「つまみ食い」
遅くなりました
物語りを書く時、その場にいるキャラ達が、上手く化学反応を起こしてくれたりすると
本当に簡単に楽しく掛けたりもするのですが、その化学反応が起こらない時は苦しいです
修行そっちのけで三人が大笑いしていると、近くに誰かがやって来た気配がする。
すわ何者と見てみると、それはこの隔絶した地の主、文殊の爺様なのだった。
「皆元気そうじゃな?」
そう言いながら爺様は、その場に居る者達のことを見回している。
飄々としてどこか人を食ったところのある爺様なのだが、令子を見るや早速に歩み寄り、懐から取り出した菓子を与えようとする。
「あのう、爺様?私はこう見えて成りは小さくとも、中味は大人なんですが?」
そう言いつつも、菓子を受け取りながら困ったような顔をする令子。
恐らくその様子が爺様に受けたのだろう。
「がははは」
と笑うと確りとその頭を撫で付ける。
爺様のこと、令子の事情など既にとっくの昔にお見通しなのである。
「そうは言うが休み明けより、小学校とやらに通うことを決したんじゃろ?」
爺様の口からそのことを聞いた令子が大きく目を見開く。
「どうして爺様がそれを?」
雨子様や祐二が伝えたのかと、そちらの方を見るが、二人とも頭を横に振る。
視線を戻すと、爺様自らその種明かしをしてくれる。
「何、そなたらは知らぬかも知れぬが、たびたび節子のところに行っておるのじゃ。その時に何かと世間話を繰り広げて居るのじゃよ」
爺様の言葉に、不思議そうに今度は雨子様が尋ねる。
「爺様、一体何故斯様に節子のところに足繁く通って居るのじゃ?」
すると爺様はにやにやと笑いながら一言。
「それは決まって居ろうが、節子の作る料理は絶品じゃからな?」
「「ぷぅ」」
思わず失笑してしまう祐二と令子。一方雨子様は、やれやれと頭を振っている。
「爺様ともあろう者が、節子に食べ物をせびって居るとは思わなんだわ」
だが爺様にとって雨子様のその程度の言葉は何する物ぞ。
「確かにせびっては居るが、その分ちゃんと収めても居るぞ?」
「収める?」
雨子様が不思議そうな顔をして爺様のことを見つめる。
「何を収めて居ると言うのじゃ?」
この辺り、雨子様はもう純粋な好奇心の塊となっている。
「うむ、少し前に雨子、カマスの焼き物を美味い美味いと、ご飯を三杯も食べてはおらなんだかの?」
いきなり爺様にそんなことを言われたものだから、顔を真っ赤にしてしまう雨子様。
「じ、爺様?一体何故、爺様がその様なことを知って居るのじゃ?」
そうやって焦っている雨子様なのだが、祐二と令子はその場に居ただけに、さして目新しい情報では無い。がしかし何故、爺様がそのことを知っていたかなのだ。
「何、節子が言うて居ったわ。あれだけ美味しいカマスなら当然よと」
さすがの雨子様も、節子からの伝聞がそう言う形であるならばと、何も文句を言うことが出来無い。だが不思議に思う雨子様、何故にカマスなのだと。
「爺様、ちと尋ねるがどうしてそこでカマスがキーワードになって居るのじゃ?」
そう言う雨子様に、爺様が呆れたように言う。
「何を言うて居るのじゃ?儂がそのカマスを節子に収めたからこその話では無いか」
そこで始めて納得の行った雨子様が言う。
「何とあのカマス、爺様が節子に渡したものなのかや?」
「だからそうじゃと言うて居るじゃろ?因みに今日はおそらくスズキづくしじゃぞ?今節子に渡してきた帰りじゃからな」
余談となるが吉村家の面々は皆魚好き、それは雨子様を含めての話しなのだが、最近美味しい魚料理が屡々食卓に現れるので、皆大喜びしていたところなのだった。
「そうか、ここ暫く魚料理が増えたのは爺様のお陰だったのか」
そう独り言ちすると期待感に溢れた表情になる祐二。
だがふと疑問が思い浮かんだ祐二は爺様に尋ねてみる。
「でも爺様、その割には爺様のお姿を家では見ていないように思うのですが…」
そう言う祐二に爺様は少し得意げに言う。
「何を言うて居る?料理は作り立てが美味いのがほとんどじゃろ?」
しれっとそう言う爺様の言葉に、何だかおかしいと令子が首を傾げる。
「あ~~~」
そうやって声を上げる令子に雨子様が尋ねる。
「何じゃ、どうしたと言うのじゃ?」
「成るほどそう言うことなのか…」
一人何事かを理解した令子に、もどかしげに雨子様が聞く。
「だから令子よ、何を言うて居るのじゃ?」
「あのね雨子さん、爺様ったらね、節子さんがお料理している横で、片っ端からつまみ食いをしているという訳なのよ」
令子のその言葉を聞いた雨子様は、まじまじと爺様を見つめるが、爺様と来たら全く素知らぬ顔で平気の平左衛門である。
「爺様…言うても爺様は我らの長上の一人であろ?その爺様がつまみ食いとは、ちと頂きかねるの?」
だが爺様は雨子様の意見など聞く耳を持たなかった。
「儂は当然のことながら節子の了解をもろうて居るのじゃ。渡した物でちゃんと美味しく料理が出来て居るかどうか…、そう、監督…監督して居るのじゃ」
そう嘯く爺様に、駄目だこれはと頭を振る雨子様。
そこへ祐二が苦笑しながら爺様に声を掛ける。
「ねえ爺様」
それまで黙って何も言うことの無かった祐二が口を開いたことで、少しばかり警戒の色を見せる爺様。
「何だというのじゃ祐二?」
だが祐二は穏やかな口調で話しかける。
「確かに美味しい物を食べるのは幸せなんですが、でもそうやって食べるよりも、皆で揃ってわいわい話しながら食べる方が、もっともっと何倍も美味しいのですよ?」
さすがの爺様も、そうした方が何倍も美味しいと言われて、色を変えない訳が無いのだった。
「雨子よ、それは本当なのか?」
そう問うてくる爺様に、自らの言うことを信じさせる為にも、極々真面目な顔をして話す雨子様。
「うむ、祐二の言うことは真のことじゃ。皆で楽しく会話を弾ませながら食する馳走は、何物にも勝るかと思うの」
そう言いながら、つい口元に笑みが浮かびそうになるのを、必死になって抑える雨子様。
その陰に隠れている令子は、声に出さないように、更に死にものぐるいで笑いを抑えているのだった。
「ならば今日よりつまみ食いは止めじゃ。皆と共に喰らうこととする」
そう嬉しそうに言う爺様のことを見つめながら、帰ったら直ぐにでもその旨節子に伝えようと思う祐二なのだった。
そしてこの時以降吉村家の夕食の場には、結構な割合で爺様の姿が見られるようになるのだった。
今回もまたいいねをありがとうございます
書いている時が難産であれば有るほど有りがたいなt感じております
いいね大歓迎!
この下にある☆による評価も一杯下さいませ
ブックマークもどうかよろしくお願いします
そしてそれらをきっかけに少しでも多くの方に物語りの存在を知って頂き
楽しんでもらえたらなと思っております
そう願っています^^




