、心なしかしょんぼりとする瀬織姫様。

その姿を見ていると何だか気の毒にも思えてきたので祐二が言う。


「なら雨乞いの儀が終わった後で宜しかったら、一緒に虫取りでもしてみます?」


 すると瀬織姫様は、嬉しそうに目を輝かせながら小指を差し出してくる。


「これは?」


 祐二が聞くと不思議そうな顔をして問う瀬織姫様。


「祐二は指切りを知らないのですか?」


「ああ、成る程。指切りげんまんですか」


 すると瀬織姫様、「げんまん?」と言ってこてんと首を傾げる。

すると祐二は祐二で、何故に首を傾げているのかと不思議に思って悩んでしまう。


 そんな二人を見ていた雨子様が、笑いながら言うのだった。


「祐二はの、「指切りげんまん」を一つの言葉と思って居るようじゃが、正しくは「指切り・拳万」なのじゃよ」


 雨子様の言う意味が今一良く分からず、悩む様子の祐二に、更に説明を追加する雨子様。


「それはの、指切りをして万一約束を破ろうものなら、拳で万回叩くという、それはとんでもない約束の証なのじゃ」


「げ!」


 その言葉の意味を知って思わずそう声を漏らす祐二。


 一方、瀬織姫様は何度も口の中で「指切りげんまん、指切りげんまん」と嬉しそうに繰り返し呟いている。


 結局祐二は、自ら言い出した言葉でもあるので、瀬織姫様にそっと自らの小指を差しだすと、「指切りげんまん」で虫取りの約束を誓うのだった。


「ところで瀬織姫様は、どんな虫が好きなのですか?」


 祐二は虫取りの約束をしたところで、ならばどんな虫が取りたいのかと、予め瀬織姫様に問うてみる。すると瀬織姫様はわくわく感一杯と言った感じで答えてくれる。


「カブトムシにクワガタムシです」


 何とも女の子らしくない虫の好みなのだった。


「どうしてその虫なのです?」


 祐二が聞くと瀬織姫様は、少し切なさそうな顔をしながら言う。


「だって、村の子供達が一生懸命に取ってきて、楽しそうに遊んでいるのですもの」


「一緒に混ざって取りに行かないのですか?」


 すると瀬織姫様は無言のままそっと頷くのだった。


「…」


 すると二人の会話を聞いていた雨子様が言う。


「のう祐二よ、瀬織姫は神なのじゃ、致し方在るまい?」


 そう言う雨子様に少し納得出来ないと言った顔の祐二が言う。


「そうなの?」


「うむ」


 そう言うと雨子様は、瀬織姫様の頭にそっと手を伸ばし、優しく撫でながら言う。


「本来、神とは畏れ敬う物じゃ。そのことは女将や達彦の態度を見ておっても分かろうというものじゃ。姫神様と言って並々ならぬ親しみを持って居るが、それでもなのじゃ。祐二の母の節子ほどに、あそこまでダイレクトに触れ合ってくる者なぞまずおらん」


 そう言うと可笑しそうに、くくくと笑う雨子様なのだった。


「じゃがの祐二、適うならこちらに居る間に少しでも、あやつと人の間の橋渡しになってやるが良いよ」


 そう言う雨子様の言葉に、はてさてとまたも悩むことが増えてしまう祐二なのだった。



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この下にある☆による評価も一杯下さいませ

ブックマークもどうかよろしくお願いします

そしてそれらをきっかけに少しでも多くの方に物語りの存在を知って頂き

楽しんでもらえたらなと思っております


そう願っています^^

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