「食べ物談義」
遅くなりました(^^ゞ
やっとのこと?で無事乾杯し終えた皆は、早速節子の心尽くしに舌鼓を打つのだった。勿論、極当たり前の主婦が料理する訳なのだから、どこぞの有名店シェフが作るような高級料理という訳には行かない。
だが一般に流通する普通の食材を使いながら、その一つ一つに丁寧に心を行き届かせることによって、想像以上の旨味を引き出すことに成功しているのだった。
その一つが本日のメインになっていた串カツ。
一般的に串カツというと、櫛に様々な素材を刺して、それを揚げるというのが普通なのだが、吉村家の串カツは少し違っていた。
何が違うのかというと、一本の櫛に色々な食材が刺してあるのだった。
櫛を持った時に一番手から遠い側から列挙していくと、まずはウズラのゆで卵、その下にはほくほくの茹でジャガイモがあって、更にその下に豚のヘレ肉、タマネギ、竹輪、ピーマン、最後にソーセージがある。
どうしてこの順なのかというと、食べる時に口の中を占める味の状態を考え、一番上側に最も淡泊なものを置き、食べるに従って徐々に味が濃くなるようにしているのだった。更には野菜系、淡泊系が交互に成るようにも考え、配することにより、飽きを来させないようにしているのだった。
当然のことながらこう言った異種の素材を一緒に揚げるとなれば、それぞれに火の通りが異なりやすいのであるが、素材ごとに下処理を加えたり、大きさを変えたりして同時に上がるように工夫している。なかなかにノウハウの固まりなのだった。
そしてある程度以上の数を上げるとなると、どうしても先に挙げておいたものが冷えてしまいがちなる。だが節子はそこに一工夫をし、オーブンを一定温度にして置いて、そこに揚げたものを次々とストックしておき、皆で食べる時に適時出すことで常に暖かい物を食べられるようにしているのだった。
「おほっ!」
正にその熱々の串カツに齧り付いた爺様が、顔中を笑顔にしながらその美味さを堪能している。そして時折ビールを流し込んではうんうんと頷いているのだった。
「節子よ、これだけの量を揚げるのは相当大変じゃったのでは無いかの?」
他にも沢山の料理があるのを見ていた雨子様、自然節子の苦労を推し量ってしまう。
「まあそれはそうなんだけれども、なんとも申し訳のないことに、お祝い事の主賓の小和香さんに手伝って貰っちゃって…」
そう言うと節子はちょこんと舌を出してみせる。
そんな節子に小さく頭を横に振りながら小和香様が言う。
「いえいえ、私が祝われることになったのは、節子さんのお手伝いでキッチンに入った、その後のことなんですから、お気になさらないで下さいませ」
そこまで言うと小和香様はにっこりと満面に笑みを浮かべる。
「それに節子さん、お手伝いさせていただいたお陰で、節子さんのお料理のノウハウ、たっぷり学ばせていただきましたから、ある意味お釣りが来る位ですよ?」
するとそれを聞いていた和香様が言う。
「なんやて小和香?そしたら今頂いているこの料理、社に戻ってから、作って貰えたりするんやろか?」
そう言って貰えたことが嬉しかったのか、微笑みを浮かべながら言う小和香様。
「はい、勿論です。宜しいですか節子さん?」
ちゃんとノウハウを頂いた相手に確認を取るところあたり、小和香様らしいと言えば小和香様らしい。
「勿論よ小和香さん、そんなの聞くまでも無いことよ?」
節子にそう言われた小和香様は丁寧に礼をすると言うのだった。
「ありがとうございますお師匠様」
お師匠様などと言われた節子は、目を彷徨わせながら落ちつかなげに言う。
「お、お師匠様は止してよ、お師匠様は…」
そう言って慌てる節子の様を見て、その場に居た者達は皆可笑しそうに笑うのだった。
「そやけど節子さんはお茶の淹れ方も師事してくれたんやし、ほんまに小和香の師匠で間違いあらへんやんか?」
そう言う和香様の言葉に、更に困惑する節子。
「だから和香様、勘弁して下さいな。もう、それ以上仰るのなら、和香様の唐揚げは無しです」
そう言うと節子は、和香様の前に在った唐揚げの皿をそっと下げようとするのだった。
慌てたのは和香様だった。
「いやその節子さん?ごめん、うちが悪かった、もう言わへんから許してぇな」
実に情けなさそうな顔をしながら、そう言って慌てる和香様の姿に、食卓はどっと皆の笑いで満たされるのだった。
「ねえねえ節子さん…」
笑いの静まりかけた頃にそう言う令子に、即座に訂正が入る。
「お母さんでしょう?」
節子のその言葉に和香様が不思議そうに聞く。
「なあ節子さん、なんでそうやって令子ちゃんにお母さん呼びさせてるん?」
その質問に節子と令子が二人目を合わせ、くすくすと笑う。
「あのね和香様」
そう言うと令子がその意味を説明し始めるのだった。
「祐二君達の所は今日終わったのだけれど、私の所の運動会はもう少し先なの。それでその時も皆来てくれると思うのだけれども…」
そう言いながらほんの少し不安そうになった令子に即座に雨子様が言う。
「何をつまらぬ心配をし居るのじゃ?行かぬ訳が無いであろう?」
そう言う雨子様に合わせて全員が頷いて見せる。
それを見てぎょっとした和香様が言う。
「なんやて?爺様も行く言うんか?」
すると爺様が僅かに膨れっ面をしながら言うのだった。
「一体何をやって居るのかは知らぬが、お前達の様子を見て居ると何やら面白そうじゃからな、儂も見学してみたいと思うたのよ」
それを聞いた和香様は大きく目を見開きながら令子に向かう。
「ええんか令子ちゃん?」
そう言う和香様に可笑しそうに言う令子。
「勿論です和香様。皆に見に来ていただいた方が楽しいですもの。それと和香様、さっきの呼び直しの件なんですけど」
「そうやそうや、それがなんでなんか知りたかってん」
「あれはですね、私がついつい節子さんのことを節子さん呼びしてしまうのですが、学校に行っている時とかに母親のことを節子さん呼びはおかしいでしょう?だから普段から気をつけてお母さん呼びをしようとしているのですが、ついついうっかり間違えるので、その度ごとに節子さん…お母さんが直してくれているんです」
そう言うと令子は照れ臭そうに顔を赤くして俯いた。
だがそれも一時のことで、節子が先程は何が聞きたかったのと問いかけると、即座に顔を上げて問うのだった。
「そうそう、それなんですけど、このポテトサラダに入っている、小さなこりこりっとした物は何なんですか?」
そう問う令子に節子は嬉しそうに答える。
それはそうだろう、こう言った細かいことに気がついてくれるのは、料理を作る側としては実に嬉しいものだから。
「うふふ、気がついてくれたんだ」
「はい、だってこれとっても美味しいんですもの。味のアクセントになっているというか、でも小さすぎてこれが何なのか掴めないんです」
令子のその言葉に、その場に居た者は皆こぞってポテトサラダに箸を進める。
「ほんまや、なんか小さなつぶつぶが入っとる」
「これはなんでしょうね?これのお陰で美味しさが引き立ちます」
「むう、後を引き居るの」
「ちょっと粒が小さいからね。でもそうしないと余り主張させちゃうとおかしく成っちゃうのよね」
とは節子。そんな節子の言葉に痺れを切らしたかのように雨子様が問う。
「じゃからこれは何なのじゃ?」
その言葉に苦笑しながら節子が言う。
「それはね」
「「「「それは?」」」」
「私お手製のお漬け物各種なのよ。それを邪魔に成らないくらいに刻んで、適量混ぜ込んだの。その塩味と素材の香りや味が微妙にあって、美味しいでしょう?」
「うむ、確かにの。節子よ、いつでも良いのでその漬け物のことも我に教えるのじゃ」
そう言う雨子様に、節子はにっこり頷きながら言う。
「ええ勿論よ、これもまた我が家の味の一つなんだから、雨子ちゃんにも覚えて貰わないとね」
そう言うと隙を見てそっと祐二にウインクしてみせるのだった。
ところがそれを見ていた和香様もまた慌てたように言う。
「う、うちらも混ぜてんか?うちらも知りたいやんな、小和香?」
「はい、是非とも」
だがそこに雨子様から重大な突っ込みが入るのだった。
「ちと待つのじゃ和香、其方いつから料理が出来るようになったのじゃ?」
「へ?そこから?」
思わずそう口走ってしまう祐二。
雨子様の詰問に目を虚ろにさせながら明後日の方向を向く和香様。
「ひゅひゅひゅひゅ~~」
「口笛の音が出て居らんぞ?」
冷たくそう言い放つ雨子様に、大きな目にぶわっと涙を溢れさせた和香様が言う。
「酷いな雨子ちゃん、そないにうちのこと責めんでも…」
そう言って席を立ったかと思うと節子の所に行ってしがみつく。
「あ、こら和香!」
慌てて雨子様が追いかけていって引き剥がそうとするが、ぎゅうっとしがみついている和香様は、なかなか簡単に離れようとはしない。
それを無理に何とか離そうと奮闘する雨子様。
するといきなり耳を劈かんばかりの大哄笑。
「うわっはっはっはっはっは!なんじゃお前ら、いつからその様に面白くなったのじゃ?まさかこの星の最高神とその盟友が、斯くもおかしな事になって居るとはの」
そう言って膝を打ちながら笑っているのは爺様だった。
そんな爺様のことを見ながら決まり悪そうに目を合わせる和香様と雨子様。
そんな二柱をそっと引き寄せ、優しく抱きしめ、くりくりとそのおつむを撫でて上げる節子。雨子様はともかく和香様までもが為されるままに嬉しそうにしている。
大笑いをしながらその目の片隅で、彼女たちの様子を見守っていた爺様。
端からは分からないものの、爺様としては実に興味深いことだなと思って居るのだった。
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