「お婆ちゃんになった和香様」
大変遅くなりました
家庭内の仕事を片付けていたら遅くなり、疲れて頭がボケて更に遅くなる始末
申し訳なかったです
美味しい茶菓子を頂きながら、小和香様の入れてくれた香り高いお茶を飲んでほっとして居たのも束の間、早速に目の前に突き出された鏡を見て、うんざりとした顔をする雨子様。
「もう働けと?」
和香様に向かってそう聞く雨子様、なんとも渋い顔である。
そんな雨子様に対して拝む様に手を合わせる和香様。
「ほっんま申し訳ないと思てんねん。そやけどこればっかりは、雨子ちゃんが学校行ってへん時に頼まへんかったら無理やろ?」
和香様にそう言われた雨子様は、言い返しようも無く、ぐっと詰まってしまう。
人の身を得ているとは言っても、雨子様は神なのである。だから神としての責任は一番に同じ神々に対して果たされるべきものなのだった。
そこを和香様に便宜を図って貰いながら、人として当たり前の生活をさせて貰っている以上、多少問題のある様な物であったとしても、その願いとあらば聞かない訳には行かないのだった。
「で、どうすれば良いのじゃ?」
不承不承感は有るが、協力するしか無いと諦める雨子様。
「いや、そやからその鏡に可能な限り精を詰め込んでくれたらええんよ」
和香様のその言葉に雨子様は、少し納得が行かないと言った顔をしながら聞く。
「じゃが、それじゃと多くの者達に、どうやって精を分け与えるのじゃ?」
「それなんやけどな…」
そう言って説明をし始める和香様は、何処かとても自慢げだった。
「ここでニーの登場やねん」
「ニーの?」
今一得心のいかない雨子様、それを見ている和香様はますます嬉しそうに反っくり返っている。
お陰で後ろに倒れそうになったところを、危うく小和香様に支えて貰って事無きを得る。
「何をやって居るのじゃ、和香は…」
呆れた様な顔をしつつも笑いを禁じ得ない雨子様。
「それでどうしてニーの登場なのかや?」
改めて雨子様が問うと、今度は真面目な顔をして答える和香様。
「少し前にニーを使って、あくまで一般的なレベルやねんけど、お守りやお守り札を作るシステムを拵えたやんか?」
それを聞いた雨子様は、当時のことを思い起こしながら頷く。
「うむ、そう言えばそう言う様なことが有ったの」
「あれって人間の科学をつこうて呪の式を書き込み、そこへ必要分の精を載せることによって、機能を果たす様に出来て居るやんか?」
「うむ、その様に作り上げて居るからの?」
「そこでや」
嬉しそうに笑みを浮かべると、和香様は更に語を継いだ。
「あの呪の式を少し変更させて、想定された動きをさせるのではのうて、呪そのものに精を貯め込める様に設定し直したんよ」
和香様の説明でその意味を理解した雨子様は、なるほどと感心する。
「で有れば極僅かな変更でそのまま使えそうじゃの?」
解って貰えたことが嬉しいのか、和香様は満面の笑顔だった。
「そうやねん、これやったらほとんど苦労せえへんで済む。万々歳やで?」
そこまで言うと和香様は一端口を噤み、その後、今度は渋い顔をしながら言う。
「そやけどそこから先が問題やってん。いくら都合良く扱えるものが有っても、そこに詰め込む精があらへんかった。勿論うちかて爺様に少しは精を分けてもろうたし、多くの参拝者が訪れる様になって来とるから、普段使う分くらいは問題あらへんねんけど、しかしあの量は無理や」
そう言うと、先程までいた執務室の方を指さす和香様なのだった。
「いくら何でもあないな数にうちが分けとったら、精が枯れ果てて、しわしわになって、それこそお婆ちゃんになってしまうわ」
だが雨子様は、和香様のその言葉に驚いて目を丸くする。
「なんじゃ和香、其方は精が無くなるとばあさんになるのかや?我は嘗て同様の状態に陥った時、精が尽きかける直前、退行してどんどん小さな子供に成って行ったものなのじゃが…」
そう言いながらしげしげと和香様のことを見る雨子様。
そのせいなのだろう、段々居心地の悪くなってきた和香様、珍しくぶーたれると顔の前で手を振りながらいう。
「やめやめ、冗談で言うた話やんか、精が少のうなったから言うて、お婆ちゃんになるのだけは願い下げや」
そう言い終えるとぷっくりと頬を膨らませた。
それを見ていた小和香様、お婆ちゃんという言葉に憤慨する和香様の顔に、半分驚きつつも、何とも言えず可笑しくなって、とうとう笑い出してしまう。
「くすくす、和香様がお婆ちゃんて…」
そう言いながら尚も小さく笑う小和香様の様子に、目をきょろきょろさせながらどうしたものかと悩む和香様。
「なあ雨子ちゃん。うちはこれをどないしたらええんやろね?」
そう言いながら和香様は、そっとその顎で小和香様のことを指し示す。
少しずつ笑い始めているうちに、本格的に可笑しくなってきたらしい。で有りながら、和香様のことを笑うなど申し訳ないという思いがあるのか、一応そちらには背を向けている。
だが時が経つ内に、肩の震えはどんどん大きくなっていく。そして漏れ出る声も抑えられなくなってきた。
こんなことくらいで小和香様のことを怒る訳には行かないと、できるだけ静観する様にはしているのだが、それでもさすがに居心地の悪くなってきた和香様、情け無さそうな声で雨子様に願うのだった。
「なあなあ雨子ちゃん、そろそろこれ、何とかしてえなあ…」
余りにもしょげ返る和香様のことが気の毒になったのか、助け船を出して上げる雨子様。
「小和香よ、もうその辺で…」
しかし時に人の…この場合は神様のなのであるが…笑いと言うものは当人達の思っても見なかったところでツボに填まるということが有るものだ。
笑いながらに何か言っているので、何を言っているのかと耳を澄ませば
「和香様がお婆ちゃん…」
それを聞いた雨子様は、静かに和香様の方を見ると、ゆっくりと頭を横に振るのだった。
そして振りながらついつい雨子様もまた吹き出してしまう。
「和香がお婆ちゃん…」
どうやらこの笑いは、当分収まりそうに無いなと、大きな大きな溜息をつく和香様なのだった。
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