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天露の神  作者: ライトさん
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付き添い

アップロードミスしました。

ぎりぎりまで書いていて、ぼおっとした頭で作業、ろくな事になりません

読んで下さった方には申し訳ありませんでした

 葉子ねえがやって来た翌日、誠司兄さんは後ろ髪を引かれるように帰って行った。

葉子ねえ曰く、自分のことより誠司兄さんのことの方が余程心配だとのこと。あまり家事能力が高くない人らしく、一月以上の間ちゃんとしていけるのかとても心配なんだそうだ。


 確かに考えたら、葉子ねえの方には神様も付いていることだし、家族の皆も居る。成る程葉子ねえの心配も意味がある物だった。


 だが当面誠司兄さんには、自分で出来ることの範囲内で頑張って貰わなくては成らない。週一くらいであちらのお母さんに来て貰おうかなとか言っていたけれども、それで良いのだろうか?


 ともあれ良い大人のことである、何とかなるだろうし、何とかして貰わなくては成らないだろう。


 さて、そんな誠司兄さんのことはさておき、こちらで出産することを決めた葉子ねえは一度病院の方に顔出しして診察して貰わなくては成らない。


 その病院は僕や葉子ねえも生まれた昔からの病院で、産科病院としては結構名高いところだった。


 ちょうど土曜に予約が取れていたので、父が車を出して連れて行くことになる。

その段取りで色々話していたら、何を思ってか雨子様も付いていくという。


「え?ちょっと待って雨子様?本当に一緒について行くの?」


「うむ、葉子にはちゃんと付き添っておきたいのじゃ」


 雨子様が葉子ねえのことを大切にしてくれるのはありがたいのだけれども、漏れなくセットになるのは僕である。

なんと言うか、高校生の僕としては産科病院は、かなうなら遠慮したいのだけれども…。


 そうは思いはしたのだけれども、残念ながらその願いはあっさりと雨子様に却下されてしまった。


「うぇ~~~」


とは僕。葉子ねえは申し訳なさそうにしているのだが、母さんは違った。


「後学の為に見てきたら?」


「後学って?後学なの?ええええっ?」


 残念ながら雨子様、更には母さんの決定とあってはまず逆らうことは適わなかった。

僕としては何ともすごい抵抗があったのだけれども、仕方なしに、もう一度言う、仕方なしに付いていくこととした。


 葉子ねえが母とともに支度をしている内に、僕と雨子様も出かける準備をする。

父さんはとっくの昔に車庫に行って車内を快適にしている。



 母さんはと言うと雨子様が付いていくのならと家で留守番をするらしい。


「祐二よ、考えてみれば我はこの車とやら言う乗り物に乗るのは初めてのことじゃ」


 僕が車の後部ドアを開けて上げると、小さな子供のように喜び勇んで乗り込んでいく。因みに今日は乗り降りのしやすさを考えて、後部座席の運転席側ではない方に葉子ねえを乗せる。従って僕は前の助手席となる。


 雨子様は後から乗り込んできた葉子ねえと意気投合、ワイワイとなんだかんだ楽しそうに話をしている。

僕はそんな後ろの席の安全を確認すると、自分のシートベルトを締めた。


「じゃあ、出るぞ?」


 そう言うと父さんは穏やかにアクセルを踏み込んだ。元々慎重な運転をする方だったのだが、今日はそれに輪を掛けた感じで車を駆っている。


 言ってもそんなに遠い場所では無く、実際走り出してみれば瞬く間に付いてしまう距離だったから、雨子様はすっかり不満顔だった。


 もちろん今日はドライブという訳では無かったので、何も文句は言わなかったのだけれども、あまりに気の毒そうだったので父さんがまたいつかドライブに出かけましょう、などと言って慰めていた。


 父さんはそのまま車を降りること無く家に帰るとのこと。診察後、精算を終えるまでの間にどうせ時間が掛かるだろうから、その時に電話を貰えばすぐに迎えに来るとのこと。


 その走り去っていく姿を恨めしげに見送りつつ、僕と雨子様は葉子ねえを庇うようにして病院へと向かった。


 院内に入ると予約制と言うこともあって、そんなに多くの人は居なかった。

それでも十数人は居たのだけれども、付き添いが居る人も居たので診察を受ける人はそれほど多くは無いのだろう。


 葉子ねえは早速受け付けで診察を受ける手続きを始める。

その間きょろきょろと周りを見渡す僕と雨子様。待合室には幸い十分な数の椅子が配置されている。

もし無いようなら入り口近くに立って本でも読もうかと思っていたのだが、どうやらそうせずに済みそうだ。


 葉子ねえが受付をしている間、僕と雨子様は並んで椅子に腰掛けた。


「うっ…」


 なんとは無しに視線が痛い。おそらく、きっと、僕と雨子様がそう言う関係だとでも思われているのに違いない。

だから来るのが厭だったんだ。


 だが雨子様はそんなこと全く気にもせずに待合室の中を見渡している。


「のう、祐二よ、どうしてここに居る者たちは皆我らのことを見て居るのじゃ?それも些か憚るように?」


 お願いだから雨子様小さな声で言って下さい。


「それはね雨子様、僕達が未だここに来るには少しばかり若すぎると言うことと、二人で一緒に居ると言うことで、その…僕と雨子様が、その…」


僅かに小首を傾げていた雨子様の顔に理解の色が走った。


「成る程そうか、我らが番うて居るのではと思って居るのじゃな?」


「雨子様、シーシー…」


 全く雨子様は遠慮会釈無く言葉を口にする。

雨子様は苦笑しながら僕を慰めてくれた。


「すまぬの祐二、我が我が儘をゆうたばかりに。じゃがこう言う時は堂々として居れ。番うも妊むも人として当たり前のことじゃ。なんの恥ずかしがることが有ろう」


 うん、知ってた。雨子様にとってこういうことは自然の一部でしか無いのだろう。

でも僕の心のSAN値は限りなくゼロへと近づいていた。


 そこへ受付を終えた葉子ねえが戻ってきた。


「お待たせって、祐二どうしたのその顔色?」


「どうしたもこうしたも…」


僕はそれまで有ったことを話して聞かせた。 


「ぷっ…」


葉子ねえは笑うまいとはしたものの、一瞬にして決壊。かといってあまり笑いすぎるとお腹が苦しいとかで、何とも不思議な感じで笑ってる。


「成る程そうかぁ、確かに祐二にとったら針のむしろかも知れないわね」


 そう言うとさすが葉子ねえである、それまで葉子ねえ、雨子様、僕の順で座っていたのを並び替えて、僕と雨子様の間に座るようにしてくれた。


 確かにこうすれば僕達がただの付き添いに過ぎないと、言葉で説明するよりわかりやすいだろう。お陰で好奇の目が無くなり、僕は心底ほっとした。


「ところで、前の人が少しずつ長引いているとかで、何でも小一時間くらいは待たなくては成らないようなのだけれど、大丈夫?」


葉子ねえがそう聞く。


 僕はもとよりその可能性も考えて単行本を忍ばせてきたから問題ない。雨子様はと言うと聞くまでも無かった。葉子ねえと小声でなんだかんだと楽しそうにお喋りをしている。


「雨子様ってなかなかに適応力高いよなあ」


 僕はそんな言葉を呟きながら、そっと本のページを開いた。

中の文章を読み進めるにつれ没頭し、やがて周りから隔絶世界に入って行く、僕だけの時間がそこに流れていくのだった。



昨今暗いことが続く世の中ですが、そんな中でも子供が笑っていると、何だか無条件に励まされる思いがします

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