閑話「雨乞い四」
ちっこい、どこか不完全なところがある瀬織姫様。この先どんなことを引き起こしてくれますやら……
背丈から見ると、もしかすると令子よりも少し小さいだろうか?
普段街中を歩き馴れていないのか、少しでも興味を引くものが有ると、そちらの方へフラフラと歩いて行ってしまう瀬織姫様。
何度か軌道修正を行う雨子様と祐二だったのだが、それが三度を超え始めたところ辺りから、もう諦めることにした。
まず祐二が手を繋いで歩くことにしたのだが、気がつくとふっと手を抜け、先程と同じように何処かに彷徨い出でてしまう。
その度に祐二が急ぎ駆け寄って、その手をまた掴んで引き戻すのだが、いつの間にやらまたするりと抜けて行ってしまうのだった。
さすがにその様子を見かね、雨子様が祐二に向かって苦言を呈す。
「のう祐二よ、其方先程から一体何をやって居るのじゃ?童一人の同道も出来ぬと言うのかや?」
しかしそんなことを言われても、祐二にもどうしようも無く困ってしまうのだった。先程から何度もきちんと手を握り締めているにも拘わらず、その手がいつの間にか、本当にいつの間にかするりと抜けてしまうのだから。
「それがね雨子さん、どう言う訳かは分からないのだけれども、いくらちゃんと手を握っても、気がついたらいつの間にか抜け出てしまっているんだよ」
対して雨子様。
「そんな馬鹿な…」
とは口では言って見るも、雨子様が祐二の言う言葉を信じない訳が無い。
ならばと言うことで、今度は雨子様が瀬織姫様の手を握ってみる。そして通りを最寄り駅の方に向かって歩き始めるのだが、歩き始めて一分も経たない内に、すっと手を抜けふらふらと、どこかに行ってしまいそうに成るのだった。
「これは面妖な?」
さすがの雨子様も大いに首を傾げながら、自らの手を見つめるのだった。
だが今はその様なことに事細かに関わり合っている時では無いのだった。
「むう、祐二よ、反対側からも同様に手を繋ぐのじゃ。両側から挟み込めば、さすがにこちらの身体が邪魔になり、抜け出てしまうことも無くなるじゃろう」
祐二に向かってそう言い終えると、今度は瀬織姫様に向かって口を開く。
「こりゃ瀬織姫、先程から何度我らの元をふらりと離れて行くのじゃ?其方のために急ごうとしているのに、其方自身が我らの邪魔をして如何するのじゃ?」
怒ると言うほどの語気では無いのだが、それでも真剣に窘められた瀬織姫様は、半分ベソを掛けながら何度もごめんなさいと頭を下げるのだった。
だがその最中にも、通りに目新しい物が見えたりすると、ふらふらとそちらの方に行こうとする。反対側で祐二が手を繋いでいるにも拘わらず、ふっと離れて行ってしまうのだった。
「こ、これはたまらんの?さすがにこれはどう言うことか、一度和香にも聞いて見ねば成らんとは思うが、今はその様なことをしておる場合では無いの…。やれやれ仕方が無い…」
そう言うと祐二のことを手招きする雨子様。
そして祐二に対して、物凄く申し訳なさそうに言うのだった。
「この暑い時に本当に申し訳ないことであるが、すまぬが祐二、この子を負ぶさっていっては貰えぬかの?」
祐二は一瞬えっ?と言う顔をするも、直ぐにそれしか無いと納得し、苦笑しながらも頷いてみせるのだった。
「こちらに来るのじゃ瀬織姫」
そう言って雨子様は瀬織姫様を招き寄せると、その両脇にすっと手を差し込んだ。
そして体重が無いかのようにひょいっと抱え上げると、そのまま祐二の背に負ぶさらせるのだった。
「これならば何処にも去ることは無いであろう。行くぞ祐二!」
そう言って今度は二人で並んで駅への道を急ぐのだった。
「この暑いときに童を背負わねばならぬとはの…」
子供の体温が大人の物よりも高いことを知っている雨子様は、祐二に対して申し訳ない思いで一杯なのだった。
が、その暑いはずの祐二が何故か涼しい顔をしている。不思議に思った雨子様は尋ねてみるのだが。
「のう、祐二。其方暑くは無いのかや?妙に涼しい顔をして居るようなのじゃが…」
するとその問いに答える祐二もまた、不思議そうな顔をしながら言うのだった。
「それがね雨子さん、何でかは知らないのだけれども、この子を負ぶっていると負ぶらないでいるよりも涼しいような気がするんだよ」
「一体どうなって…」
そう言いながら雨子様は、祐二と瀬織姫様の間に手をそっと差し込む。すると確かに冷たいのだ。はてと思いながら今度は瀬織姫の背に手をやるなり笑ってしまう。
「祐二よ、こやつ其方に背負われるを申し訳なく思って居るようじゃ」
見ると瀬織姫様は、恥ずかしそうに祐二の背に顔を埋めている。
一方、何が何やらの祐二は、顔中を疑問符にしながら雨子様のことを見る。
「こやつは其方に引っ付いて居る部分を冷やし、その熱を背中から出して居るのじゃ。じゃから祐二が涼しく感じて居るのじゃ」
当の瀬織姫様は、そう言う自分のやっていることを、種明かしされるのが恥ずかしいらしい。
「雨子様…」
祐二の背中で僅かに顔を上げてそう小さく言葉を吐くと、もじもじしながらまたその背に顔を埋めてしまうのだった。
だがそうやって思わぬイレギュラに困らされながらも、足を進めれば前には進む。
やがてに駅にたどり着いた一人と二柱。さすがにこれから生まれて初めて電車に乗るとあっては、どこにも居なくなること無く、きちんと祐二達に従う瀬織姫なのだった。
切符を買って手渡すと、改札機に吸い込まれていく様を、興味津々に見守っている瀬織姫。
もう一度通りたそうにしているのだが、それをやってしまうと、再び切符を買わなくては成らないので首を横に振る雨子様。
途端にしょんぼりとしてしまうのだが、それも束の間、エスカレーターに乗ったり、行き交う列車を見るのにもう夢中という状態になるのだった。
「こうなると人間の童と何ら変わるところが無いの?」
そう言って苦笑する雨子様。
こんな状態なので、列車に乗ると即座に席に上がって窓から外を見始める。
「これ、そうやって外を眺むる時は、他の人の迷惑にならぬように靴を脱ぐのじゃ」
等と言って雨子様は、甲斐甲斐しく瀬織姫様の面倒を見て上げるのだった。
そしてその姿を見てとても好ましく思ってしまう自身がいるのに、ふと気がつく祐二なのだった。
「この人となら…」
ふと知らずして口から生まれる言葉一つ。
「ん?なんじゃ祐二?何か言うたかの?」
そう問う雨子様に、素直に自分の思いを明らかにする祐二。
「いやあ、雨子様となら将来一緒に楽しくやっていけそうだなって思って…」
まさかそんな答えが返ってくるとは、思っても見なかった雨子様、束の間真顔に成ったかと思うと、たちまち真っ赤になって明後日の方向へと顔を背けるのだった。
「バカ祐二…」
そう言って何故だかぷんぷんと怒り出す雨子様と、苦笑している祐二、その双方を見て不思議そうな顔をしながら、故なく胸の内の温かくなる思いを感じる、瀬織姫なのだった。
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