「サンドウィッチ」
今日は久々、形骸とかしていたアップ時間を守ることが出来ました…やれやれであります
もうまもなく連休に入りますが、連休期間中はアップをお休みします。
申し訳ありません
和香様の心配した通り、結果かなり早い時間に、吉村家の前まで来てしまった小和香様。玄関の呼び出しボタンを押そうか押すまいかと迷いながら、暫し逡巡している。
と、そんなところへいきなり後ろから、声が掛かるのだった。
「あれ?小和香さん…」
そこにはどこからか帰ってきたらしき祐二と雨子様の姿。
「きゃ~~~!」
思わぬ時、思わぬ人、思わぬ方向からいきなり声を掛けられたものだから、飛び上がって声を上げてしまう小和香様。
逆にその声に驚いてぎょっとしている祐二に、苦笑しながら言う雨子様。
「何じゃ祐二、其方何か小和香に悪戯でもしたのかえ?」
慌ててぶるると頭を横に振る祐二。
「してないしてない、なんてこと言うの雨子さん!」
必死になって弁解している横で、小和香様もうんうんと頷いている。
勿論、雨子様はそんなことは百も承知で、ただ揶揄っただけなのだった。
「おはようじゃの小和香、それにしても早いの?」
そう言う雨子様に、心臓の動悸を何とか静めながら小和香様も言う。
「おはようございます雨子様、祐二さん」
やはり祐二に対して面と向かうと、どこか胸の奥がずきりとしてしまう小和香様。
それでも以前のように、自制することが出来無くなるようなことには成らなかったので、内心ほっとする。
「どこかにお出かけだったのですか?」
そう問う小和香様に対して、祐二は手に持っている物を見せながら笑いかける。
「時々なんですが、雨子様のお社の掃除とかしているんですよ」
そうやって掲げて見せたのは箒とちり取りだった。片や雨子様はバケツと雑巾らしき物を持っている。
「いくら今は住んで居らぬとは言え、あの地は我の本拠地じゃ。汚れたままで放置しておくのはどうにも居心地が悪いのじゃ」
そう言いながら少し恥ずかしそうに苦笑する雨子様。
確かにそう言えば、自ら神社を掃除する神様って、余り見かけないなと思う小和香様。尤もそんなことを思いつつも、自身は確りと宇気田神社を掃除しているのだ。
「だがの、善行を行えば良きことも有るものじゃ」
そう言うと雨子様はポケットをごそごそと探り始める。その後何やら色とりどりの包み紙に包まれたものを取り出してくると、ひょいっと小和香様に手渡すのだった。
「これは?」
不思議そうな顔をして尋ねる小和香様。
すると雨子様は頭を掻き掻き言うのだった。
「いやの、我が神社の掃除を祐二と二人でして居ったら、近所に住んでいるという老人が現れ居っての、自主的に神社の掃除をするとは何とも偉いと、褒美にくれた飴なのじゃ」
それを聞いた小和香様、口元を手で隠しながら思わず笑いを漏らす。
「クスクスクス、まさかその御老人も、その神社の神様に飴を差し上げているとは、露にも思って居らなかったでしょうね?」
「全くじゃ…」
そう言うと雨子様もくふふと笑うのだった。
「そう言えば小和香さんは、今日は令子さんとお出かけになるんですよね?」
とは祐二。
にこやかに笑みを漏らす様が何とも眩しいと思う小和香様。
「はい、前から楽しみにしていた映画を二人で見に行こうかと。あと二人で買い物とかもしたいねと言っております」
「そう言っていたよね、待っててね、今令子さんを呼んできますから」
そう言って令子を呼びに行こうとする祐二に、慌てて小和香様が言う。
「いえその…私少し早く来すぎてしまいましたので…」
そう言われて雨子様は、携帯をとりだして時刻を見る。
「むぅ、確かにちと早すぎるきらいがあるの?未だ小一時間もあるかの?」
そう雨子様に指摘されてしまった小和香様は、真っ赤になりながら小さく身を縮める。
「雨子さん…」
そう言いながら思わず祐二は雨子様の脇腹を突く。
「な!何じゃ祐二?」
脇腹を突かれたのが不意だったせいか、少し裏返った声でそう言う雨子様。
その雨子様に声を抑えて言う祐二。
「だって。小和香さんが…」
言われて小和香様のことを見る雨子様。
顔色は手で覆われているので良く分からないが、耳が真っ赤なのでおそらくはそう言うことだろう。
多分なのだが、雨子様と二人きりの時に先程のように言われたとて、こうも反応しなかったのでは無いだろうか?
そう察した雨子様は、ほんの少し決まり悪そうにしながら小和香様に言う。
「まあなんじゃ、その、こうして居っても暑いばかりじゃ、中に入るが良い」
そう言うと雨子様は、手に持った雑巾の入ったバケツをぐいっと祐二に押しつけると、すたすたと玄関から中に入っていくのだった。
「ただいまなのじゃ」
玄関を入って靴を脱ぐなりそう言う雨子様。
偶々近くに居合わせたのか、ひょいっと廊下に節子が顔を出す。
「お帰りなさ…って小和香さん?まあまあおはよう御座います」
勿論節子の言葉には何の思惑も無い。だがなんとは無しではあるが、またも早く来すぎてしまったと思う小和香様は顔を赤らめながら言う。
「おはよう御座います節子さん、少し早く来すぎてしまいました」
勿論勘の良い節子のこと、小和香様が何を思って顔を赤らめているなど直ぐに感づいてしまう。
「何言っているの、令子ちゃんとお出かけするのが楽しみだったのでしょ?令子ちゃんも昨夜嬉しくて寝付けないみたいだったわよ?」
そう言ってさらりと流し、話題を令子のものへとすり替えてしまう。
「そうなのですか?」
途端に嬉しそうな表情になり、目をきらきらとさせる小和香様。
そんな小和香様の様子を目にした雨子様は、節子の機転の利かせ方に、まだまだ学ばねばなと頭を静かに横に振るのだった。
「節子よ、一汗掻いた故、我はシャワーを浴びてくるのじゃ、小和香のこと頼むの」
そう言う雨子様に、節子はにっこりと笑みを浮かべながら頷いて見せる
節子の間髪入れない反応に、安心しながらその場を去って行く雨子様。
「行ってらっしゃい雨子ちゃん。いらっしゃい小和香さん、令子ちゃんならダイニングで朝ご飯食べているわ」
そう節子に誘われるまま吉村家のダイニングに入った小和香様、早速に令子の姿を見つける。
丁度タイミング悪く?いや、良くなのか?令子が口を大きくあんぐりと開けて、サンドウィッチに齧り付こうとしているところだった。
「あんぐぅ?」
途中ではもう止められなかった令子は、そのままがぶりと囓りとったものの、目を白黒。
「おはよう御座います令子さん」
そう言う小和香様に、ただ頭を上下に振ることしか出来ないのだった。
「もぐもぐうんぐぅ…」
慌てて咀嚼して飲み込んだ令子、喉が詰まりそうになったのを慌てて紅茶で流し込む。
「ぷはぁ…。おはよう小和香さん」
目をぎょろぎょろさせながらそう言う様が、ちょっと嵌まってしまったのか、口元を抑えながら俯いてしまう小和香様。
端から見て明らかに笑っていると分かるのだが、なんとは無しに原因は分かるので敢えて責めることはしない。
「でも小和香さん、随分早かったのね?」
そう言う令子に、小和香様が何か反応を返す前に節子が言う。
「令子ちゃんそれ位で勘弁して上げてね?」
「?」
何のことやら分からずに目顔で問う令子。
対して苦笑しながら応える節子。
「小和香さんはね、さっきから何度も早く来すぎたって思うことが有って、この上令子ちゃんから言われたら立ち直れないわよ、きっと?」
確かにそれはもう節子の言うとおりなのだった、既に小和香様の心の中にあるダメージメーターは真っ赤になっていて、とっくの昔に振り切れ状態なのだった。
だが期せずして節子の言葉がまた最後のだめ押しになるのだった。
「節子さん~~~」
そう言って節子の胸元にしがみつく小和香様。
苦笑しながら良々とその頭を撫でつつ、ダイニングテーブルの席を勧める節子。
無事宥められて席に着いたところへ、ことりと麦茶のグラスを置く節子。
「どうぞ小和香さん」
そう言われて早速に冷たく冷えた麦茶を頂き、その後はぁっと長い溜息をつく小和香様。
「落ち着いた?」
未だ口をもぐもぐと動かしながらそう問う令子。
「はい…」
少し脱力しながらそう言う小和香様。
「小和香さんも何か食べる?」
そう尋ねる節子に、小和香様は遠慮して
「いいえ」
と言いはしたのだが、視線が思わず令子の食べるサンドウィッチに行ったのを、しっかりと見られていた。
「はいどうぞ」
あっと言う間に節子の手に寄って現れ出でたる美味しそうなサンドウィッチ。
呆然として令子と節子のことを交互に眺め見る小和香様。
にっこりと笑みを浮かべる節子に、うんうんと頷く令子。
観念した小和香様は、小さな声で
「いただきます」
と言うと齧り付くのだった。
「美味しい!」
思わず声を上げる小和香様。それを見ながらうふふと笑う令子。
「でしょ?節子さんの作る物って何でも美味しいけれども、これも逸品なのよねえ」
正に令子の言う通りなのだが、思わず和香様にも食べさせて上げたいと思ってしまうところ辺り、小和香様らしいと言えばらしいのだろうか?
「節子さん、どうやったらこんなに美味しく作ることが出来るんです?」
真摯な眼差しでそう問う小和香様。そう言えばお茶の入れ方を学んだのもこの節子からだった。
その問いに苦笑しながら節子は答える。
「何にも特別なことなんかしていないわよ?新鮮なお野菜を使う。よく手入れされた包丁で具材を切る。それから辛子バターを作って具材を載せる前に薄くパンに塗る。後はラップにくるんでからカットするくらいかなあ」
それを逐一頷きながら聞いていた小和香様が言う。
「成る程、少しずつの積み重ねなんですね?」
そう答える小和香様の言葉に、僅かに目を見開きながら節子が言う。
「そうね、どんなことも同じなんだけれども、少しずつの積み重ねを大切にしていくと、予想外に色々なことが素敵になったりするものよね?」
そう言われた小和香様は、目をぱちくりとさせながら節子のことを見直す。そして納得するのだった、そう言う少しずつの積み重ねの末に、この節子さんという存在が居るのだなと。
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