「神と人」
今日のは少し短いです
さて当日のお昼を過ぎた頃、和香様が手伝いにと期待し、雨子様が胸算用していた者は、ほぼ全員の形で行事に参加することになっていた。
既に当事者達は神社側の手配した車によって、各所より手際よく連れて来られ、普段温泉を使わせて頂く時の部屋へ、次から次へ続々と案内されている。
誠司の仕事の都合も有り、吉村家より少し後になって現地に到着した葉子一家。
未だ未だ幼子である美代のために、それなりに大荷物を抱える誠司を従え、わくわくした面持ちの葉子が足取りも軽く部屋へとやって来た。
「おお?美代?なんともうその様に大きゅうなっとるのかや?」
その葉子の手に抱かれ、すっかり赤ちゃんの領域を脱しつつある美代の姿を見た雨子様が、驚きの声を上げながらその許へと駆けつける。
そして間髪入れずに葉子の手から、そのちんまり可愛く、ぷにゅっとした存在を奪い取ると、愛おしそうに優しく抱きしめる。
そんな雨子様の様子を見て、おかしそうに笑いながら声を掛ける節子。
「余所の子…とは言っても家の孫なんだけれども…大きくなるのが早いのよね、本当にあっと言う間だって思ってしまうわ。誠司さん、葉子、今日はご足労様」
葉子は自分達のこともちゃんと意識しておきながら、美代のことしか全く眼中にない様子の雨子様に、苦笑しつつ節子に返事を返す。傍らでは誠司も笑っている。
「お久しぶり母さん。雨子さんは相変わらず?って言う感じね?」
そう言う葉子と嬉しそうにハグを交わした節子は言う。
「そうなのよ、って、雨子ちゃん、独り占めしないで私にも抱かせて頂戴?」
見ると雨子様は、確りと美代のことを抱きしめ、無上の顔をしながらそっと頬ずりをしている。
するとそれが嬉しいのか、はたまたくすぐったいのだろうか?美代がご機嫌の顔をしながらきゃきゃと笑っている。
「すまないね誠司君」
そう言っているのは拓也で、その横には祐二も居て、誠司の持つ荷物を引き受けようとしていた。
「お久しぶりです葉子さん」
節子の陰から顔を覗かせるようにしているのは令子だった。
「令子ちゃんお久しぶり、え?なんだか随分お姉さんって言う感じになっていない?」
以前会った時に比べ、随分成長しているのを感じた葉子は、その思いを驚きと共に口にした。
先程の美代もそうなので有るが、人の成長と言うものは、身近で日々目にしていると、案外良く分からなかったりもする。
そうで有るが故に、令子の成長と言うのは、吉村家に於いて目立つこと無く、ゆっくりと継続されていたのだった。
だがそんな穏やかな成長も、久しぶりに令子の姿を目にした葉子にとっては、堅調で確実な変化として目に付くのだった。
「え?え?え?そうなの?私、成長している?」
そう言う令子の姿はどことなくとても嬉しそう。
僅かであるが、目の隅に光るものが浮かんでいるようでもある。
そんな令子に向かって、美代のことを節子に引き渡した雨子様が言う。
「何を言うて居るのじゃ令子。我らは其方に成長を約束したでは無いか?その約定がきちんと果たされて居るに過ぎぬよ」
「うん、でも、でもね、自分では全然実感出来ていなかったんだもの」
そう言う令子に雨子様は笑いながら言う。
「うむ、まあしかし、日々の成長とはその様なものじゃ。あと一、二年もしてみるが良い、己が成長を確実に実感できるであろうよ」
そんな雨子様に向かって、美代を抱きしめ、大いに堪能している最中の節子が口を開く。
「でもね雨子ちゃん、小さい子が成長していくのは、この上なく嬉しいのだけれど、一方、なんかもう例えようも無く寂しくもあるのよね。だって、何をどうしようとも二度と同じこの姿、この瞬間を味わうことが出来ないのですもの…」
そう言うと節子は身を屈め、思いの丈を込めて美代を抱きしめつつ、もう片方の腕で令子のことをも抱きしめる。
そんな節子の愛情の発露を受けた令子は、恥ずかしげに笑いながら、何とも居心地が悪そう。
本来の令子の精神年齢を考えれば、仕方の無いことかも知れない。儚くなった時の年齢は、既に二十代の半ばを回っていたのだから。
だがそう言う心の壁のようなものが有ったとしても、例えそれがどんなに照れ臭いもので有ったとしても、今の節子の、私心の無い、心の奥底からの愛情に包まれては、応じずに居られようはずが無かった。
「節子…母さん…」
そう短く述べると、彼女もまた思いを込めて、きゅうっと節子のことを抱きしめ返すのだった。
そんな二人、いや三人の組み合わせと、愛情の通い合う様を見ていた雨子様は、静かにぽつり言う。
「のう祐二よ」
そう呼びかけられた祐二は、誠司から預けられた荷物を既に部屋の隅へと片付け終えていた。
「人と人の間の縁というのは、ただ血の繋がりのみで語られるものでは無いのじゃな…。いかに相手のことを思い、愛情を通わせることが出来るか、それに尽きるものなのじゃろうな」
そうしんみりという雨子様は、自らも節子に深く愛されていることを思い起こしながら、身体無き神々には、良く知り得ないこの不可思議な感情について、色々なことを考えてみるのだった。
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