「一本の電話」
公私ともに忙しい日々が続いています
夕食を終え、(因みにこの日爺様は不在だった)のんびりとした時間を過ごした後、部屋に戻った雨子様は、静かに祐二に勧められた音楽を聴いていた。
ステレオとか言った大仰な機器を通じてのものでは無く、携帯にイヤフォンという、極々シンプルな構成。
それでも生き生きとした音楽の鳴動を楽しむには十分なのだった。
かつて自分の知っていた音楽とは随分様変わりした物だなと、改めて思いつつも、なかなかにこの音楽は心地好い。
しかし、と雨子様は思う。自身は音楽の神では無いが故、そちらの方面にさほどの才能があるとは思っていないので有るが、それでも祐二達と行くカラオケなどでは、なかなかに上手いと褒められたりもする。
けれども今聞いて居る音楽の目まぐるしさは一体どうなんだろう?
さすがの雨子様も、今のこの人の身でその曲が歌えるとは思えず、大きく首を傾げるのだった。
でも、それでも何時か歌えたら良いなとも思うので、小さく声に出して口ずさみながら、何度も何度もその極を反復して聞いているのだった。
と、その音楽が急に中断され、電話の呼び出し音が鳴り始める。
一体誰からと携帯を見ると、和香と名が出ているのだった。
「何用なのじゃ和香?」
通話に切り替えるなり相手にそう言う雨子様。
すると向こうからは笑いを堪えたような感じで、和香様の声が聞こえてくるのだった。
「いきなり何用じゃはあらへんのと違う雨子ちゃん?」
そう言う和香様に雨子様は不思議そうに言う。
「そうは言うがの、この携帯なる物には、誰から電話が掛かって来たのか、分かる機能が有るであろ?それによると和香と出て居る。相手が和香と有れば極当たり前に、何か用が有ってのことと思うでは無いのか?」
それを聞いた和香様は、成る程それもそうだと思いつつも、いくら何でもそれは味気ないとも思う。なので今後用の有る無しに係わらず、もう少し頻繁に雨子様に電話しようなどと考えているのだった。
さてそれはともかくとして、実際この電話は用が有って掛けられていた。
「成る程なあ。確かに今回はまあ用やねんけどなぁ…」
その後、何やら聞こえるか聞こえないかくらいの声で、ぶつぶつと何事か言っている和香様。
「ええい、ご託は良いのじゃ、それで何用かと聞いて居る」
いくら何でもそんな言い方は無いのではと思う和香様なのだが、がしかし、電話を通じてそんなことをわいわいと言っていても始まらないと思い、一気に本題に入るのだった。
「まあええは。それで本題やねんけど、お祭りに協力して貰えへんやろか?」
突然の和香様の協力依頼に戸惑ってしまう雨子様。神様同士で有ったとしても、相手の祭り事情まで精通している訳では無いので、こればかりは致し方の無いことだった。
「祭りへの協力?一体何を協力して欲しいと言うのじゃ?そして一体何の祭りじゃと言うのじゃ?世間で言うところの夏祭りなのかや?」
だが夏祭りという言葉については、あっさりと和香様から否定される。
「あのな、うちんところでは夏祭りというのは有らへんねん。特に夏期の間は一般で言うお祭りはしてへんねん。次うちで有るとしたら九月に入ってからやなぁ」
和香様からの一見して矛盾した返答に戸惑う雨子様。
「のう和香、其方はそう言うが、つい今し方其方が我に、祭りへの協力を要請したのじゃぞ?或いはその要請は九月に入ってからのことなのかえ?」
すると今度は電話口の向こうから、くすくすと笑う和香様の声が聞こえてくるのだった。
「ああ、悪い悪い、そう言うたら、そんな祭りについて互いに話したことあらへんもんな。さすがの雨子ちゃんでも知らへんのも無理ないか…」
その様なことを言う和香様の言葉に、雨子様は何も返すこと無く、相手が更に言葉を継ぐのを待つのだった。
「あのな雨子ちゃん、世間一般で言う人間と関係した祭りという意味では、さっき言うたとおりやねん」
それを聞いた雨子様、少し驚きの表情を浮かべながら言葉を返す。勿論ただの電話なのでその表情は相手に見えないので有るが、おそらく雰囲気くらいは伝わっているのでは無いだろうか?
「なんじゃと?と言うことは其方の言うておる祭りは、人間以外のものの為の祭りと言うことなのかえ?」
「大正解や雨子ちゃん」
嬉しそうにそう言う和香様。
しかし未だ納得に行かない雨子様は質問を追加していく。
「しかし、で有るとするならば、一体何の為の祭りなのじゃ?」
雨子様の疑問に和香様が丁寧に答える。
「それやねんけどな雨子ちゃん。うちのところでやろうとしている祭りは、小者達や付喪神達の為のお祭りやねん」
「何とそうなのか…」
そう応える雨子様に和香様は更に説明を加えていく。
「普段うちら神様は何か事ある度に、えらそぶって手下の小者達を顎で使うとるやん?場合によっては手下では無い付喪神なんかも居るわな。まあその場合でも無理くりと言うことはせえへんけどな。そう言う連中に、たまにはうちら神様も感謝しとかなあかんと言うのが、このお祭りの主旨やねん」
和香様の説明をそこまで聞いたところで、雨子様は成るほどと思いつつ感心するのだった。
「そう言うことなのか、彼らに対する感謝の気持ちを表明するという訳なのじゃな?」
「うんうん、その通りやねん。それでやな、その祭り当日に限って、うちら神様や分霊、或いはそう言った人外のものを既に知っている神社関係の人間だけで、連中をもてなす祭りを開くねん」
感心した雨子様は思わず歓声を上げる。
「おお!それは確かに良きことかと我も思うの!」
「それでその祭り、御影会って言うんやけど、最近まではうっとこの神社の奥の院裏の森ん中で、空間の位相を変えてこっそりとやっとってんけど、それやと例年入りきれへんような奴がようけ出とってん」
「むぅ」
そう言う雨子様の声音には、何とも可哀想という思いが自然込められている。
「それでな、最近例の温泉の為に、かなり広大な空間を地下に作ったやん?そこを一日だけ限定で解放して、今までに無く大々的にやったろうかと思うたんよ」
そう言う和香様の説明に、成る程と合点の行く雨子様。
「もしかすると、そこでの祭りの為の人手を借りたいと言うことなのかや?」
返ってきた和香様の声は嬉しそうに弾んでいた。
「ピンポ~~~ン♪大正解や。それでな雨子ちゃん、自分ところの関係者で、うちら神様のこと知っとる連中、出来たら全員手伝いに投入して貰えへんやろか?」
さすがにこの申し出には驚きを隠せない雨子様。
「な、何じゃと?全員じゃと?それでその祭りは何時開催されるというのじゃ?」
「それがやなあ…」
そう言いつつ言葉を継ぐ和香様、何とも申し訳なさそうな思いがひしひしと伝わってくる。
「色々急に決まってきたもんやから、もう一週間後に迫ってきてるねん…」
それを聞いて大きな溜息をつく雨子様。
「何をやって居るのじゃ和香よ。我や祐二のような高校生はともかく、それ以外の社会人達とも成ると、凡そ何かと予定を入れて居るものじゃ。その様な猶予しか無い状態で頼み込んで、果たしてどれだけ協力を得ることが出来るものかの?しかし言うて居っても始まらん。直ぐに皆の都合を聞いてみるが、日程など少し詳しく教えて貰えぬか?」
雨子様にそう言われてしまったものの、それでも雨子様ならなんとかしてくれるのではと言う思いも有り、大喜びする和香様。
「うわぁ~~、助かるわ雨子ちゃん。ほんま持つべき物は友やなあ。そやな、詳しい日程とか何をするとか注意事項とかは、口で言うてもちゃんと伝えにくいから、後でレインで送るわ。ほんまおおきにな」
そう言うと和香様は、更に雨子様が何かを言う前に一方的に通話を切ってしまう。
その余りの唐突さに呆れながらぼやく雨子様。
「和香よ、嬉しいのは分かるが、いくら何でもそれは無かろうに…」
だがそうやってぼやいていても仕方が無い。
和香様の言う神様関係を知る者達となると、おそらくはあの温泉に行った者達と程イコールするのでは無いか?そんなことを考え、誰と誰と数え、指折りながら考え始めるのだった。
またまたいいねをありがとうございます
喜んでコロコンで居ります
さて作中にある「御影会」で有りますが、あくまで作者の創作であります
実際には有るものでは無いのでご容赦の程。
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そう願っています^^




