「応援合戦」
遅くなりました、今日は少し短いです(^^ゞ
皆がお昼を食べ終え、暫しの間寛いだ時を過ごして居るところへ、昼食時間の終了を告げると共に、次の応援合戦の準備に入るよう放送が流れた。
この応援合戦と言うのは、それぞれの学年の、1~3クラス、4~6クラスに分かれて各グループで工夫した応援を行う。生徒会、教師一同、保護者会の三者による採点で、どれだけ熱く応援したか?どれだけ美しく応援を見せたか?その二点に於いて毎回独断と偏見に満ちた採点をするのが、本校の名物となっているのだった。
その応援の基本となるのは、男子が学ランを身に纏って野太い声を上げての応援団風、女子達はチアリーディングを模して歓声を上げるというのが大体の流れだった。
だから皆似通っているところがあって、甲乙付けるのがなかなかに難しいところがあるのだが、そこはそれぞれ歌を作ったり、独特の振り付けをしたり、はたまた組み体操の様なことをして、差別化を図って居るのだった。
さてそんな中、雨子様達の属するグループの応援回となった。
すると驚いたことにこのグループでは、男子も女子も全員学ランを着、物々しいまでの雰囲気を醸し出している。
男子だけで無く、女子も合わせて全員で腹の底から声を出す、それは確かに他に無い迫力を作り出す。
成る程これは熱さを感じさせる、そう言う意味では高得点だろう。だが美しさと言う点ではどうなのだろう?
もしかするとこのグループは、それを捨ててまでも、熱の籠もった応援ということに徹するつもりなのだろうか?
皆がそうやって訝しみ始めた頃、グループの中央がいきなり二つに分かれ、その間の花道の様な部分を、一人の女子が颯爽と歩み出てくるのだった。
絹の如く滑らかな漆黒の髪に、きりりと真白き鉢巻きを締め、緋袴白装束に純白の足袋を履いた雨子様が、手に八尺に及ぶ薙刀を持ち、滑る様な足取りで素早く皆の前に現れ出でるのだった。
前に向かって息を飲む様に美しい礼を行い、その後静かに中段の構えを撮る。
そこから先は応援団のかけ声と共に試舞を開始するのだった。
「う~~~~~~、やぁ!たぁっ!」
そう言った団のかけ声と共に、雨子様の薙刀が宙を切り、払い、打ち、そして突如として静止したかと思うと、激しく連続した攻めの動きを行う。
いつの間にかしんと静まりかえっている中、辺りには応援団のかけ声と共に、その手によって振るわれる薙刀の、正に空気を切り裂く音のみが聞こえてくる。
凄まじくも力が籠もっている様でありながら、ふわりふわりとまるで風の様に舞い、時に花を散らしたかの様な雅な動きを取り入れる。
息を飲むとは正にこのことを言うのだろう。真剣にその試舞を見つめ続け、時の経つのを忘れていたかと思うと、雨子様の動きがすっと収束し、最後の一礼を持って応援の終了を告げる。
今までその演技を見守っていた者達が、思い出したかの様に大きく息をつき、響めき、そして我を忘れたかの様に拍手を送り始めるのだった。
さて採点なのだが、前代未聞、完全無欠の満点をたたき出すことになるのだった。
「うわぁ~~、これは後のグループはやりにくいやろうなあ」
とは和香様。
「雨子様の演技、あれは正に真剣そのものでしたね?」
とは小和香様。
その言葉を受けて和香様が苦笑する。
「ほんまやなあ、あれはまじもんで真剣やったもんなぁ。しかしここであそこまでやってしまうって、些か大人げ無いんと違う?」
そう言う和香様に節子が別の意見を言う。
「和香様、あれはあれでよろしいのだと思いますよ?」
おや?っという様な顔をした和香様がその意味を聞く。
「はて?節子さんはなんでそう思いはるん?」
「それはですね」
そう言うと節子は、彼らに向かって拍手を送り続ける者達を指差した。
「雨子ちゃんのあの真剣さこそが、ここに居る皆にとって必要なものであり、無くてはならないものなのだからです」
そう説明されても、今一つその意味を理解することの出来ない和香様は、首を傾げてしまう。
そこで節子は言葉を変えて説明するのだった。
「雨子ちゃんのあの演技、素人の私が見ても、なんとも凄まじいものだって言うことが伝わってきます。雨子ちゃんはそれだけのものを持った、おそらく達人と言える存在なのでしょうね。そういう人が目の前でその本気を見せてくれる、そのこと自体が大事だと思うのよ。なんて言うか私なんかもう、それだけで感動しちゃったわ」
そう言う節子の言葉に、そんなものなのかと、未だ良く分からない感じの言葉を返す和香様なのだった。おそらくは、和香様自身も何かの形で達人で有るからこそ、全くの素人である節子や令子の様な者達の気持ちが、逆に分からないのでは無いかと思われた。
雨子様達のグループがしずしずと後ろに下がり、余韻が静かに途切れていくと、次のグループの応援演技が始まる。
それを見ていた令子が言う。
「あ~~、なんだかほっとするね?」
確かにその通りなのだが、演技している者は皆揃って真剣そのもので頑張っているだけに、少し可哀想な気がしないでも無い、そう思ってしまう節子なのだった。
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