帰途
余談ですが筆者は子供が大好きです。多分自身のレベルが低いせいなのでしょう、遊ぶときはいつも同レベルのような気がしますw
「成る程、そんなことがあったんだ」
迎えに来た父の車に乗り込んだ後、僕達は葉子ねえに待合室で有ったことを話して聞かせた。
「幸いにも私は上手く授かることが出来たのだけれど、なかなか授かることが適わない人にとってもの凄くプレッシャーだって言うから、その人にとっては本当に嬉しかったことだと思うよって、本当にそうなるのはまだ先の話なんだろうけれどもね」
「うむ、子を授かるというのは本当に色々な諸条件の組み合わせの末にあることじゃからの。単に結果だけ見て子を得たという風に見えるかもしれんが、もそっと人は感謝の念を持った方が良いのかもしれんの」
「ところでふと思ったのだけれど、雨子さんには今どんなことが出来るの?」
葉子ねえのその質問は僕も聞いてみたいなと思っていたことだった。
「そうじゃの、今の我はほとんど祐二の精のみに頼って居る状況じゃから、出来ることと言ったら微々たるものじゃ」
「たとえば?」
葉子ねえは雨子様に対してなんの拘りも無くあっさりと聞く。
「えっと、雨子様そんなこと話ちゃっても良いのですか?」
端で聞いていてさすがに気になってしまったのでそう言ったのだけれども、雨子様にはあっさりと杞憂であると一蹴された。
「構わぬ、いずれにせよ今の我には大したことは何も出来ぬが故に。たとえば葉子に掛けた呪じゃが、これは周りに間違いが起こらないように力を及ぼして居る」
「間違いが起こらない?」
その答えに葉子ねえは不思議そうな顔をした。
「うむ、たとえるなら交通事故なども多くの場合は、ごく僅かな人の判断の誤りから起こることが多いものじゃ。我の呪はその誤りが起こることを防ぐことを主目的として居る」
「成る程、周りに居る人間が元で起こりうる事故は、大体それで防ぐことが出来るという訳なんですね」
「うむ、その通りじゃ。一応人間以外の多少なりとも意思のある生き物にも対象を広げて居るから、少しばかり安全性の上積みにも成って居ろう。また、意思を持たぬ者で有っても、単細胞生物以下の小さき者たちには害を及ぼすことの無いようにと言う我の意思を押しつけて居る」
「だとすると病気にもならないんだ」
そう言う葉子ねえは何だか嬉しそうだった。
「じゃがな葉子、食べ過ぎのようなものには効力は無いぞえ?」
それを聞いた僕は吹き出してしまった。
一時つわりが酷くてあまり食べられないと言っていた葉子ねえだったが、ここのところご飯が美味しくて仕方が無いと、ついついオーバーカロリーの嫌いが有るらしいのだ。
ある意味これは雨子様から葉子ねえへの実に愉快な釘刺しだと思える。
「えへへ、お見通しかぁ」
そこへ寡黙に運転していた父さんから声が掛かった。
「葉子、可愛く言っていてもだめだぞ?妊娠中に太りすぎるのはよろしくないと聞いて居るぞ?」
葉子ねえは父さんから見えないところで密かに舌を出していた。
「我が宝珠を維持しており、万全の状態で有ったらいかなる心配もさせないところで有ったのにの、すまぬことじゃ」
雨子様がしゅんとしながら葉子ねえに謝っている。
「因みに宝珠とやらが有ったらどんなことまで出来たのですか?」
好奇心に負けた僕が雨子様に聞く。
「そうじゃな、余程のことでも無い限り、まず何でも出来ると言えるかもしれんの。じゃがのそれは夢また夢のお伽噺となりはててしもうた」
そう言う雨子様は何だか切なそうだった。
「でも少なくともこうやって普通に人社会の中で暮らす限りは十分じゃ無いですか」
雨子様の元気が無いのは厭だったのでそうフォローする。
多分雨子様にはそう言ったフォローだと言うことは知られているのだけれども、それでもにっと笑って嬉しそうにしてくれた。
そうやって車内でワイワイやっているとあっと言う間に家に着いてしまった。途中渋滞が無かったのも幸いだった。
「ただいまぁ」
葉子ねえを筆頭にそう言いながら家に中に入っていく。だが雨子様は最後まで残って駐車場に車を止めてきた父さんのことを待っていた。
「ご苦労で有ったな」
そう言って雨子様は父さんのことを労う。
「それはこちらの言う台詞です。子を産むと言うことについて、今の私たちにとって随分明らかになってきていますが、それでも不安なことだらけなんです。それを雨子様に見て頂けることでどれだけ安心できるか…」
そう言うと父さんは雨子様に頭を下げた。
「そのようにゆうて貰えると我も嬉しいものじゃ。まあそなたの子の功徳が有るが故と思うて貰えたら良いかの」
家の中では既に夕食が用意されていた。今日は葉子ねえの好きな物づくしか?
案の定葉子ねえは目をきらきらさせている。
「葉子ねえ、ついさっき雨子様から食べ過ぎはだめだと言われたばかりだって覚えている?」
「えっえ~…うん」
その一言ですっかりとしょぼくれてしまった葉子ねえ。そのしょぼくれ具合が極端だったので思わず吹き出してしまった。
「あまり姉をいじめる出ない」
雨子様がそう僕を諫めて葉子ねえの味方をする。
葉子ねえはそれがとても嬉しかったのだろう、後ろから雨子様を抱きしめてその顔に頬ずりしている。
「こ、これ、良い年をした大人が童のようにふざけるでない」
そう言って叱りはするのだが顔は笑っている。
我が家に来た当初はもっともっと堅い感じだった雨子様、随分打ち解けてきたというか、人で有ることに慣れてきた、そんな風に感じられた。
節分も過ぎ、そろそろ早く暖かくなって欲しいですね




