「初登校二」
お待たせしました。
自分が小学生だった時は、一体どう言う風に過ごしていたかなあ?
そんな事を思いながら書いた今回です
校長先生は禿頭の、正にTHE校長先生と言った感じの男性だったが、担任となった松島先生は、どこか線が細い様な、それでいて鷹揚な感じのする男性だった。
そこで節子は校長先生と別室へと向かい、令子はと言うと、早速松島先生に引き連れられて、彼女の属すべき教室へと向かうことになるのだった。
「皆よい子達ばかりだから安心して良いよ」
先生はそう言いながら、令子を安心させる様に笑みを浮かべた。
どう返せば良いか分からなかった令子は、余り考え過ぎまいとただ笑みを浮かべながら頷いて見せる。
廊下を通り二階に上がって少し歩くと、そこが松島先生の担任する四年四組なのだった。
どうやら校舎の二階は、主に三年と四年の教室の様で、どの教室からもかん高い賑やかな声が溢れてくる。
中でも一際大きな声が聞こえてくるのが四組だった。
先生が扉を開けると、走り回っていたと思しき男子達が、慌ててどたどたと自分の席に向かう。
「君たち、転校生を連れてくるから、静かに待っているようにって言ったよね?なのにどうしてこんなに騒がしいんだ?」
実際に怒っている訳では無いのに、怒っている様な顔をして教室全体を睨め付けている松島先生。
だが彼らにはそんな大人の演技が分からないらしい。皆揃って借りてきた猫の子の様に、首を竦めて大人しくなっている。
令子はくすりと笑いが漏れそうになって、慌てて口元を手で押さえるのだった。
こうやって大人の目で先生を見てみれば、案外先生も一杯一杯なのだと分かって、何だか面白く思えてしまうのだった。
「入ってきなさい」
指図に従って令子は教室の中に入り、先生の横へと並んだ。
「今日から君らと一緒に学ぶことになる、転校生の吉村令子君だ。仲良くする様に」
先生からの紹介と共に、皆の視線が一斉に令子の方に向く。さすがにこれだけの視線が集まると、令子も少し心拍数が上がった様だ。顔を少し赤らめながら、今一度名を口にしながら挨拶をした。
「吉村令子です、よろしく」
そう言ってぺこりと頭を下げたのだが、その頭を上げた時、令子は見知った顔があることに気がついた。
「あれ?修太君?」
するとあちらも令子のことに気がついたらしい。
「あ!お前神社で蝉取りしていた時の?」
少し記憶が定かで無いのか、あやふやな感じの口調でそう言う修太に、ほんの少しだけ強い口調で令子は返す。
「修太君、また来る様なこと言っていたのに、あれから一度も神社に来なかったんだね?」
そう言いながら令子は少し頬を膨らませる。
控えめに見ても、今の令子はかなりという形容詞が尽きそうな程の美少女だ。どこと無く儚げなところが有るせいか、その印象は更に強くなっている。
そんな令子が、修太に向かって文句を言いながら、ぷっくり頬を膨らませていると、それを見ていたクラスの連中は大騒ぎを始める。
「修太が女の子虐めた!」
「修太いつの間に女と遊んでたんだ?」
「女の子と遊んだらいけないのかよ?」
「だから男の子は馬鹿だって言うのよ」
「先生、馬鹿って言ったぁ」
いやもう放っておくとどんどんカオスが拡大していく。
さすがに見かねた先生が、手を打合せながら声を上げる。
「はぁ~~い、もう静かにしろ~~」
そう言いながら先生は、クラスの面々を睨め付ける様に見回し、視線の力で事態を収拾していった。
忽ち騒ぎが収まったところを見ると、なかなかにやり手の先生なのかな?
そんなことを令子が思っていると、その先生が声を掛けてきた。
「吉村は修太と知り合いなのか?」
そこで令子は夏休み中に、神社で起こったことについて、掻い摘まんで話して聞かせた。
「修太ぁ、お前約束したのなら守らんといかんぞ?」
先生は話を聞き終えるなり即、修太にそう話して聞かせる。
対して修太は仏頂面をしながら言う。
「そうは言うけど先生、俺次の日から田舎のじっちゃんの所に行っていたんだから、行きたくてもいけないよぉ」
成る程、彼には彼なりの理由があった様だ。ただ裏切られた訳では無いことを知った令子は、心がほんの少しだけ軽くなるのを感じていた。
「そっかぁ、なら仕方無かったね。でももう会えないかと思って居たから、会えて良かったよ」
「何か用でも有ったのか?」
怪訝な顔をしてそう問う修太。
そんな修太のことを指差しながら先生が言う。
「既に知り合いだって言うなら丁度良い。吉村君は修太の隣の席に着きなさい。木村~~、代わって上げてな?」
どうやら既に席の決まっていた木村君とやらを押しのけて、そこに令子が座ることになったらしい。
何とも申し訳ない思いで一杯に成り、ごめんとばかりに低く頭を下げて見せる令子。
すると不機嫌そうだった木村君の顔が少し赤くなったかと思うと、仕方が無いなとの表情になって、そそくさと席を移ってくれた。
そこで空いた席に令子が行き、にっと修太に笑いかけながら座ると、彼は顔を赤くしながら背けるのだった。
そんな修太の様子を見ていると、からかい言葉の一つも口にしたくなるのだが、こう言う頃の男の子は、うっかりこじらせると面倒なことになるので、黙って前を向くことにした令子だった。
そうやって令子が席に着き、落ち着いたのを見届けた松島先生は、そこでクラスの者全員に声をかける。
「ほーい、そしたら夏休みの宿題を集めるから、全員教壇に持ってこぉ~い」
だが当然のことながら、令子にはそんな宿題なんて有りはしない。
少しばかり所在なげにそのまま席に座っていると、その様子に気がついた先生が声をかける。
「どうした吉村、前の学校では宿題が無かったのか?」
この問いにはさすがの令子も、どう答えるべきか窮することになるのだった。
一体どう言ったら良いのだろう?頭の中でぐるぐる色々なことを考えていたら、救いの声が教室外からやって来た。
「すいません、この子の宿題なんですが、手違いで私が無くしてしまって…」
そう声を掛けてくれたのは節子だった。教室の外から校長先生と並んで、中の様子を見ていたらしい。
思わずほっとしてしまった令子が節子のことを見ると、にこっと笑みを浮かべながら小さく手を振ってくれる。
泡を食いながら言い分ける理由を探していた令子なのだが、この適時な助けに安堵に胸を撫で下ろしてしまう。しかもこう言う形で大人が介入してくれると、大体それ以上追求されることが無いのだ。
さすが節子さん、グッジョブと胸の中で思う令子なのだった。
「なあ、あれって、お前のお母さんなのか?」
隣の席の修太が、節子の方に視線を釘付けにしたまま聞いてくる。
「うん、そうだよ」
令子はなんの躊躇もなくそう答える。此所に来て令子は、出かける前の節子の忠告の意味が、今更の様に分かった気がするのだった。
節子のことを見つめながら、修太が更にするりと言葉を吐く。
「綺麗なお母さんなんだな?」
令子はそう言われることが、何故かとっても誇らしい様に思ってしまう自身に、少し驚きながら嬉しそうに答える。
「うん、そうなの、とっても素敵なお母さんなの」
家に帰ったらこのことを、節子に話して上げなくてはと思う令子。
その話を聞いた節子はどんな顔をするのだろう?驚くのだろうか、それとも照れる?ちょっとそのことが楽しみになってしまう令子なのだった。
「皆宿題出し終わったか?通信簿もだぞ~」
松島先生の声が教室内に響き渡る。
対して子供達がそれぞれに、「出した」と言う意味の言葉を口にするのだが、それがわぁっと集まって音になる様が、まるで群れた蝉の声の様に聞こえるのは、気のせいなのだろうか?
「よぉーし、出し終えたのなら後は掃除をして、今日はもう帰って良いぞ!」
そう言う松島先生の声をかき消す様に、子供達の歓声が教室内に鳴り響く。
あっと言う間に皆で力を合わせ、机と椅子を隅に動かすと、有る者は箒を持ち、別の者はちり取りをと、有機的に見事に連携を取って動くのだった。
その様子に少し感心しながら見蕩れていると、そんな令子に修太が声を掛ける。
「内の四年生は、三年生からの持ち上がりだからな…」
修太のその言葉になるほどと思う令子。道理で連携作業が見事な訳なのだった。
と、そんな令子に、修太以外で声を掛けてくれる者が居る。
「吉村さん、ちり取り使う?」
ふと見るとそれは小柄な、おかっぱ頭の可愛らしい女子だった。
多分なんだけれど、令子が未だ此所で馴染めず、一人立ち尽くしているのを気にしてくれたらしい。
「ありがとう、私、吉村令子です」
令子がそうやって打ち解けてくれたのが嬉しかったのか、その女の子はほっとした顔をしながら言う。
「うん、知ってる、さっき紹介してくれたからね。私は明坂かすみ、よろしくね?」
「うん、こちらこそよろしく」
そう言うと令子は、かすみからちり取りを受け取る。
すると既に教室内のゴミを掃き終えて、一カ所に集めていた者達の視線が集まる。どうやら待っていて呉れたらしい。
そんな彼らの思いが嬉しくて、令子は満面の笑みを浮かべながら言う。
「お待たせ!」
そう言うと令子は皆が集めたゴミを受け取りながら、明日からこの教室に来ることが、自然に楽しみになっている自分に気がつくのだった。
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