「雨子様だけの恋」
すこぉーし、遅くなりました(^^ゞ
夕食を終え、夜もかなり更けて来た頃、祐二の部屋の扉を叩く者が居た。
「どうぞ」
中から部屋の主の声がして、中に入ることを許される。
机に向かっていた祐二が振り返って見ると、扉を開けて入って来たのは雨子様だった。
彼女は祐二に勧められるがままに、彼の前に置かれた小さなスツールに腰を下ろした。
「こんな遅くにどうしたの?」
すると雨子様は少しもじもじしながら、やがて決心したかのように言うのだった。
「先に祐二が言うてくれたアドバイスに従って、つい今し方まで節子の所に行って、色々と話を聞いて貰ってきたのじゃ」
祐二はそう語る雨子様の顔を見ながら言う。
「何だか随分すっきりとした顔になっているのじゃ無い?」
祐二がそう言うと、触ってみたとて分かるはずも無いであろうに、そっと自分の顔に触れてみる雨子様なのだった。
「そうなのかの?じゃが其方の言う通り、心の中の色々なもやもやは随分消えたように思うの」
そう言う雨子様の満足そうな様子を見ながら、アドバイスが役に立ったことを喜びつつ、手近に有ったカップに手を伸ばした。
「そして色々聞いたのじゃが、随分と勉強になったのじゃ」
嬉しそうに雨子様が言うのを聞きながら、祐二は渇きを潤す為にゆっくりとカップの麦茶を呷るのだった。
「我は其方と、何時か一つに成りたいと言うて居ったのじゃが、聞けばその時直ぐに母にならなくても良いのじゃな?」
「ぶふぉっ!」
飲みかけていた麦茶を、これでもかと思いっきり派手に吹き出す祐二。
「うわぁ!何をするのじゃ祐二ぃ!汚いのじゃ!」
真正面でほとんど全ての飛沫を浴びることとなった雨子様、悲鳴のような声を上げながら、手近に有ったティッシュで必死になって顔を拭う。
「げほげほげほっ!」
気管にも入ったのか、祐二は何度も咳き込んでいるのだった。
その後雨子様が一応綺麗に拭い終わり、(本人は後で風呂に入り直すつもりで居た)祐二もまた雨子様と同じように、汚れた箇所をティッシュで拭い終わると言った。
「なんか妙だとは思って居たのだけれども、雨子さんはそんなことを考えていたんだ?」
そう言う祐二に、雨子様は必死になって弁解するように言う。
「そ、そうは言うがな、生き物たちが一つに成るのは、皆、子を成す為ぞ?」
そう言う雨子様に祐二は、少し呆れつつ、何だか遠い目をしながら言う。
「まあ確かに生物って言うならそうなのかも知れないけれども…。はぁ~~~~」
雨子様はそんな祐二の様子に、少し慌てながら言う。
「じゃが我も学んだのじゃ。その様に直ぐに子を成さずとも、良いのじゃよな?母になるには暫く猶予が有るのであるよな?」
ここに来て祐二は、雨子様が色々なことを知っている、智の神様で有りながらも、人間のことについては、残念ながら知らないことが、まだまだ沢山あるのだなと理解するのだった。
「あのさ、雨子様?」
彼の表情を見ながら、少し落ち着き無さげな雨子様に問う祐二。
「雨子様ってさ、今も時折凄い量の本を読んでいるじゃ無い?」
話しが少し脇に逸れたお陰で、何となくでは有るがほっとした表情になっている雨子様、頷きながら答えてみせる。
「うむ、我は元々はそう言った情報の神でもあるからの」
自身の権能にも係わる話しなので、少し嬉しそうに言う雨子様。
「ならさ、そう言った関係の本とか読まなかったの?あんまり生々しいのはともかく、恋愛ものとかさ?」
祐二のその言葉を聞いた雨子様は、きゅっと下唇を噛んだ。
あんまりきつく噛むものだから、見ていられなくなった祐二がそっと指を宛てがい、優しくその唇を救出する。
そうやって暫く為されるがままにしていた雨子様、眉をへの字に曲げながら消え入りそうな声で何やら言っている。
「…………」
いくら何でも声が小さすぎて聞こえない。
「ごめん雨子さん、良く聞こえないよ?」
すると雨子様は、かろうじて祐二に聞こえるぎりぎりにまで声を大きくすると、目に涙を滲ませながら言うのだった。
「我は長い長い長い、恐らく其方の信じられぬ程長き時を生きてきて居るのじゃ。そして今初めて、生まれて初めて恋をして居るのじゃぞ?ならばこそ、ならばこそ我は、我の思いでのみ其方と恋をしたいのじゃ。その様な誰ぞの思いに染まって等、祐二と恋をしとうは無いのじゃ」
そこまで言うとそっと俯いてしまう雨子様。
溢れ落ちた涙がはたはたと床に落ちて、朝露のように光る。
「…」
それこそ心の奥から絞り尽くすような言葉を聞かされた祐二、それ以上は何も返す言葉が無いと思うのだった。
「で有るからこそ我は、端から見てどの様に不細工であろうと構わぬのじゃ、我は我自身の言葉と思いと行動のみで、其方と恋をしていたい…そう思うのじゃが…駄目かや?」
そう言いながら溢れる涙もそのままに、祐二のことをゆっくりと見上げる雨子様。
「そこまで言われて、思われて、僕が雨子さんに否と言える訳が無いじゃ無いか…」
そう言うと祐二は席を立ち、うるうると涙目の雨子様の頭にそっと手を回し、きゅうっと胸に、宝物のように抱きしめるのだった。
「ぐすっ…、良かったのじゃ…」
そう言いながら肩をふるわせながら、顔を祐二の胸板に押しつける雨子様。
不安で不安で仕方の無かった思いが、一気に解かれ、和らぎ、流れ消えていく。
先程までの不安な涙とは異なり、今度は安堵で溢れる涙が抑えられない。
今は嬉しくて、喜びで一杯であるはずなのに、何故か泣いてしまう、嗚咽を止めることが出来無いのだった。
雨子様はこの時、恐らくまた一つ自身が人に成りつつ有るのを、知ったのでは無いだろうか?残念ながらその真相は正に、神のみぞ知るで有る。
一方祐二はと言うと、この人に不慣れな優しい女神様のことを、何があっても守り、大切にしていこうと、心から誓うのだった。
いいね大歓迎!
この下にある☆による評価も一杯下さいませ
ブックマークもどうかよろしくお願いします
そしてそれらをきっかけに少しでも多くの方に物語りの存在を知って頂き
楽しんでもらえたらなと思っております
そう願っています^^




