「お説教」
お待たせしました
こう言う体育祭なら、私も見に行きたいなあ
「はぁーい、皆さん、ではゆっくりで良いので並んで下さい。並び終わったら出場しまぁーす」
何だか間延びした感じのする女性教師の説明に従い、生徒達はきびきびと、保護者の面々は、それに引きずられる様にしてもっさりと列を整える。
「はい、では出発しまぁーす」
その教師の先導に従ってグラウンド中央へ進んでいく生徒と保護者達。
そんな人々の中に混じって、嬉しさが抑えきれない様子なのが和香様と小和香様。
なんとも浮ついた様子の二柱を、自席に戻った雨子様が眺めていたのだが、予感でもするのだろうか?不安で仕方が無いと言った表情を隠せない。
「あやつら二人も揃って出おって、大丈夫なのかや?」
すると隣でその言葉を小耳に挟んだ七瀨が聞いてくる。
「何々?雨子ちゃんの知り合いが出ているの?」
そう問うて来る七瀨に、雨子様は苦笑しながら二柱のことを指差す。
「ほうれ見てみるが良い、あやつらのことじゃ」
その指先を追いかけて、二柱のことを見つけた七瀨は笑いながら言う。
「さっき私が競技に出ていた時に、凄い応援してくれていたのだけれども、まさか自身でも出てこられるとは…」
予想外の出来事に、何となくでは有るが雨子様の不安も分かる様な気がする七瀨。
「確かにー。どう考えても不安だよねえ?」
そう言う七瀨に大きく頷きながら雨子様は言う。
「で有ろう?彼奴等がちゃんと手加減をして競技に挑めば良いのじゃが…」
因みに今回の神様ズが挑戦する競技は、玉入れ競技だった。
多くの者が入り交じって玉を投げ入れるという競技なので、二柱だけが悪目立ちするという可能性は少ないのだが、果たしてどうなることやら。
「せめてもの救いは、祐二が一緒の競技に出て居ることなのじゃが…」
呟く様にそう言う雨子様、これはちょっと目が離せ無いなと思う七瀨なのだった。
さてそんな雨子様達の心配を知ってか知らずか、和香様達は教師による競技の説明を張り切って聞いて居た。
「成る程、あそこに有る籠に、周りに落ちてる玉を投げ入れたらええんやな?」
極限まで体力を使うで無し、これなら苦労して能力を抑えずとも気楽に楽しめるのではないか?そんなことを考えていた和香様と小和香様達なのだった。
出場人員は各クラス保護者六名に対して、サポート役の生徒三名の合計九名がワンセットとなっている。そして各学年六クラス合計十八クラスが、赤二柱、白二柱で立っている柱の上に有る籠へ、それぞれの色の玉を投げ入れるのだが、ことはさほど簡単では無い。
何故なら借り物競走でも見られる様に、ただ得点を争うのではつまらないという発想に基づいて居るらしく、籠の位置が通常の三倍と異常に高いのだった。
それぞれ数人の生徒達の手に寄って、長々と横たえられていた柱が、ぐいっと立てられた途端、籠の思わぬ高さに、保護者席からは
「おおおっ!」と言う声が上がる。
初めてそれを目にした和香様達も同様で、
「あ、あれに入れるんか?」
と目を丸くしている。
だが言ってもそれは神様のこと、ならば入れて見せようと、妙に敵愾心を燃やすのだった。
そんな皆の盛り上がりを余所に、審判役の教師が穏やかに手を上げる。
「それでは用意、ピィ~~~!」
ホイッスルの音が鳴り響くと、皆一斉に自分達の色の所に駆けていく。赤白各色二つずつ籠が有るので、皆それぞれ空いてそうな方に走っていく。因みに祐二達四組は紅組での出場となっている。
「うぉりゃ~~!行くで小和香~~!」
そう言いながら先頭を切って駆けていく和香様を見ながら、つくづくパンツルックにスニーカーという出で立ちで来た幸運を思う小和香様なのだった。
「和香様ぁ~~」
そう言いながら必死になって和香様のことを追う小和香様、そして更にその後を追う祐二。身内からの出場と言うことで彼がサポートに付くことが出来たのは、もしかして幸いなことだったかも知れない。
物凄い勢いで駆けていく和香様達のことを追いかけながら、祐二は密かにそんなことを思うのだった。
そうやって先陣を切って、赤い玉が転がっているところまで来た和香様達は、早速に幾つも抱えて籠に向かって放り投げ始める。
「む?入らへんやて?そないな阿呆な?」
さすがに通常の三倍の高さに有る籠だけ有って、当たり前に真っ直ぐ狙って入らないところが、この玉入れの難しいところだった。
そして自分だけかと思って首を傾げていると、小和香様も同様で、どうしたものかと悩んでいる。
そこで和香様は一計を案じて小和香様に言う。
「小和香、こっから見て丁度反対っ側に行き!」
「?どうするのですか和香様?」
そう問う小和香様に、にっと歯を見せて笑う和香様。
「互いの玉を籠の上でぶつけ合って、それで中に落とすんや。早う行き」
傍らで和香様達に集めてきた玉を渡す役になっている祐二は、思わず自分の耳を疑った。一旦全体そんなことが出来る物なのだろうか?
ところがさほど時間が経たない内に、その結果を目にすることになるのだった。
軽く互いに目配せをするだけで、難なくタイミングを取り合った二柱は、同時に玉をひょいっと投げ、見事に籠の中へと落とし込んでいるのだった。
なかなか玉が入らないことを売り物にしているにも係わらず、あっと言う間に中に玉が溜まっていくのだが、いくら何でもこれはまずいと思った祐二、慌てて和香様の所に駆けつける。
「駄目ですって、和香様。それは余りにも人間離れしすぎていますって!」
周りには聞こえていないとは思うのだが、出来るだけ声を潜めてそう和香様に話しかける祐二。
それを聞いた和香様、折角上手く行っているのにとは思いつつも、祐二の言うことも確かに尤もだと思ったのか、直ぐに言うことを聞いて、通常の投げ入れ方に変更するのだった。
「しゃあないなあ、此処の玉全部入れたろかと思うとったのに、あかんようになってしまうたなあ」
さて相方を務めていた小和香様、この場合さすがと言うべきなのだろうか?和香様の投げ方の変化を見ると直ぐに自分も修正するのだった。
そして玉を投げつつ和香様の傍らまで戻ってくると、苦笑しながら祐二に言う。
「ごめんなさい祐二さん、いくら何でもあれはまずかったですよね?」
そう言う小和香様に玉をいくつか手渡しながら祐二は苦笑する。
「はい、さすがにあれは少しまずいかと…」
そう言う祐二の言葉に、小和香様は申し訳なさそうに笑うのだった。
だがそう言う特異な手段を除いたとしても、それでも矢張り神様は神様と言うべきか?
ほとんど真下から投げ上げるという、実にやりにくい方法であるにも係わらず、慣れてくるとどかどかと玉が入っていく様になる。
「うわ、あそこ何だか凄くない?」
「まじまじ、ほとんど変態の領域だよぉ」
「うわ、また入った」
ホイッスルの音と共に競技終了後、皆で声を揃えて、入っている玉の数を数えるのだが、通常なら見た目では余り差もなく、数えて初めて勝敗が分かるところ、今回だけは圧倒的大差で紅組が勝つことになったのだった。
その立役者と言うことで、生徒達からの歓声を浴びながら、意気揚々と席まで戻っていく和香様達。
だが…。席に戻るや否や、急ぎやって来た雨子様に引き連れられて、人目のないところに連れて行かれ、しっかりと正座させられてしまうことに。
「其方らは一体何をやって居るのじゃ?少しばかり頑張るのならともかく、なんじゃあの大人げの無い勝ち様は?」
祐二達の体育祭をぶちこわしにするのかと大変お冠で、珍しく本気で怒る雨子様なのだった。
お陰で主犯たる和香様は、言い訳も出来ずに冷や汗だらだらなのだったが、幸いなことに、もしやと様子を見に来てくれた節子によって救われる。
「雨子ちゃんそれ位にして上げて…」
「しかしじゃのう…」
尚も怒ろうとする雨子様のことを宥めながら言葉を継ぐ節子。
「和香様達も悪さをしようと思った訳では無いのだし、何より雨子ちゃん達を勝たせたいと思ってくれてのことなんだから、その辺で…」
さすがに節子にそこまで言われると、怒りの熱量を維持することが出来なくなった雨子様、未だ勝利の礼を述べていなかったことも有り、少し渋々感は有ったものの、二人に感謝の念を示すのだった。
「むぅ、ともあれよう勝ってくれたのじゃ、それについては感謝じゃ、ありがとうなのじゃ」
そうやって無事雨子様の怒りが収まったのと、お礼を言われたことで思いっきりほっとしてしまった和香様達は、思わず半泣きに成りながら節子にしがみつく。
「節子さ~~~ん、自分本当に救いの女神様やぁ~~」
そう言う和香様に対して節子が苦笑しながら言う。
「あらあら、女神様とは和香様達のことじゃ無いですか?」
それを聞いた和香様、一瞬だけ真面目な顔をした後
「確かにそうやったなあ」
そう言うとぺろりと舌を出し、その後腹を抱えて笑い出すのだった。
その楽しそうな笑いに釣られて小和香様や節子、果てにはつい先程までぷんぷんと怒っていた雨子様まで、実に楽しげに笑い声を上げるのだった。
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