「七瀨と雨子様二」
遅くなりました
人の心も、神様の心も、そんなに簡単にはいかない・・・のだろうなあ
「本当にこの子が神様なのかしら?そこいらの当たり前の女の子と変わらないじゃない?」
七瀨が苦笑しながらそう言うと、雨子様は余人に見せることの無い様な顔をしながら言うのだった。
「そうは言うがの…」
そうやって慰めてくれる七瀨のことを、雨子様もまた同様に大切に思うが故、様々な思いが溢れてしまうのだった。
そんな雨子様の耳元で、囁く様に言葉を告げる。
「あのね雨子ちゃん、今になってのことなんだけれども、私はこれはこれで良かったなって思って居るのよ」
「それは?」
七瀨の言葉の意味が分からない雨子様。
すると七瀨は抱きしめていた身体を解き放ち、近場にある階段を指して言う。
「とにかく座ろっか?」
「うむ」
二人して、肩を寄せ合うかの様に並んで座る。
「私ね、祐二君のことを諦めてから気がついたことがあるの」
「気がついたこととな?」
「うん、そうなの」
少し長くなりそうなことを予感した雨子様は、七瀨の言葉にしっかりと耳を傾けようと思うのだった。
「私ね、あの後、自分自身が如何に祐二君に対して、べったりと頼り切っていたかって言うことに気がついたの」
「それはまずいことなのかや?」
不思議そうな顔をしてそう聞く雨子様。
「昔なら分からなかったのだけれども、今なら、そうだって言えるわね」
「それはまた何故に?」
そう問う雨子様に、七瀨は少し遠いところを見つめるかの様にしながら言う。
「私、ちっちゃい子供の頃は物凄い人見知りで、人付き合いがまったく上手く出来ない様な子だったの。そんな私のことをとある公園で、節子さんと祐二君が遊ぼって言ってくれたことから、段々と変わっていけたのだけれど…」
そう言う七瀨のことを見つめながら、雨子様は不思議そうな顔をする。
「今の社交的なあゆみのことを見ていると、まったく信じられないことじゃな?」
雨子様のそんな言葉に、七瀨は顔をくしゃりとさせながら笑みを浮かべる。
「ほんとよね?でも実際そんなだったの。私は祐二に、自己を肯定する為の柱みたいなものを、作って貰えた?みたいな感じ?」
「そうなのかえ?」
そう言って七瀨のことを見つめる雨子様の目は、限りなく優しかった。
「うん、祐二が私の初めての友達になってくれて、そこから少しずつ世界が広がっていって、それからずっと祐二が私の世界の中心だったのかも知れない…」
少しの間じっと遠くを見つめる様にしている七瀨のことを、雨子様は黙ったまま静かに見て居る。
「だからここだけの話、私は何時か祐二と一緒になるのが当たり前、みたいに思って居たのかも知れない。だから、祐二と雨子ちゃんが好き合っているのを知った時に、いきなり足下を掬われたというか、自分の中に大きな虚ろが出来た様な、そんな気がしたの」
そう説明する七瀨のことを雨子様は心配そうな目で見つめ、唇を無意識の内に噛む。
「でもね、子供の頃の私と違って、今の私はそれ位では負けないわよ?」
そう言うと七瀨は、優しく両の手で雨子様の顔を挟むと、むにゅっと歪める。
「駄目だよほら、血が出ちゃうわよ?そんなに噛んだら…」
「うむ」
雨子様は七瀨に為されるがままに成りながら静かに頷く。
「それでね、思ったのよ。そう言う形で人に頼って居ちゃあいけないなって。考えてみたら凄い歪なんだもの。健全じゃ無い?」
そう言う七瀨のことを見ながら雨子様が少し不安そうに言う。
「で有るとしたら、かく言う我こそ今、不健全なのじゃろうか?」
そんなことを言う雨子様に七瀨はぷっと吹き出してしまう。
「馬鹿ね、何言っているのよ?私は祐二を基準に世界を作っちゃったけど、雨子ちゃんは違うじゃない?」
「そうなのかえ?」
未だ少し不安そうな雨子様の肩を、ぎゅうっと抱くと七瀨が言う。
「うん、間違い無いよ。それでね、私思ったの。今の自分て実のところ人に頼りっぱなしなんだなってこと。そして恩を受けてばかり居ることに気がついたの。今まで全然そう言う目で自分を見たことが無かったから、ちょっとびっくりだったわ」
そこまで言うと七瀨は少しの間黙りこくり、その後、静かな口調で言うのだった。
「でね、その恩をどうやって返そうかって考えていたら、恩を受けているのは祐二だけじゃないのよね、何より母さん、それに祐二のお母さんの節子さん」
「むう、確かにそうかも知れぬの」
「でも多分なんだけれども、この人達って皆、恩をどうのこうのって言っても、絶対に受け取らない人たち揃いじゃない?」
そう言う七瀨に雨子様はうんうんと頷きながらにこにこして居る、そして彼女自身もそのことを間違い無いと思うのだった。
「ならいっそ、その人達に直接返さなくても、他の誰かに返していくのも有りかなって、そんなことを思ったのよね?」
七瀨の言葉を聞いた雨子様は、急に真剣な眼差しに成りながら言う。
「あゆみ、其方それを自分一人で考えついたのかや?」
雨子様の言葉にきょとんとしながら七瀨は言う。
「え?そうだけど?」
すると雨子様は七瀨の頭にそっと手を伸ばし、思いっきりぐりぐりと撫で回しながら言う。
「偉い!本当に偉いのじゃ!世に賢人を称するものは多かれど、なかなかにその境地に至たるものは居らぬのじゃ。美事じゃの」
思わぬことで雨子様に褒められた七瀨は、苦笑しながらも顔を赤くする。
「何よそれ?誰でも出来ることじゃない?」
だが雨子様は、七瀨の言葉を否定する様に頭を横に振る、そして尚も頭を撫でようとするのだった。
照れ臭くなった七瀨はなんとか逃げようとするが、残念ながら上手く抑えられて逃げられなかった。
「撫でるぐらいさせるのじゃ」
「分かった、分かった、もう分かったからそれ位にして…」
そう言われて渋々撫でるのを止めた雨子様。
「それでね、まず母さんの負担を軽くしたいなって思ったのよ。それから色々考えた末に、私、看護師になろうかなって思ったの」
「看護師とな?」
七瀨の真意を見抜こうとするかの様に、じっとその目を見つめる雨子様。
「うん、そう。そうすれば少しでも早く母さんを楽にして上げられるし、自分がこれまで受けてきた恩とか、そう言ったものも、誰かにお返し出来るのじゃないかなって思ったの」
それを聞いた雨子様は、ほぅっと静かに息を吐いた。
「我は斯様に殊勝な娘に、如何にして恩を返せば良いと言うのかのう…」
七瀨はそう言う雨子様の目を真っ正面から覗き込むと言う。
「何言っているの?馬鹿ね。雨子ちゃん達は二人で幸せになればそれが一番良いの、私にはそれが、それが一番嬉しいんだからね?私は、私の…」
そこまで言うと七瀨は急に目に涙を一杯溜めた。
「私の親友二人が幸せになるのが…一番嬉しいんだからね?」
少しばかり言葉に詰まりながらも何とかそう言い切ると、どっと涙を溢れさせた七瀨。
雨子様もまた同じように涙を零す。そして二人は互いにしっかりと抱き合い、それぞれの涙が引いたのを知るまで、柔らかな時を過ごすのだった。
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