「真夏の夜の夢二」
またも遅刻(^^ゞ
「聡美は雨子ちゃんが神様だと言うのはもう知っているわよね?」
そう言われた聡美は、何を今更と言った感じで苦笑しながら応える。
「そりゃあもう信じない訳に行かないじゃ無い?でなかったら此処は一体何なのと言うことになっちゃうものね?」
そう言う聡美の言葉に、逐一頷いて見せながら節子は更にその先を続ける。
「でね、その雨子さんと家の祐二がその…」
そう言うと節子はちらりと七瀨のことを見る。しかし七瀨は問題無いと言うように頷くと笑みを浮かべるのだった。
「将来結婚することになっているのよ」
その言葉を聞いた聡美は、はっとしながら娘のことを見る。彼女は娘の恋心を知っていて、実は密かに応援していたのだった。
だが既にさばさばとしている様子の娘の顔を見るに、どうやら当人達の間では既に決着が付いているようだと悟るのだった。
「家に帰ったら一度ちゃんと話すのよ?」
そう娘に言うと彼女は、節子に話の先を促すのだった。
「でね、雨子ちゃんと結婚するのは良いんだけど、神様って人間よりもずっと寿命が長いらしいのよね?」
そう言う節子に聡美が突っ込みを入れる。
「そもそも神様に寿命って有るの?」
だが今度は節子が首を傾げる番だった。
「さあ?ただ言えるのは、いくら祐二と結婚したとしても、その祐二と直ぐに別れることになるのは絶対に耐えられないって、雨子さんは言うのよね」
その言葉にうんうんと頷く聡美。
「それはまあそうなんだろうけれども…」
「それでね、今雨子ちゃん自身祐二の側、つまりは人間の在りように色々近づけているんだけれども、祐二にも頑張って貰って、神様側に近付いて寿命を延ばして貰うと言うことで、ここ暫く修行している最中なのよ」
それを聞いた聡美は目を丸くしながら言う。
「待って!と言うことは祐二君は既に沢山修行しつつあって、それであんな動きが出来るようになっているって言うことなの?」
節子はそんな聡美の反応に苦笑しながら応える。
「まあ掻い摘まんで言うとそう言うことなのよ」
だが聡美はそんな節子のことを心配そうに見つめながら言う。
「祐二君が雨子ちゃんと結婚すると言うことは一旦置いて、節子は自分の子供が、人間とは異なる寿命を持って生きるのは平気なの?」
他の誰をさておいても、まず自分のことを心配してくれる親友の思いを受け止めながら、節子は笑みを浮かべつつ言うのだった。
「ありがとうね心配してくれて。でも考えてもみてよ。私達親はどうしたって子供より先に死んじゃうのよ?そう考えたらその辺のこと、割とどうでも良いかなあって…」
そうあっけらかんと言う節子に、少しばかり呆れながら聡美は言う。
「もう、節子は何かそう言うところが有るわよね?令子ちゃんのことも簡単に娘として認めちゃうし…」
「まあそれは言われてみると、そうかも知れないわね。ただね、今みたいに色々濃厚に神様と係わっていると、自分達が如何に周りに、様々な形で助けられて生きているかって言うことが、色々と見えてきたりもするのよね。それでそうなると自分もちゃんと何かの形ででもお返ししなくちゃあなんて思う訳」
それを聞いた聡美は、ぷっと吹き出しながら言う。
「何それ、節子自身が丸で神様みたいになっちゃってるじゃ無い…」
「あ~~~、成る程。言われてみれば、でもこれぞ正に神様の影響なのかもね?」
暢気にそんなことを言っている節子に、再び心配そうな顔になった聡美が言う。
「でもね節子、結婚するのは良いのだけれども、神様となってその先が、どこまであるか分から無いとなると、大丈夫なのかしらね?」
不思議そうな顔をして節子が問う。
「大丈夫って何が?」
そう聞く節子の言葉に対して、聡美の表情が少し切なさそうになる。
「神様の寿命が長いって言うことは、祐二君達の場合、結婚してから先が長いって言うことにも成るじゃ無い?家なんか何年も経たない内に別れちゃっているのだけれども、そんなに長い結婚生活って、大丈夫なのかなって…」
その話を聞くと、成るほどそう言う心配も考えられるなと思う節子。
またそう思うことが元で、どうしても不安に思う心が生まれてしまう。
「大丈夫なのかしら?」
そう傍らに居る拓也に問うのだった。
すると拓也は、節子の後ろを指差して見せながら言う。
「何なら本人たちに聞いてみたら?丁度飴を売り尽くしちゃったみたいだよ?」
そう言われてはっとしながら後ろを振り返る節子。そこにはげっそりとしてふらふらに成りながら、皆の居る方へと歩いてくる二人の姿があった。
「あ~~~、偉い目に遭ったのじゃ」
「もう当分飴は見たくないな」
「全くじゃ」
そんなことを互いに言い合いながら、へろへろとしながら皆のところにやって来るのだが、ふと周りを見回し、自分達に視線が集まっていることに気がつく。
「ん、どうしたというのじゃ、我らにその様に注目して?」
そう言う雨子様に節子が笑みを零しながら言う。
「どうしたこうしたの前にまずはお疲れ様」
そう労ってくれた節子を始めとして、そこに居る者達皆、どこかしら草臥れきった様子が見えるのに、ついつい失笑する雨子様。
「どうやら皆同じ様な状況じゃったようじゃな?」
そう言う雨子様の言葉に七瀨が応える。
「ほんと、とんでもないこと引き受けちゃったって思ったわよ」
そう言う七瀨に、雨子様はぺこりと頭を下げる。
「我も知らぬことじゃったとは言うものの、依頼したのは我自身、済まなかったの」
そう言って素直に謝る雨子様の身体を起こしながら七瀨が言う。
「そんな謝らないでよ、引き受けたのは自分達の意志なんだし、そりゃあとんでもなく大変ではあったけれども、楽しくもあったんだから…」
その言葉を聞いて周りの者達も皆うんうんと頷く。確かにあれだけ多くの子供達の無心な笑顔を見れば、十二分におつりを貰えたと言えるのかも知れない。
「その通りね、大変は大変だったけれども、とっても心が満たされているって言うのは有ると思うわ」
そう言うのは葉子だった。傍らで誠司もそれを肯定するように頷いている。
「この後の温泉と宴会が楽しみだよ」
とは拓也。
「あなた、宴会って…。お料理は沢山用意してきたけれども、お酒は持ち込んでいないわよ?」
その言葉に思わずあんぐりと口を開く拓也、それに同調するかのように肩を落とす誠司。
だがそんな彼らに思わぬところから救いの主が現れるのだった。
「そないなこと心配いらへんで?うちの方でもようさん料理用意しとるし、お酒もがんがん運ばせるで?」
とは本日のこの祭りの主催神、和香様なのだった。
和香様は笑いながらそれだけの台詞を述べると、後はすっと畏まりながら皆に頭を下げる。
「今日は皆さんお手伝い、本当におおきに、助かりました。お陰で屋台の方は無事終えることが出来ています。後は盛大に花火上げるからまずは楽しんでな」
そこまで言うと和香様は、トトトと雨子様の元に駆け寄り、ぎゅうっとその身を抱きしめた。
「おおきに雨子ちゃん、助かったわ。この後もうちっと用が有るから一旦失礼するけれども、よろしゅうにな?」
そう言う和香様の背中を軽くとんとんと叩くと雨子様が言う。
「うむ、心得たのじゃ、残りもう少し頑張ってくるが良い」
そうやって雨子様と挨拶を交わした和香様は、小走りにその場を去って行く。
その後ろ姿を見送っていた雨子様、傍らに並んだ祐二に嬉しそうに寄り添うのだった。
「あなた達本当に仲が良いわねえ」
少し呆れたようにそう言う節子の言葉に、周りの人間達の存在に、はっと思い至った雨子様が顔を赤くする。
「それで何だけれども…」
節子は聡美の顔をちらりと見ながら言う。
「聡美と話をしていて、あなた達が将来結婚するって言うことや、その為に祐ちゃんが神様になる修行をしているってことを話したのよ。で、結婚後って案外色々なことが有るのよねと言う話になったのだけれど…」
そう話す節子の横で、聡美が妙に真面目な顔で頷いている。
「私達よりもずっとずっと長い結婚生活を送ることになるあなた達って、どうなのかしらって言う話になったの」
節子がそこまで話したところで、聡美が後を継いで話し始める。
「ごめんね、結婚もしないうちから変なこと言っちゃって。でも私なんか結婚して数年も経たない内に別れることになっちゃってるから、神様の場合はどうなんだろうって…ね?」
そんな話しを聞いた雨子様と祐二は一瞬顔を見合わせる。そして祐二が頷くのを見た雨子様が口を開くのだった。
「うむ、聡美が我らを貶める為に言うて居る訳では無いこと、重々に分かって居るので、謝ることは無い。確かに人に於いて結婚と言うのは、早いうちに子を成さねばならぬと言うことも有って、互いのことを余り良く知り得ぬまま、所帯を持たねばならぬから大変なことであるよの」
そこまで話すと聡美と節子の二人のことを見つめ、にっこりと微笑みながら更に語を継ぐ。
「ある意味そんな中、例えその身一つとなっても臆すること無く、ちゃんと子を育て上げて居る聡美には、本当に頭の下がる思いじゃ。また、夫婦揃って力を合わせて家庭を守り、我ばかりで無く、令子までも引き受けてくれた吉村家の者達にも、本当に感謝の念が絶えぬ。そして我と祐二のことを心配してくれて居ることも心より礼を述べたい」
そこまで言うと雨子様はこほんと一つ咳払いをする。
「それで我らの結婚のことなのじゃが、神と言う存在として言うならば、実はある意味既に結婚して居るに等しいのじゃ」
そう言うと雨子様は祐二のことを不安そうに見る。
祐二自身、雨子様の言っている言葉の意味が、じつは良く分からなかった。だがそれで今、自分が狼狽えて見せても雨子様の不安を助長するだけだと思い、考えた末、なるべく平然として頷いて見せるのだった。
実際そんな祐二の様子を見た雨子様は、ほっと胸を撫で下ろしながら説明を続けるのだった。
「…その、何故に結婚して居るに等しいと言うたかと言うと、かつて我は祐二の命を危険に晒したことがあった。事前に自身を神と言い、守ると言うたにも係わらずの為体。余りのことに我はもう情けなさに堪らず、自身を自壊させ掛けたのじゃ。じゃがそんな我のことを、祐二は自らの危険を顧みず、我の心の奥底まで助けに来てくれたのじゃ」
そう言いながら雨子様はじっと祐二のことを見つめる。周りの者達の間からは咳き一つ聞こえなかった。
「その時、我が余りにも心の奥底深くに隠れて居ったせいで、我を目指す祐二の心が力尽きかけ、一時、自壊しかけたのじゃ。幸いなことに直ぐに気がついて手を打ったが故、大事に至ることは無かったのじゃが、その時なのじゃ、我が心と祐二の心の幾ばくかが混じり逢ったのは…」
そう静かに言い放つ雨子様に、節子がゆっくりと口を開く。
「もしかして神様同士の結婚って、そうやって心を交えることなの?」
すると雨子様はほんのりと顔を赤らめ、下を向きながらゆっくりと頷く。
「うむ、その通りじゃ…。じゃが我は神であり、祐二は人である。ただ神の形で交わったからと言って、それが即ち我ら二人にとっての結婚で有るとは言い難い。で有るが故に…」
そう言うと雨子様は祐二の手を取り、きゅっと握り締めながらその目を見つめる。
「我は人の形でも交わり、真に結婚したく有るのじゃ。じゃからその…」
そう言いながら雨子様はそっと祐二の背後に隠れる。
「じゃから節子、そして聡美よ、おそらくそなたらの心配するようなことは無い?…と思うぞ?」
そうやって説明する雨子様の言葉に、皆が納得しつつも、何故か揃って目をきらきらとさせている。何と言えば良いのだろうか?この神様の恋心が、胸にきゅんきゅんと刺さると言うか、身悶えさせたくなるような何かを醸し出しているのだった。
だがそんな彼らが何かを言い出す前に、ぱんぱんと手を打つ七瀨。
「はいはい、この話は此処まで。これ以上追求するのはどうかと思うわよ?」
そう言って親友の危機を救おうとする七瀨。そしてその姿を見て、ようやっと心の底からほっとする聡美なのだった。
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