「夕刻」
遅くなりました。
猫に起こされて?すっかり寝不足。お陰でどうにも回らない頭で
必死になって書き上げたものの、時間が掛かってしまいましたぁ
体育祭の終わったその日の夕食は、節子に誘われたということも有って、和香様や小和香様も共に頂くことになっていた。
今宵は七瀬も一緒にということなのだが、汗まみれでもあるし、一端家に帰ってシャワーを浴びて来ると言うのだった。しかし少し暗くなってきたということも有り、雨子様が同道して行った。
そうやって人数が増えたということも有って、皆の夕食を用意するために節子は大忙しだった。
それを何とか令子が手伝おうとするのだが、何にしても背が足りない。かと言って踏み台とかを使っていたのでは埒があかないので、残念ながら上手く手伝えていないのが実情だった。
手伝うだけの技量は持っているだけに、なんとも悔しくて仕方の無い令子なのだが、節子は優しく笑みを向けながら、そう遠からぬうちに背は伸びるわよと言って、未来に期待する旨を伝えるのだった。
だがそうは言っても手が足りないのは厳然たる事実で、見かねた祐二が手伝いに入ろうとして居たところ、(彼もそこそこそう言った手伝いを出来るようではある)その出鼻を小和香様に挫かれてしまった。
「祐二さん、ここは私が…」
そう言いながら小和香様は目顔で節子に許可を貰おうとする。
節子は一瞬良いのかしらと迷い掛けるが、小和香様の目の色を見てそっと頷くことにした。
そこで節子の隣にすっと入り込む小和香様。
勿論そうやって節子と共に料理をするのは、全く以て初めてのことでも有り、遠慮も含めて戸惑うことも屡々だった。
しかしあっと言う間に慣れて来ると、絶妙に節子とタイミングを合わせながら、楽しそうに働き始めるのだった。
「小和香さん、手慣れていますね?」
そう言いながら祐二が感心していると、和香様がにんまりと笑いながら言う。
「せやろ?最近急に自分も料理出来るように成りたい言うて、神社の板長とこに弟子入りして色々教えてもろうとるんやで」
それを聞いて祐二が驚いたように言う。
「板長って言ったらもう完全なプロじゃないですか?そんなところへまた何で?」
節子の横で楽しそうにくるくる動いている小和香様のことを見ながら和香様が言う。
「さてね、何でやろうね?」
そう言いながら和香様はちらりと祐二のことを見る。
二人の人間が働くにはぎりぎりの広さのキッチンの中を、笑みを浮かべながらひらりひらりと優雅に動き回っている小和香様。祐二はそんな小和香様のことを見ながら、しきりと感心しているのだった。
和香様はちらりと祐二を見ながら小さな声でぼそりと呟く。
「誰かに食べて欲しいから、料理する言うのも有るんやけどなぁ…」
言葉の最後の方だけなのだが、祐二には何か聞こえたらしい。
「え?和香様、何か仰いました?」
けれども和香様は頭を横に振りながら、
「ううん、何もあらへんよ?」
素知らぬ顔をしながら、そう答えて見せるのだった。
「ただいまぁ~~」
夕飯の準備もそこそこ進んで来たところに、一端自宅に寄ってきた七瀬と雨子様が帰宅してきた。
「お邪魔しまぁーす」
勝手知ったるところということで、七瀬も何の躊躇いも無く上がってくる。
「お帰りなさい」とキッチンから声が飛び、「お帰り」と言いながら祐二は自身で二人の前に顔を出した。
七瀬は嬉しそうにリビングに入ってきながら、奥のキッチンで忙しそうに動いている節子に言う。
「お世話になりますおばさま、おばさまの料理お宅で頂くの、少し久しぶりだから嬉しいです」
そういう七瀬に、ちょこっとだけキッチンから節子が顔を出す。
「あらそう?たんと食べていってね?後今日はもう泊まって行きなさい?」
節子のその言葉に雨子様がそれ見たことかと七瀬の脇腹を突っつく。
「どうじゃあゆみ、我の言うた通りでは無いか?」
「え?何々どう言うこと?」
二人の会話について行けない祐二が、思わず聞くと、笑いながら七瀬が説明する。
「雨子さんにね、自分の家でシャワー浴びてから行くって言ったら『不要じゃ、どうせ泊まりになるのじゃからそのつもりで支度せよ』って言われたのよ。迷惑をおかけするから駄目だよって言ったのだけれども、『絶対に節子に泊まれと言われるのじゃ』って言われて準備してきたら、正にその通りになってしまったって訳」
成る程と祐二が感心していると、七瀬の死角になっているところに座っていた和香様から声が掛かる。
「成る程、雨子ちゃんの洞察力にも磨きが掛かってきたわけやな?」
その声に思わず振り返った七瀬が、和香様に向かって言う。
「あ、和香様、今日は応援ありがとう御座いました。って、あれ?もしかしてキッチンに入っておばさまの手伝いしているのって、小和香さん?」
その声が聞こえたのか、小和香様がひょいとキッチンから顔を出して七瀬に手を振る。
その小和香の下からは令子もまた同様に手を振るのだった。
「あゆみさん、今日は格好良かったよ!」
そう言う令子に七瀬もまた言葉を返す。
「令子ちゃんも可愛かったわよ!よっ!日本一可愛い女の子!」
途端に令子は顔を真っ赤にしながら「もうあゆみさんのバカぁ~」と言うなり、キッチンへと引っ込んでいく。
普通なら大人が二人も居れば一杯で、三人目ともなると狭さを感じてしまうキッチンなのだが、三人目が令子と言うことで何とか上手く回って居る。
そんな令子のことを見送りながら雨子様が和香様に言う。
「何と小和香がキッチンに入って節子の手伝いをしているのじゃな?」
そう言う雨子様に少しばかり自慢げに言う和香様。
「むっふぅ~、そやで、小和香はな、今、板長に料理一杯習ろてるねん」
「なんとそれはまた!」
驚く雨子様にさらに追い打ちを掛けようとする和香様。
「うちもちびっとやけど、習ってるねんで」
嬉しそうにそう言う和香様に、雨子様が言う。
「もしや和香も誰ぞの嫁にでも成るのかや?」
「げふんげふんげふん」
いきなり咳き込みはじめる和香様。
それを見て思わず大きく目を見開く雨子様。
「冗談で言うたつもりなのじゃが、もしかして瓢箪から駒かや?」
「ごめん祐二君、もうええよ」
そう言うと咳き込む背中をそっと叩いてくれていた祐二に礼を言う和香様。
「あんな雨子ちゃん、自分うちの何処にそんな相手居るゆうてんねん?」
そう言う和香様にそっと祐二が尋ねる。
「一応神話の中では和香様は、夫を得て…いや違うな、男神として結婚して子を為されているとなっていたのでしたっけ?」
すると和香様、顔を真っ赤にして言う。
「ななな何言うてんの?うちは結婚したことなんかあらへんし、ましてや男神になったこともあらへんで?」
「え?そうなんですか?」
祐二は、言っても相手は神様のこと故、時にはどんなことでもあり得るのかなと思うし、また神話のことでもあるからと軽い気持ちで聞いたので有るが、当の和香様はなんだか妙に泡を食っている。
「うちは今まで結婚したことなんかあらへんし、第一男神になったことなんか絶対に無いんやで?な?雨子ちゃん」
何故だかそうやってむきになっている和香様に、苦笑しながら雨子様が答える。
「まあそうじゃのう…、見知って居る限りでは男になったところは見たことは無いの。じゃが見て居らぬ時は知らんのじゃ」
そうあっさりと言ってのける雨子様に、縋るようにしながら和香様が言う。
「雨子ちゃん?何でそないに見放したような言い方するん?」
「いやそうは言うても、我とて其方と常に一緒に居ったわけでは無いからの?」
そう言う雨子様になおも必死になって言い縋ろうとする和香様。
だがそんな和香様に救いの手は思わぬところからやって来た。
「ご心配なく、和香様はいつも女神様でらっしゃいましたから…」
そう言うのは、ここは和香様のピンチを救わねばと、キッチンから顔を出した小和香様なのだった。
しかし雨子様は、そうやって強弁する二柱の女神に言う。
「だがの、何故にそなたら、そうも女神で有ることに拘るのじゃ?」
すると和香様と小和香様は、互いに顔を見合わせたかと思うと、にっこり笑みを浮かべながら言う。
「「それはねー」なー」」
妙には盛り上がりながらハモりつつ言っている。
「「な・い・しょ」」
「何じゃそれは、余計に訳が分からんのじゃ!」
呆れながらそう言っている雨子様のことを見ていた七瀬は、ちらりと祐二のことを見るなり小さく溜息をついていた。
そして誰にも聞こえないような声で独り言を言うのだった。
「だめだこりゃ…」
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