「体育祭三」
遅成りましたぁ~~~
さて応援合戦が終わると、祐二達男子が登場する男子版棒引きとなる。
ただ女子の時と異なるのは全学年の男子では無く、二年男子だけという縛りになっていることだった。
それだけでは無い。女子の棒引きに使われたのは程良い太さの竹の棒で、女の子一人の手でも運べる様な軽いものなのだったが、男子達の棒引きに使われるのは、ちょっとした丸太ん棒の様なごつい物なのだった。
結構な重さがあるのだが、男子一人の力で運べないことは無い。しかしだからと言って個人の速さだけでかっさらう、という様なことは絶対に無理な重さなのだった。
加えてルール面でも異なった部分があるのだ。それは一端自陣に棒を完全に引き入れたチームは、他のチームの応援に駆けつけられるというものなのだった。
そのことにより競技は一層複雑化し、見応えの有るものに変化するのだった。
「位置について」
審判役の先生の声が響き渡る。
左右に分かれているチームの中央に、九本のごつい棒が安置されている。そして会場が一瞬静まりかえる。競技に出る選手達が皆、今にも走りださんと構えを取っている。
出場している男子達は皆上半身裸で、気合いを入れる為に頭にきりりと鉢巻きを締めている。それらが相まって何とも言えない独特の雰囲気だった。
「用意…、ピィ~~!」
ホイッスルが響き渡ると同時に、選手達が怒濤の如く棒に向かって走り始める。
女子達の競技を見て効果があると思ったのか、男子達も皆、両チーム揃って腹の底から轟く様な声を響かせながら突進していく。
「「「「うぉ~~~~~!!」」」」
「こ、これは…」
保護者席でこの有様を見ていた和香様、久方ぶりにみた人間の本気の突撃を見て、思わずそう声を漏らしていた。
「私は少し怖い…」
そう言いながら顔を強ばらせているのは令子。でもそう言いながらも目が離せない。
この競技には祐二が出ているのだ。だから少々怖いとは感じても何としても見なくてはと思うのだった。
しかしこれだけ多くの人間が混戦状態になっていると、その祐二がどこに居るのか見つけ出すこと自体が難しい。皆一心不乱になって見ていたところ、小和香様が声を上げた。
「ほらあそこ!」
指差した先に祐二がいて、歯を食い縛りながら死力を尽くしつつ、仲間達と共に棒を引っ張っている姿が見える。
勿論味方も必死なら敵も必死。引いては引かれ返しを何度も繰り返しながら、じわじわと自陣に向かっていく祐二達のチーム。
そんな必死な姿を目にしているクラスの女子達は、皆あらん限りの声を張り上げて応援している。
「うぉら樫村、踏ん張れや~~」
「三郷君頑張れ~~!」
「頑張るのじゃ~~」
「きゃぁ~~~頑張ってぇ~」
中には、え?女の子?と言う様な応援も混じっている様だが、間違い無く女の子達の応援だった。
そんな女の子達の応援に混じって、雨子様が本当に楽しそうに騒いでいるのを見ていた和香様、物凄く羨ましそうな表情を一瞬見せる。
ふと隣を見ると小和香様も同じような顔をしているのだった。
「なあ小和香、もしかして自分も参加してみとうなっとるん?」
そう聞くと、小和香様は少し困った様な顔をしながら恥ずかしそうに言う。
「そうですね、私の様な立場のものが、その様なことを言ってはいけないのかも知れませんが、雨子様のあのように楽しそうなお姿を見ていると、ついつい私もって思ってしまいますね…」
すると和香様、妙に納得した様な表情をしながら言う。
「そうかぁ、うちだけやなかったんやなぁ」
するとそんな神様方二柱に対して節子が言う。
「あら、それなら和香様も小和香さんも、次の次の競技なんだけれども、出場してこられたら如何?」
和香様はそんなことを言ってくれる節子に、嬉しそうにしながらも反論する。
「そうは言うても節子さん、うちらこの学校の生徒ちゃうし、なんぼなんでも今から化けて入るわけにもいかへんのと違う?」
そんな和香様ににっこりと笑みを浮かべた節子が言う。
「先程お奨めした競技なんですけれども、彼らに交じって保護者も出場出来るものなんですよ?一応保護者とはうたっていますが、誰でも出場可能なはずですから、お出になってこられたら如何ですか?」
驚いた表情で顔を見合わせる和香様と小和香様。
「なあ節子さん。それってほんまにうちらでも出てええって言うことなん?」
「はい、そうですよ」
再度確認した和香様は満面の笑みを浮かべながら言う。
「小和香、出るか?」
少し不安そうな表情をした小和香様が問い返す。
「わ、私が出てもよろしいのでしょうか?」
「今、節子さんがそう言うてくれたとこやんか」
そう言う和香様に、小和香様は目をきらきらさせながら、上ずった声で言う。
「で、でしたら私も出たいです。出たいです出たいです出たいです!」
夢中になってそう言う小和香様に、可笑しそうに笑いかけながら和香様が言う。
「そないに何遍も言わんでもええて。そしたら小和香、うちと一緒に出ようか?」
「はい!」
跳び上がって小躍りしている小和香様のことを、実に暖かな目で見守っている和香様。
そしてそんな自身のことを、優しい目をしてじっと見つめている節子のことを見つけてしまう。
「いややなあ節子さん、もう…照れるやんか…」
けれども和香様のその台詞には何も答えること無く。節子はただただ二柱の喜び様を、我がことの様に嬉しく思い続けるのだった。
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